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その求婚は謹んでお断りします、王太子殿下  作者: 玖珠ゆら


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目が覚めたら


「おはよう、リア」


 ……夢じゃなかった……?


 起きたら、目の前にはやっぱりレイノルド様が居た。そんな馬鹿な。


 

 陽が昇り、部屋の中には明るい朝日が差し込んでいる。

 その光の中で微笑むレイノルド様は、やたら神々しくて眩しい。



 どこまでが夢なのかわからなくなるけれど、私の制服は泥だらけの上に、それが乾き切って酷い有様となっている。

 呆然とする私に、レイノルド様が困ったように笑った。


「ごめんね? さすがに、眠るリアを勝手に着替えさせる訳にもいかなくて、そのままにしてた。寮まで送るから、部屋に戻って着替えようか? 新しい制服も用意するよ」

「いえ、制服の替えはあります。って、そうじゃなくて……」


  

 そこまで言って、はっとして口を噤んだ。

 レイノルド様のお召し物までにも、泥がこびり付いている!


「レイ様っ、 その汚れは……!」

「ああ、これ? リアを抱き抱えて運んだから、ついたんじゃないかな?」

「いけません! すぐにお召し替えをなさってください」

「そうだね。行こうか」


 ご機嫌なレイノルド様に連れられて、部屋を出る。

 この不可思議な状況について、大事なことを何も聞けていないという自覚はある。

 レイノルド様といると、私はやっぱりそのペースに飲まれてばかりだ。


 

 医務室から出ると、その扉の目の前にルカが立っていた。

 なんだか随分疲れた顔をしている。


「まぁ! ルカ! どうしてここに?」

「…………見張りを」

「見張り? どうして? いつから?」

「誰も通さないようにという命令だったから、昨夜から」

「…………えっ。それって」


 一晩中ここで突っ立っていたとするなら、疲れていて当然だ。

 そして、ルカが命令されてそれを素直に実行すべき相手など、ここには一人しかいない。


 傍らのレイノルド様を見上げると、美しいのお手本のような完璧な笑みを見せた。


 あ。これは、何言っても無駄なやつだ……。有無を言わせる気がないやつだ……。

 心からルカに同情した。

  

「ルカ、悪かったわ。すぐに戻ると置いて行ったのに遅くなって、おまけにトラブルに巻き込まれてしまったわ。心配かけたわね」

「いや……。オレの方こそ、お嬢から離れるべきじゃなかった」


 ルカが深刻な顔をして俯いている。

 ルカには何の責任もないのに、罪悪感を抱かせてしまった……。なんて可哀想なことをしてしまったんだろう。


 何と声を掛けようか思案していると、突然体がふわりと浮いた。


「ひゃあ!?」


 レイノルド様に抱きかかえられていた。何故だ。


「れっ……れれレイ様!?」

「体が心配だから、このまま寮まで連れて行ってあげる」

「ぐっすり寝たし歩けますけど!」

「遠慮しないで。昨夜もこうして私が運んだんだよ?」


 至近距離で微笑まれて、呼吸の仕方を忘れた。息が苦しい。その美貌に殺される。


 

 私は相当長い時間眠りこけていたようで、廊下に人は見当たらず、既に授業中と思われた。

 

 学園内の廊下を颯爽と歩き始めたレイノルド様の後ろを、ルカが無言でついてくる。真顔でこっちを見ないで欲しい。

 視線で助けを求めるも、思い切り目を逸らされた。こんな時、王家の犬は全く役に立たない。


 

「レイ様。おろしてください。やっぱり私……」

「リア」


 身を捩ろうとすると、耳元に口を寄せられた。


「君の耳にも入れておくべき話があるから、このまま聞いてくれる?」


 真剣な声音と顰めるような声に、動きを止めた。


「元イルヴァーナ家執事長は、やはりゾイド王国に逃亡していたことがわかったよ」

「し……執事長?」


 ここに来て、イルヴァーナ伯爵家の話が出てくるとは……。頭は混乱するばかりだ。


「そう。彼を操っていたと思われる男も見つかった。だからゾイド王家にその先の調査を依頼したんだが、協力を得られなかった。自国民が聖女の暗殺を目論んだなんて、認められなかったんだろうね」

「まぁ……。それなのに何故、レイ様が自らゾイド王国に?」

「マリアナージュ代表である学園長先生を引っ張り出して、直接ゾイド王国に行けば、動かざるを得ないと思って。どこの国も、マリアナージュを敵にまわしては、国が立ち行かないからね」


 確かにシャパル王国王太子とマリアナージュの代表が揃って顔を出せば、知らないふりなど出来ないだろう。

 レイノルド様の言う通り、マリアナージュには誰であろうと逆らえない。聖女暗殺なんて大事件、マリアナージュが口を出してきた以上、国を上げて隠すよりも調査に協力する方が、後々問題にならないと踏んだのだろう。

 


「メイソン先生は、国同士のやり取りにも手を貸してくださっているのですね……」

「そんなことないよ。争いの元になるから、マリアナージュの外のことには、絶対に干渉しない」

「えっ。でも……」

「今回は例外。何しろ、その男というのが、元白星塔の魔術師だったから」

「……!」 



 聖女の暗殺を目論んだ、元白星塔魔術師……。


 先日のテオドール様の話が頭に浮かんだ。もしかして……。


「それって、危険思想者……という人ですか?」

「…………リア。よく知っているね」


 レイノルド様が、驚いたように目を見開いた。

 やっぱりそうだった……。


「サミュエル・ポーターという男だ。君の言う通り、『災厄』を恐れない、むしろ望むような言動をして他の魔術師をも惑わせたと聞いている。もっとも、彼だという確証はないんだけれど」

「……サミュエル・ポーター……」


 その名を、どこかで聞いた気がする。

 どこで……?


「っ! レイ様! その名前、私知っています」

「本当に?」

「叔父が交わした契約書に、書かれていた名前です」

「…………そう。ありがとう、リア。これでサミュエル・ポーターで間違いないとわかったよ。実はゾイド王家の調査でも、彼の行方がわからなくなっている」


 サミュエル・ポーターが捕まりさえすれば、聖女暗殺事件は解決するはずなのに……。

 叔父が何も知らなかったということも、証言が得られるかもしれない。


 

「私は、サミュエル・ポーターがマリアナージュに来ている可能性があると思っている」

「まさか……!」


 そんなことは不可能だ。


 ……いや、でも待って。

 マリアナージュに入れるはずのない人が一人、今目の前にいる……。

  

「学園長先生にもそう伝えたんだけど、有り得ないと相手にしてもらえなかった。私の考え過ぎならいいんだけど、マリアナージュに学園長先生不在の状況をつくってしまったし、どうしても気になって、先生を置いて先に様子を見に来てしまった」

「お……置いてきてしまったのですか……ゾイドに?」

「マリアナージュにはリアが居るからね。万一の事があったらと思ったら、いても立っても居られなかった」


 レイノルド様がマリアナージュへやって来た経緯はわかった。わかったけれども……。


 ──それ、わざわざこの体勢で話す必要ありました!?



 不本意ながら抱きかかえられるままに学園の正面玄関から出ると、そこには見覚えのある人物が立っていた。


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