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その求婚は謹んでお断りします、王太子殿下  作者: 玖珠ゆら


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ペア学習はあなたと5


 振り返って見ると、薄紫色の髪の少年が立っていた。

 私たちとそう歳は変わらないように見えるが、制服を着ていないので、魔術学園の学生ではないようだ。

 よく見ると彼の胸元には、結界維持管理専門の赤星塔職員の証である赤色の星がついたバッジが輝いている。


 私と同じくそれに気付いたシリルが、大きな声をあげた。 


「あっ……! 貴方様はもしや、赤星塔の方ではないだろうか!?」

「……そうですけど、それが?」


 紫髪の少年の答えを聞いたシリルが、興奮しきりといった様子で顔を赤らめる。

 憧れの赤星塔職員と会えて嬉しいのだろう。意外と可愛いところもあるものだ。


「お会いできて光栄です! 我々は結界について課題をまとめているところなのですが、良ければお話を伺えないだろうか!?」

「お断りします。なんでボクがそんな面倒なことに付き合わなければいけないんですか」


 すっぱりと断られたシリルが、がっくりと項垂れる。

 私も残念だ。こんな機会は滅多にないだろう。


 しかし紫髪の少年はずっと無表情で、冷ややかな目を私たちを向けている。


「…………。結界を調べるために、ここに来たんですか? キミたちはまさか……」


 紫髪の少年は、何かを確かめるようにじっと私たち三人の目を見て、言った。


  

「危険思想者ではありませんよね?」

「……は、い……?」


 危険思想者。何その物騒な単語。

 前にもどこかで聞いた気がするが……。


 戸惑う私とシリルだったが、テオドール様はへらりと笑ってみせた。


「心外だな。俺はこれでもディアナ王国王族なんだ。勘違いにも程があるよ」 

「王族……。そうですか。ここにはあまり近付かないでくださいよ」


 尚も警戒心を丸出しにしながら、少年はそう言って去って行った。



「……あの、テオドール様。危険思想者というのは?」

「その名の通り、危険な思想の持ち主だよ。塔の連中が最も恐れている。魔術師をマリアナージュに閉じ込めておくべきではない、魔術師こそ世界を統べる者だという考えのもと、『災厄』さえも引き起こそうとするのだからね」

「…………それは…………恐ろしいですね」


 そんな人間だと勘違いされたのなら、確かにとても心外である。

 しかし塔の関係者もまた、メイソン先生が不在である今、教会周辺を警戒しているのだろう。


「その危険思想者というのは、マリアナージュ内に何人も居るものなんでしょうか……?」

 

「まさか。そうそう居ないよ。過去に白星塔には、凄く実力とカリスマ性のある魔術師が居たらしくてね。崇拝者も多かったようで、彼が危険思想者の始まりだよ。その魔術師は、自分には『災厄』をも制御出来るはずだ、世界を正しく導くと説いたらしい」

 

「まぁ……。随分と大胆な思想と発言ですね」

「前世の記憶があるとも言ってたらしいよ」


 完全におかしい人だ。危険極まりない。


 私とシリルは、共にドン引きして顔を引き攣らせた。

 

「結局その魔術師は、危険だからと魔術を使えないようにされて、マリアナージュを追い出された。しかし今も彼の考えに感化された魔術師が残っている可能性もあるからな」

 

「そんな変わった方を崇拝して感化されてしまうなんて、とても信じられませんけど」

 

「人気ぶりは、近年で言うところのレイノルド様のような感じじゃないか? 考え方は間逆だろうけど。その魔術師も高い魔力と複数属性魔術を使えたらしく、本当だったら今頃白星塔トップになってたと言われているよ」


 頭のおかしな魔術師とレイノルド様を並べて語るのはやめて欲しい。

 とはいえ、テオドール様のその知識量の多さは、さすが王族と言える。かなり見直した。


「アメリア。なかなかいい顔をするね。博識な人物が、君の好みのタイプかな?」

「…………いえ、全く」


 肩に手を回されそうになったので、雑に振り払っておいた。

 

 この人のこの態度、やっぱり本当に勿体無い。

 これさえ無ければ、私のテオドール様への評価が爆上がりしていたことは間違いないだろう。




 ◇◇◇


 

「アルロ、ルカ。課題は順調?」

「うーん……。始めたばかりだし、まだまだかな。今日も頑張ろうね、ルカ」

「はぁ……。わかってるよ」


 翌日の放課後、図書室へ向かおうとする二人に声をかけてみたのだが、ルカの態度は酷い。にっこり笑顔の可愛いアルロ相手に、面倒くさいオーラを隠しもしないのは如何なものか。

 

 ルカは魔術実技の成績が抜群に良い。威力も素晴らしいしコントロールも完璧で、現在学年トップなのは間違いない。

 私やシリルと違い、課題に必死になる必要もないのだろう。

 非常に気に入らない。そのうち私が魔術実技参加を許可されたら、叩きのめしてやりたいと思っている。……勝てるかわからないけど。


「ちなみに、二人は何について調べているのか聞いてもいいかしら?」

「もちろん。僕たちはね、魔術師狩りの歴史についてだよ」

「……ま……魔術師……狩り…………?」


 無垢な笑顔のアルロから、とんでもない単語が飛び出した。空耳か。


「そう。150年くらい前に魔術師狩りが行われたって授業で習ったでしょう? それ以前は強い魔術師が今よりもっと沢山いたのに、大量殺戮のせいで魔術師は絶滅の危機だったって。その背景に興味があるんだよね」


「そ……そうなの……?」


「うん。その頃って、国が魔術師団を使って戦争をしたりしてたんだから、凄いよね! あとね、魔術を使って奴隷契約を結んだりとかも普通だったりして、面白いことがいっぱいなんだよ! わくわくするよね!」


「……………………。そう………………」



 可愛いアルロの恐るべきギャップを垣間見た。

 ……知りたくなかった…………。

 



 ショックを受け動けずにいる私に、シリルが話しかけてきた。


「おい、アメリア。今日も図書館の方へ行くのだろう?」  

「そうね。行ってくるわ、ルカ」

「…………またオレを置いてく気?」


 捨てられた子犬のような目を見たら、うっかり連れて行きたくなった。

 しかし、ルカにもアルロとの課題を進めてもらわなければならない。心を鬼にして、捨てて行くしかない。

 

「昨日と同じように、すぐ戻るわ。しっかり課題を進めて待っていてね!」

  

 ルカの返事を待たず、すぐに教室を後にした。


 昨日のように説得のために時間を無駄にするのは、アルロに申し訳ない。

 ルカが、少しはやる気を出して頑張ってくれるといいのだけれど……。


 ……あの衝撃的な課題内容を必死で勉強するというのも、ある意味心配にはなるが。



 とにかく今日の私には、課題とは別の大きな目的があるのだ。

 張り切って図書館二階へと歩みを進めた。

 

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