目が覚めたら2
「レイノルド、探しましたよ。というか、みんな探してます」
学園前に立っていたのは、紫髪の少年だった。
腕には包帯が巻かれ、首から三角巾で吊るしている。竜巻に吹っ飛ばされた際に骨が折れたに違いない。
「あ、リロイ。痛そうだね、それ。身を呈してリアを守ってくれてありがとう」
「そんなつもりはなかったんですけど……。その人、知らない人ですし、たまたまです」
「知り合いじゃなかったの? あの場で倒れていたのはリアの他には君だけだったから、てっきり君たちは仲がいいのかと思ったよ」
レイノルド様が不思議そうな顔をしているが、不思議なのはこっちだ。
赤星塔の方とお知り合いになるきっかけなんて、学生にはないのだから。
「じゃあ、紹介するよ。彼女はアメリア。私の大切な人だよ」
「レイノルドって博愛主義ですもんね。大切な人、何人いるんですか」
「アメリアは特別だよ。リア、この話のわからない男が、赤星塔トップのリロイ。塔の代表って、変人ばかりなんだよね」
「赤星塔…………トップ……?」
凄いとは思っていたが、とんでもない立場の人だった。
どう見ても、私とそう歳の変わらない少年なのだが……。
そんな私の心の声が聞こえたのか、レイノルド様は更に続けて説明してくれた。
「リロイはリアと歳は同じだよ。ディアナ王国の貴族でありながら、15歳で魔術学園に入学した変わり者なんだよ。卒業後入塔して、一年足らずで塔のトップに選ばれた天才でもある」
「まぁ! 凄い方だったんですね! 昨夜は助けていただいてありがとうございました、リロイ様」
この二人は学年こそ違えど、一年だけ同じ校舎で学んでいたということだ。知り合いだったのも納得だ。
「…………リロイでいいです。その呼び方、苦手なんです。貴族っぽくて。それでキミは、何者ですか?」
「何者、とは……? ただの平民ですが」
「そんなはずないです。ボクはその魔道具を知ってます。黒星塔トップのヴァンスさんが一年かけて開発したものです。大量生産出来ませんし、値段がつけられない程価値があります。そんなの持ってるなんて、只者ではないでしょう」
「魔道具?」
そんなもの持っていない。一体何の話だ。
答えない私に、リロイは少し苛立った様子を見せる。
「竜巻に襲われた時、結界が発動してキミを守ってくれたでしょう」
リロイの言うように、あの時私は竜巻に巻き込まれることはなかった。
そしてレイノルド様からプレゼントされた髪飾りの石が、割れてしまったのだ。まるで守ってくれたようだと、そう思った。
……もしかしなくても…………。
ちらりと窺うように見上げれば、レイノルド様が隙のない笑顔を見せた。
「そう。上手く発動したなら良かった。ヴァンスに会ったら、伝えておいてくれる? この魔道具、素晴らしい出来だったと」
レイノルド様の言葉に、ずっとほぼ無表情だったリロイの顔が引き攣った。
「まさかその魔道具開発、レイノルドが噛んでたんですか。道理でやたら見覚えのある緻密な結界が発動すると思ったんですよ……!」
「私が魔石に力を込めたからね。でももう魔石がなくなっているから、効果は一度きりだったようだ。新しいのを頼んでおいてくれるかな?」
「そんな簡単に……。ヴァンスさん泣きますよ……」
なんだかとんでもない代物をプレゼントされていたようです。
そんなものを何も言わずにさらっと渡すなんて、なんてことをしてくれるんだ、この方は……。
「それで? 用は何かな? これから着替えを済ませたいし、朝食もまだなんだけど」
レイノルド様の言葉に、リロイは大事なことを思い出したと言いたげに姿勢を正した。
「レイノルド、アメリア。メイソン様がお戻りになりました。話を聞きたいそうです」
私とレイノルド様は、顔を見合わせる。
「後でいい? リアとゆっくり朝食を食べてから」
「メイソン様をお待たせしていい訳ないじゃないですか。さっさと準備してください。レイノルドの着替えは、ボクが準備しましょう」
「お腹を空かせたリアが可哀想だ」
「私は大丈夫です! むしろ寝起きで、まだ食べられそうにありません」
慌てて口を挟む。
リロイの口ぶりから、一国の王太子殿下よりもマリアナージュ魔術学園長の方が、立場は上だと思われた。
よくよく考えたら、当然である。
メイソン先生のその学園長という立場は、どの国も逆らえないマリアナージュの代表でもあるのだから。
恐ろしい……。私は本来権力に弱いのだ。
これまでのメイソン先生への態度を思い返し、ちょっと震えた。
早くしろとリロイに急かされ、レイノルド様はようやく私の体をおろしてくれた。
さすがマリアナージュ。ここでは彼も、ただの元学生扱いだ。
「仕方ないな……。じゃあ私は赤星塔で着替えを借りるから、その後一緒に学園長先生のところへ行こうか。ルカ、リアを頼んだよ」
「はい」
ルカのいい返事を聞いて、レイノルド様はリロイと共に塔へと向かって行った。
ルカと二人、ぼんやりとその姿を見送る。
レイノルド様がマリアナージュに居るという事実は、現実感がなくてまだ夢を見ているようだ。
「…………ねぇルカ。あれは、本当に本物のレイノルド様よね……?」
「逆に、他の誰に見えたわけ?」
「うっ……。そうよね……。だって信じられないのよ。レイノルド様がここに居るなんて」
ルカが一際大きな溜め息をつく。
遠い目をして、恐ろしいことを言ってのけた。
「オレ、殿下を舐めてた。この世界中どこに逃げたって、殿下の手が届かない場所なんてないのかも」




