表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/71

魔力測定


「……だ…………大丈夫? ルカ」


 あの水圧の中立っていられたルカは、流石と言うべきか。

 ひとまず火は消えているので声をかけてみたのだが、返事が返ってこない。


 ふとルカの足元に目をやると、焼け焦げたズボンの下から、真っ赤にただれた皮膚が見えた。



 ああ、大丈夫なはずがない。

 こんなに酷い火傷を負って。


 

 痛々しい傷を見ていられず思わず目を逸らすと、両肩をがっしりと掴まれた。


「…………お嬢! なんで魔術が使えんの!?」


 何故と言われましても。

 私はレイノルド様の真似をしただけだ。

 運良く魔術が成功したけれど、理由を聞かれてもわかるはずがない。


「何故かしらね……? それよりルカ、傷は痛まないの?」

「痛いに決まってんだろ! そんな事より今の魔術!!」


 そんな事ではないと思う。

 すぐにでも手当てをして欲しい。


 そう思うけれど、ルカは酷く興奮している。

 藍色の瞳がすぐ目の前で私を覗き込んでいる。

 もう鼻先でもつきそうな勢いだ。


 …………うん、さすがに近すぎるわね?



「こらこらこら! 近い近い!!」


 ディラン様も同じように思っていたらしく、乱暴に私からルカを引き剥がした。


「ルカの気持ちもよーーくわかるけどね、君はただの護衛だろう。適切な距離を保ちなさい!」



 ディラン様を睨み付け、ルカが小さく舌打ちをする。やっぱり態度が悪い。 


 ルカを諌めるように睨み返したと思ったら、ディラン様はこちらへ近寄ってきた。なんだかやたら目を輝かせている。その勢いで、思い切り両手で私の手を握りしめてきた。

 

 ぎゃっ、今度はディラン様の距離が近い!


「アメリア様! 先程の魔術は素晴らしかったです。レイノルド殿下にも引けを取らないのでは?」

「あ……ありがとうございます。さすがに言い過ぎだと思いますけど」


 大袈裟に褒めすぎです。

 あのレイノルド様と比べないで欲しい。

 私がこれまで、どれだけ彼に劣等感を抱かせられる羽目になったか……。何一つ適うものなど持ち合わせていない。


「いえ! 僕は魔術を目にしたのは初めてですが、あの威力は相当だと思います! マリアナージュに入学されないなんて、本当に勿体無い……!!」

「私が望んでも、そう簡単に入学出来るものでもありませんし」


 そう。

 選ばれし者しか入学出来ないのがマリアナージュ魔術学園だ。私はその権利を得ていない。


「そんなはずありません! アメリア様は入学許可証をお持ちですよね!?」

 

「………………はい?」



 どういうことか聞こうと口を開きかけた時、ルカの手がディラン様の手を払いのけた。そのままディラン様の視界から外れるよう、私を自分の背に隠してしまう。 


「そっちこそお嬢に近寄りすぎなんじゃねぇの」


 ディラン様のお顔こそ見えないが、不機嫌な声が返ってくる。


「君はただの護衛だと言ったはずだろう。態度が悪すぎるんじゃないのか。今は、僕がアメリア様と話をしているんだ」

「あんたこそただの文官だろうが」


 …………あぁ…………空気が悪い。

 この二人、仲悪かったの?


「あっ……あの! 入学許可証を私が持ってるってどういう事でしょう?」


 空気を変えるようにルカの後ろから声を上げると、ディラン様の驚いたような声が聞こえてきた。


「えっ……。お持ちですよね? 魔力測定を受けた後にマリアナージュから届いているはずでは? もう十年前の話ですけど、そんな大切なものを紛失はしないでしょう」


 魔力測定。

 それは身分に関係なく、全国民が15歳の誕生日に教会で受けるものだ。そこで一定以上の魔力があると認められれば、マリアナージュ魔術学園の入学資格が得られる。毎年数名ほどしか認められないため、非常に名誉なことだ。

 貴族であれば15~18歳まで王立学園に通い、19~20歳までマリアナージュで学ぶのが一般的だが、平民の多くは15歳ですぐにマリアナージュへ入学する。

 聖女様の存在も、この魔力測定で『聖女として』マリアナージュから入学が認められたと発表されたことで判明した。


 しかし私は、15歳の時に魔力測定を受けていない。

 どうしてだ……?


 ルカの背中をじっと眺めて考えるも、誕生日に教会に行った記憶はなかった。



 ディラン様は、十年前と言ったか。


 十年前と言えば、レイノルド様と婚約した頃。

 確か王城に、婚約者候補として伯爵家以上の令嬢が集められた。

 当時第一王子であったレイノルド様に相応しい家柄、容姿、教養、そして魔力──。



「あああっっっ!!!」

 


 思い出した!

 ぼんやりとしか覚えていないけれど、確かに十年前、婚約者候補となった令嬢全てが、特別に15歳の誕生日に先んじて魔力測定を受けた。

 つまり、そういうことだ。

 私がレイノルド様の婚約者となったのは、魔力の多さからだったのだ。

 謎が解けた!!

 どうして忘れていたんだろう。こんな理由もない限り、私が選ばれるはずがなかったのに。

 


 顔を上げると、大声に驚いたルカとディラン様が、私をじっと見ていた。慌てて笑顔で取り繕う。


「まぁ、失礼しました。お陰様で思い出しました。ありがとうございます、ディラン様」

「それは良かった。やはり、入学許可証は届いていたのですね?」

「はっ……!!」


 それだった。

 肝心の入学許可証というものを、私は見たことがない。ただの一度も、だ。


「いえ、それが……。届いていないかと。きっと私の魔力程度では、マリアナージュ入学が認められなかったのだと思います」

「まさか、そんなはずが! ……………………あ」


 ディラン様は言いかけて何かに思い当たったのか、苦虫を噛み潰したような顔をした。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ