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その求婚は謹んでお断りします、王太子殿下  作者: 玖珠ゆら


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緊急会合


 ────学園長室。

 魔術学園に、その長である学園長先生の部屋があるのは至極当然と言えるが、図書館二階にあるあの小部屋ばかり訪れていた私には、違和感しかない。


 リロイがその重厚な扉を叩き、開く。

 レイノルド様と私はルカをその場に残し、リロイに続いて部屋へと足を踏み入れた。


 室内はとても広い。

 応接用の大きなテーブルの前に、メイソン先生が座っている。

 


「アメリア……!」


 メイソン先生が私の姿を確認して立ち上がった。


「怪我は、ないようだな……」

「はい。リロイと、レイノルド様に助けていただきましたので」

「レイノルド・ルーファス……」


 メイソン先生がレイノルド様を苦々しい顔で見た。


「お前……俺を半ば脅迫のようにゾイドに呼びつけておいて、黙って居なくなるとはどういうつもりだ」

「その節はどうも。お陰様でゾイド王家の協力が得られましたね」

「そもそもお前、どうやってマリアナージュに侵入した?」


 あ。それ、私もとっても気になっていました。


「侵入なんて物騒な言い回しはやめていただけますか、学園長先生? 普通に入って来ただけなのに」

「普通に入れないようにするために結界があるんだ。……お前、まさか」

 

「メイソン様がお察しの通り、レイノルドには半年前、マリアナージュの結界を張る時に手伝ってもらいました」


 答えをくれたのはリロイだった。

 無表情のまま物凄いことを暴露している。

 メイソン先生の表情が、はっきりと怒りに染まった。

 

「赤星塔の責任者として、部外者に結界を張らせるなんてあってはならないことだ……!」

「レイノルドほど繊細で緻密な結界を張れる人間はいません。それにレイノルドは卒業した今、部外者ではありますが、マリアナージュや大陸各国を危険に晒すような真似は絶対にしません。危険思想の持ち主では有り得ないことくらい、メイソン様だってわかっているでしょう」

「……しかし」

「それに、今回はレイノルドのお陰で危険思想者から教会が守られたんです。どうか大目に見てください」


 メイソン先生が、手を額に当て大きな溜め息をつく。

 先生のお怒りはごもっともかもしれないが、レイノルド様が来てくれなければ私もどうなっていたかわからない。

 リロイに全面的に同意だ。


 メイソン先生もまた、観念したように顔を上げた。


「確かに、お前が来てくれて助かった。アメリアを守ってくれたこと、感謝する」

「へぇ……? 学園長先生が一人の生徒に肩入れするような発言をするなんて、珍しいですね」

「……そんなつもりはないが」


 思っていたより、この二人は仲良しという訳でもなさそうだった。二人の間に火花でも飛んでそうに見えるのは、気のせいだろうか。


  

 メイソン先生に促され、先生と向かい合う形で三人揃って席に着く。レイノルド様が当然のように私のすぐ隣に座ったのを見て、メイソン先生が眉を顰めた。


「……お前たちは、知り合いだったのか?」

「ええと……はい……」

「以前話していた、シャパル王国の10年来の友人というやつか?」

「へぇ……。友人? 私と、リアが?」


 呟くようにそう言った笑顔のレイノルド様の目が笑っていない。絶対に怒っている……!

 常日頃、メイソン先生との会話で生返事をしていたことが悔やまれる。

 メイソン先生もレイノルド様もすこぶる機嫌が悪い。空気が重い。誰か助けて欲しい。


 

 そんな私の心の叫びが届いたのか、室内にノックの音が響いた。


 扉を開けて現れたのは、顔立ちも服装もやたら派手な美女だ。

 彼女は入って来るなり、メイソン先生に向かって頭を下げた。


「メイソン様。お留守の間に我が白星塔の職員が問題を起こし、大変申し訳ありませんでした」

「……ああ。聞き取りはもう終わったのか?」

「それがあのクソアマ、ちっとも口を割らなくて……」


 一瞬で口が悪くなった美女が、こちらを見る。

 そして大きく目を見開いた。

 

「レイノルドっっ!!」

 

 美女はその赤い髪を靡かせてレイノルド様に思い切り抱き着いた。


「嬉しい! 戻って来てくれたのね?」



 いや、待って。

 レイノルド様に抱き着くとは何事だ。


 これまでにも女性に囲まれているのは何度となく目撃してきたけれど、相手は貴族令嬢ばかりであり、彼は一国の王太子殿下である。気安く体に触れる者など一人もいなかった。

 マリアナージュでは、そんな常識も通用しないのか。


 レイノルド様はというと、全く平気な顔をしている。


「久しぶりだね、グレース」

「相変わらず素敵ね! レイノルド、愛してるわ! ずっとあなたに会いたかった」


 美女が愛を告白した。


 正直、今すぐにでもどういう関係ですかと問い詰めたい。

 …………落ち着け、私。レイノルド様を全面的に信じると誓ったはずだ。


「私も会いたかったよ」


 そう言いながらレイノルド様は、美女の体を優しく剥がし、私に向き直った。

 

「リア、この人はグレース。白星塔トップの魔術師だよ。学園の先生よりも遥かに高度な魔術を教えてくれた、私にとっては師匠みたいなものかな?」

「まぁ! この方が……。塔のトップって、若い方ばかりなのですか?」

「まさか。黒星塔トップのヴァンスは37歳だよ。グレースだって、学園長先生より15も年上だし」

「えっ」


 メイソン先生は30歳のはずだ。

 そんな馬鹿な。どう見てもこの美女は20代にしか見えない。


「ちょっと、レイノルド。女性の年齢を簡単に暴露するなんて、紳士に有るまじき行為だわ!」

「そんなことより、グレース。ハンナに問題を起こさせた責任は、どう取るつもり?」

「はぁっ!?」


 グレースが目を見張った。酷く驚いているようだ。

 そんなグレースを、レイノルド様はぞくりとする程冷たい瞳で見据えていた。

 

「ハンナは白星塔の幹部だよね? そんな人が危険思想者だったなんて、塔のトップとして君の監督不行届としか言い様がないよ」

「れ……レイノルド……? もしかして、怒ってる? 確かに責任は感じているけど、あなたらしくないわ……。誰かを責めるなんて」

「怒るよ。他でもないリアが危険な目に遭ったんだから」


 そう言い、レイノルド様が私の体を引き寄せた。


 待って。私を話の中心にしないで欲しい。

 グレースが私を思い切り睨みつける。美女が凄むと迫力がある。怖い。

 そしてそれ以上に、レイノルド様の冷え冷えとした目が怖い。彼の口調は優しいのに、纏う空気が殺伐としている。威圧感は桁違いである。


 温厚で、誰かのミスも笑ってフォローするような方だったはずだが、今日のレイノルド様はやたら虫の居所が悪い。見ている私の背筋が凍りそうなんですけど。

 

 

「…………レイノルド。責任問題は、お前が口を出す話ではない」


 メイソン先生が割って入ってきた。

 レイノルド様はその瞳をすっと細めたけれど、何も言わない。メイソン先生の言う通りだからだろう。

 メイソン先生が、今度はグレースに視線を向ける。

 

「グレース。ハンナは、本当に何も話していないのか?」

「ええ、何も。……そういえば、おかしなことを言ってましたわ」

「おかしなこととは?」


「サミュエル・ポーターが、マリアナージュに帰還した、と」

 

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