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その求婚は謹んでお断りします、王太子殿下  作者: 玖珠ゆら


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ペア学習はあなたと4


 薄暗い図書館の二階に足を踏み入れるなり、シリルは心底呆れたように言い放った。


「貴様はやはり紛れもなく愚か者だな。この大量の蔵書の中から、必要な資料を探し出すのは簡単ではないぞ。よくもあの犬にすぐ戻ると宣ったものだな」

「……その通りね」



 以前にもここで資料探しをしたのだから、わかってはいたのだ。

 

「もちろん、すぐに見つかると思ってはいないわ。今日ダメなら、また明日来ればいいのよ」

「貴様のその後先考えない行動力は、絶対に貴族には向いていないぞ。まかり間違って王妃にでもなってしまえば、シャパルが滅びる。国民のためにも大人しく殿下は諦めろ」


 いちいち話を大きくして私を貶めるのはやめて欲しい。


 それに私にだって、一応考えはある。

 毎回便利に使っているようで心苦しいが、メイソン先生に相談出来ないかと考えていたりする。

 もちろん先生から聞いた話を課題としてまとめて提出してしまえばカンニングのようなものなので、参考になりそうな資料の在り処でも教えてもらえたらラッキーだな、くらいの心持ちである。


 ルカとメイソン先生はどうも相性が悪そうだったので、ルカがいない今はとても都合がいい。

 


 

「アメリア」 

「きゃああ!」


 突然ぽんと肩を叩かれ、思い切り叫んでしまった。


 シリルが私に気安く触れるはずがない。

 まさか、という思いで振り返る。

 そこにいたのは────。


「テ……テオドール様」

「やあ。久しぶり」


 やはりと言うべきか、軽薄そうな笑みを浮かべたテオドール様だった。


「こんな薄暗い場所で、他の男と二人きりでいるなんて妬いちゃうなぁ。何をしてたの?」

「課題のための資料集めです」

「ああ、なるほど。一年生のうちは、一度は皆ここへ来るよね。あまりの蔵書の多さと内容の難しさとで、すぐに寄り付かなくなるんだけどな」

「テオドール様は、何故こちらへ?」


 テオドール様には、この場所は不似合いすぎる。

 明るく開放的な場所が誰よりお似合いである。



 テオドール様は笑顔のままに、無闇に距離を詰めてきた。

 

「どうしてだと思う?」

「さ……さあ?」

「君を見かけたから、ついてきたんだよ。今日は珍しく飼い犬を連れていないようだったから。学園の外で偶然会えるなんて、運命的だな」


 相変わらずな人だ。

 全てのセリフに全く心がこもっていない。

 


「あ。君、その目。俺の言うことを信じていないね? これでも君のために、他の女性との関係を綺麗さっぱり精算したっていうのに」

「…………はい?」

「まっ、まさか……! テオドール殿下が最近急に女性に素っ気なくなったという噂は聞いていましたが……! 本命がこの女!? 絶望的に趣味が悪い……!!」


 シリルの失礼極まりない発言にも、テオドール様はにっこりと笑みを浮かべている。


「そういうこと。少しは本気だと信じてくれた?」

「…………だから、何故私なんですか……」

「君以上に興味を持てる相手がいないんだよ。謹慎になったんだって? 君って本当に面白いよね」


 謹慎処分を食らったことによって、面白要素が増していたらしい。勘弁して欲しい。


「君の言うように、一人の女性と向き合うことによって愛は生まれるのか実験中なんだ。俺も立場上、卒業後は身を固めないといけないからね。学生最後の遊びに付き合ってもらうよ」

「お断りします」 


 今回は、はっきりと拒絶の言葉を口にする。

 王族相手だからって遠慮して、これ以上面倒なことになっては困る。


 テオドール様は、面白そうに笑ったままだ。


「やっぱりつれないな。言わせてもらうけど、君も選べる立場じゃないだろ?」

「うっ……」


 仰る通りである。

 犯罪者の家族と知れ渡った私を相手に選びたいという男性は、そうそう居ない。


「安心して。本当に本気になったら、俺が責任とって貰ってあげるよ」

「実験なんかで愛が生まれるとも思えないんですけど……」

「そうか。じゃあ聞くけど、政略で愛は生まれた?」

「……………………」


 政略というのが、レイノルド様とのことを指しているのは明白だ。

 10年間ずっと、愛や恋なんて生まれていないと、そう思っていた。


 私に愛など語れるはずもない。それが何か、よく知らないからだ。 



「シリル。助けてちょうだい」

「貴様に助けを求められる日が来るとは思わなかった。気味が悪いな」


 顰め面のシリルは心底嫌そうである。

 散々可愛げがないと言っておきながら、素直に助けてと言ったところでこの態度だ。これこそ理不尽。

 

「私では荷が重いわ……。テオドール様に、エリーへの愛を語って差し上げて」

「俺は別にエリーを愛していない。汚いものを見たこともないような綺麗な人間を、汚さないよう守りたいと思うのは自然だろうが。だからエリーには、貴様のような薄汚れた女を近寄らせんようにしていただけだ。愛など知るか」

「…………私たち、案外似た者同士かもしれないわね」

「おい。俺と貴様を一緒にするな。不愉快極まりない!」

 

 てっきりシリルはエリーに対して、女性として好意を寄せているのだと思っていた。

 実際は、私がアルロに抱いていたのと同様の思いで接していたということか……。


 

 テオドール様は首を捻って、物珍しいものでも見るように私に視線を送っている。

 

「あのレイノルド様相手でも、愛が生まれなかったのか? 君ってある意味凄いね」

「全くテオドール殿下の仰る通り。何様だ、貴様は」


 …………何故私が悪者になっている?


 

 結局生産性のない話しかしないままに時間が経ち、恋愛迷子の私たち三人は学園へ戻ることになってしまった。

 メイソン先生も留守だったし。

 テオドール様によると、先生はシャパル王家からの要請で、ゾイド王国へ行っているとか……。


 完全に貴重な時間を無駄にした。



 

 帰り道、シリルに断って教会へ立ち寄った。

 実は結構久しぶりだったりする。


 謹慎明け以降、因縁の場所である教会へ行くのは、ルカがいい気がしないだろうと思い、避けていた。今日はルカがいないので、そういう気遣いも無用だ。


 私がこんな場所に来たいと言ったことには、シリルもテオドール様も意外そうにしていたけれど、付き合ってくれている。

 

 面白い場所でもないし、ルカを待たせているし、早めに済ませるつもりで、いつも通り目を閉じた。

 

 ────どうか、『災厄』が起こりませんように。



 そう祈って目を開けると、背後から声がかけられた。


 

「キミたちは、こんな場所で何をしているんですか?」

 

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