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その求婚は謹んでお断りします、王太子殿下  作者: 玖珠ゆら


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『災厄』の後で2


 ノアに加え、学園長室の前で待っていたルカと三人で、シャパル王国との国境側のマリアナージュの森入り口へやって来た。

 そこには、何故かテオドール様が居た。

 笑顔のテオドール様と対照的に、ルカがあからさまに顔を顰める。


 

「テオドール様……? どうしてこちらに?」

「見送りにね」


 テオドール様は、レイノルド様とそれ程仲良しには見えなかったので、お見送りをしたいなんて少し意外だ。

 それに、あえてここで私を待つ必要もなかった気がするが……。


 不思議に思いながらも、並んで森へと足を踏み入れた。

 生い茂る木々の隙間から陽の光が差し込んで、風に葉っぱが揺れるたび、足元の影が形を変える。刻々と形を変える影を踏みしめながら先を急ぐ。



「聞いたよ。君がマリアナージュを救ったと」

「…………誰に聞いたんですか」


 歩きながら楽しそうに話すテオドール様を横目で見た。

 随分な事実誤認である。


「もちろん学園長先生だよ。ディアナ王国王族として、『災厄』の顛末については知っておくべき立場だからな」

「救ったのは、ほとんどノアとエリーの力です」

「いいえ。姫君がお持ちの膨大な魔力と、理を捻じ曲げた強引さの賜物でございます」


 ノアが面倒なところで口を挟んでくる。

 私を褒めたつもりだろうが、なんて素直に喜べない言い回しなんだろう。

 彼は私のことを、未だ傲慢で我儘な皇女と重ねて見ている。 


 テオドール様がノアを無遠慮に見て、興味深そうに笑った。

 

「『災厄』をも手懐けてしまうなんて、君はやっぱり面白いな」


 何としても私を面白い女に仕立て上げたいらしい。いい加減にして欲しい。


 

「俺は本当に、君には他の女性にない特別なものを感じていたんだよ」

「思い違いでしょう。物珍しいものと愛するものは、全くの別物です」 

「そうかなぁ。残念だよ。もっと君のことを良く知ってから答えを出したかった」

「……まぁ。それでは、何か答えが出たのですか?」

「そうだな。君にフラれたという事実だけだ。正確に言えば、俺の実験は強制終了させられた」

「………………」


 テオドール様の言葉の意味はいまいち理解出来なかったが、例の愛が生まれるかどうかという謎の実験が終了したということのようなので、黙っておくことにした。

 変な実験に巻き込まれる面倒は御免である。


「そういえば、貸しを返してもらっていないな。最後に何かお願いしてもいい?」

「はい、私に出来ることでしたら」

「そうだなぁ……。いつかまたパーティーで会ったら、ダンスの相手を頼むよ」

「そんなことでよろしいのでしたら是非、喜んで」


 予想外に些細なお願いにほっとして頷くと、ノアが眉を顰め、間に割って入って来た。


「姫君。この手の男と安易に約束などしてはいけません。簡単な要求と見せかけて、裏があるかもしれません」

「酷いな、君は。俺を何だと思ってる?」

  

「どっちにしろ、殿下が自分以外の男とお嬢がダンスなんて、許すわけねーだろ」


 ルカまでが、ノアに倣って私とテオドール様の間に割り込んできた。

 私の姿を隠すように立ち塞がり、睨みをきかせるノアとルカに、テオドール様はいよいよ諦めたように肩を竦めた。

 

「まったく……いつも邪魔が入る。最後の最後までこうなんだから、損な役回りだな、俺は」


 


 マリアナージュの森を抜けると、すぐにシャパル王国の国旗を掲げた馬車と馬、そして多くの騎士たちの姿が目に入った。

 静かだった森とは全くの別世界のように、そこには賑やかで活気溢れる雰囲気が漂っている。



「アメリア嬢!」


 一番に私に気付き声をかけてくれたのは、ヒューゴ様だ。


「お久しぶりです、ヒューゴ様。お元気そうですね」


 にこやかに挨拶を交わしていると、すぐにディラン様とレイノルド様が顔を見せた。

 ディラン様の顔色はあまり良くない。私を見て、慌てて駆け寄ってきた。


「アメリア様……! その……殿下が突然押しかけて、大変驚かれたことと思いますけど……!」

「ええ、とても」

「すみません!! いつもいつも殿下はアメリア様のお気持ちを無視して……! 僕もまさか、マリアナージュまで追いかけて行くなんて思いもしなかったんですよ! アメリア様の学園生活を邪魔するなんて、殿下の異常なまでの執念が本当にご迷惑を」

「ディラン。お前は私がリアに嫌われるよう仕向けたいのか?」

「はい!? 逆ですよ! 僕は殿下のためを思って、かわりにアメリア様に謝罪してるんですからね!?」

「だとしたらそれは無用だ。口を噤んでおけ」


 

 レイノルド様とディラン様の気安いやり取りを聞いていると、レイノルド様から求婚されたあの日のことが思い出される。

 なんだか無性に母国が恋しくなった。

 私にとっては両親を失ってから、最も長い時間を過ごしていた王城で交流していた人たちこそが、一番家族に近い存在となっているのかもしれない。


 まだ心配そうにこちらを窺っているディラン様が安心するよう、にっこりと微笑みかけた。

 

「レイノルド様が来てくださって、とても嬉しかったです。もちろん、ディラン様やヒューゴ様と再会出来たことも。長期休暇はもうすぐですが、今お別れしなければならないのは、やはり寂しいですね」

 

「俺もだ、アメリア嬢。王城であなたの姿が見られないのは寂しいものだ」

「なんでヒューゴが答えるんですか! 僕もアメリア様とお別れは辛いです!」

「お前たち、もういい。下がってろ」


 レイノルド様のひと睨みで、ヒューゴ様とディラン様は頭を下げ、素直に数歩後ろに下がった。

 


「あの二人に邪魔されては、ゆっくり話も出来ないよ。リア、用は済ませてきた?」

「はい、お待たせしてすみませんでした。レイノルド様はもう、すぐに王城へ向かわれるのですよね?」

「そうだね。予定はかなりずれたし、色々とあったから、帰ったら忙しくなりそうだよ」

「……そうですよね……」


 どうしよう。どんな言葉をかければいいのかわからない。

 …………寂しい。

 その気持ちでいっぱいすぎる。下手に何か言って別れの挨拶に繋がれば、本当にお別れになってしまう。


 

「リアと離れるのは辛いな。本当は帰りたくないんだけど」

「私もです。一緒に帰りたいとさえ思っています」

「そう……良かった。じゃあおいでよ」

「………………はい?」


 まるでお茶にでも誘うような物言いだ。

 しかし行き先はシャパル王国である。そんな軽い感じで言う内容ではない。

 


「覚えているかな? 君は力不足を解消するために、魔術学園へ入学すると言ったことを」

「もちろんです。レイノルド様とのお約束を忘れたことなどありません」

「めでたくそれが解消されたことに、気付いていないの?」


 力不足が、解消された……?

 いや、いつの間に? 


「今日、正式にマリアナージュから各国へ通達されることになっている。聖女エリーとアメリアの魔術によって、長年恐れられていた『災厄』を完全消滅させた。この先、二度と『災厄』の脅威に大陸が晒されることはない、と」


「…………え……えええっ!?」


 

 確かに『災厄』はもう存在しない。

 だからといって、真実をありのままに公表すれば混乱を招く。そういった配慮や、もしくは何らかの策略のもとに、事実が湾曲解釈され公表されるというのは、ままあることだ。

 が、しかし。

  

 聖女であるエリーはともかく。

 何故私の名まで入っている!?それを大陸各国に通達するなんて!

 メイソン先生がご乱心だ!! 


 

「君は世界を救ったんだよ? こんなに名誉なことはないよね。君がシャパル王国の未来の王妃になるとして、誰がそれに異議を唱える? 全国民に祝福されるに違いないよ」


 レイノルド様が私の手をそっととり、優しく口付けた。

 そんな仕草がこれ程似合う人を、私は知らない。

 

 触れた先から、全身に熱が駆け巡る。

 私の手元から目線を上げる彼の瞳と視線がぶつかると、その優艷さに目眩がした。

 


「だから、ねぇリア。私と結婚しよう」

 

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