緊急会合2
サミュエル・ポーターの帰還────。
レイノルド様が危惧していた、正にそれだ。
レイノルド様は顔色ひとつ変えずに黙ったままだが、メイソン先生は僅かに目を見開いた後、眉根を寄せ、グレースに確認する。
「それは……本当か?」
「ええ。でも有り得ませんわ、そんなこと」
「そうかな?」
そう言ったのは、レイノルド様だ。
「不可能ではないと思うよ。彼にはマリアナージュ内に、熱心な崇拝者が居ることも証明されたんだから。方法はある。例えば……ピアスを手に入れる、とかね」
「…………ピアス?」
そうだ。
マリアナージュ内にいる誰かの魔石のピアスを手にすれば、結界は通れるのだ。課題のために、勉強して得た知識だった。
背中に、ざわりと嫌な感覚が走る。
「それこそ有り得ないわ! ピアスがなければ、魔術師として役に立たないじゃないの。もちろんハンナだって、ピアスをしていたわよ」
「それだと、ピアスを持っていなければ、真っ先に疑われるってことになりませんか? リスクが大きいです。大体魔術師でピアスをしてない人がいれば、絶対騒ぎになりますよ。ボクはそんな話、聞いてませんし」
「…………いや」
グレースとリロイのやり取りを聞いていたメイソン先生が、絞り出すように呟いた。
酷く顔色が悪い。
恐らく、私とメイソン先生の考えていることは同じだ。
「魔術学園の生徒に、ピアスを紛失した者がいる」
メイソン先生の言葉に、グレースとリロイが目を見張った。
「なんですって……!?」
「じゃあその生徒が、危険思想者の仲間ということでしょうか? ボクとアメリアは、あのハンナって人の他に、風魔術の使い手にも襲われているんです。もしかして、それが……」
「違います! シリルではありません」
思わず口を挟んだ。
シリルはいけ好かない男ではあるが、人に危害を加えるようなことはしない。
レイノルド様が、私の顔を覗き込む。
「ピアスを紛失したのは、シリル・エデル?」
「そうです、けど……。シリルの魔術属性は土ですし、ピアスをなくした時、私が盗ったものと疑って魔力暴発を起こしかけたので、故意ではないはずです」
「アメリアの言う通り、シリル・エデルが危険思想者であるとは考えにくい。ただしそのピアスが、何らかの形でサミュエル・ポーターの手に渡っている可能性はあるな」
メイソン先生がそう言うと、俯いて考え込んでいたリロイが口を開いた。
「じゃあやっぱり、学生が関わってると考えて良さそうですよね。確か……以前、教会の結界を破ったのも、魔術学園の生徒ですよね? それも、風属性魔術で」
それはルカのことだ。
いい加減にして欲しい。
「ルカは絶対違いますから!! 私もその時、一緒に居たので確かです」
「……ふぅん? よりにもよって、私のルカのせいにしたんだ?」
面白くなさそうにレイノルド様が呟いた。
信頼を寄せる護衛が疑われているのだ。気に入らないのも当然だ。
メイソン先生が、今度ははっきり驚いたような顔をした。
「…………お前のなのか、ルカは?」
「そうですが? ルカがあの教会を狙うことは、絶対にないと言える」
レイノルド様が断言すると、誰も意義を申し立てることはなかった。
なんという信頼の厚さ。マリアナージュに来てからというもの、全く言い分を聞いてもらえない私とは大違いだ。
「アメリア。随分話が逸れてしまったが、お前を呼び出したのは、昨夜あったことについて聞きたかったからだ。リロイからも聞いてはいるが、お前が見たものを教えて欲しい」
メイソン先生にそう問われ、困り果てた。
私は完全に巻き込まれただけで、リロイ以上の情報など、ひとつも持ってはいない。
「申し訳ありませんが、ご期待に添えず……。私が見た時には既に教会の周りは燃えていましたし、その後はリロイが助けてくれただけなのです。風魔術に襲われた時も、背後からでしたし、暗かったので人影も何も見えなくて……」
昨夜の記憶を辿っているうち、教会の中で見たものを鮮明に思い出した。
肌も髪も真っ白な男性──。
男の人を美しいと思ったのは、レイノルド様に次いで二人目だ。
あの石の中に閉じ込められた男性は、一体何だったのか────。
「……リア? どうしたの?」
「レイノルド様……」
「何か、見た?」
レイノルド様の青い瞳を見ていたら、確かめてみたくなった。
この方ならば、私の話をちゃんと聞いてくれるはずだと、そう確信しているから。
「教会の中に、人がいました。あの人は……『災厄』やその結界と、関係があるんですよね?」
しかし私の発言は、その場の空気を凍りつかせた。レイノルド様ばかりでなく、メイソン先生や、グレース、リロイまでも顔色が変わる。
やっぱり聞かない方が良かったかもしれない。
知ってはいけない『災厄』の秘密に、大いに関係あったに違いない。
激しい後悔に襲われるが、レイノルド様は一瞬でその顔に笑みを取り戻した。
「ねぇ、リア」
優しい声音と笑顔に、ほっとする。
しかし、続くレイノルド様の言葉に青ざめることとなった。
「『災厄』の秘密を……誰から聞いたの?」
「あっ……!」
しまった。
そもそも教会が『災厄』と関係あるなんて、誰も言及していなかった。
こっそりメイソン先生の様子を窺うと、これ以上ない程に眉間に皺を寄せている。
絶対言っちゃいけないやつだった……!!
そして私のその些細な仕草を見逃す程、レイノルド様は鈍いお方ではなかった。
「……そう。わかったよ。でもね、リア」
顎をそっと掴まれた。
迫るその顔に、暴力的なまでに溢れ出るレイノルド様の色気。
こんな状況でも、熱に浮かされたようにされてしまう。反則だと思う。
「君はこれ以上知らなくていいよ。昨夜見たものは、全て忘れるように」




