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その求婚は謹んでお断りします、王太子殿下  作者: 玖珠ゆら


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ペア学習はあなたと3


 マリアナージュ全体の巨大な結界は、赤星塔の優秀な魔術師たちによって張られている。複数の属性を掛け合わせることで、より精密な魔術を施すことが可能となっている。

 それこそが許された人間のみが入れるというもので、ピアスで識別しているらしい。

 魔術学園在学中の学生、そしてマリアナージュ在住の人々がしているピアスと、卒業後外で暮らすことを選択した者のピアスは別物なのだという。

 そのため、一度マリアナージュを出て自国へ戻れば、簡単に戻って来ることは出来ない。

 マリアナージュ内には魔術に関する機密事項が溢れているので、簡単に出入りを許し魔術を悪用され、国同士の関係に関わる重大な事態を招くことを防ぐという目的がある。


 特別なピアスをしている者だけが出入り出来るこの結界にも、例外がある。

 それが、結界を張った本人は通り抜けられる、というもの。

 もちろん結界を張るのは赤星塔の魔術師のみなので、どちらにしろ部外者の侵入は不可能である。

 

 結界にも経年劣化というものがあり、定期的にかけ直す必要があるようだ。半年に一度ほど大掛かりなかけ直しをすることで、常に万全の状態を維持している。


 また、結界の目的が外部からの侵入を防ぐものであるために、外からの攻撃にはめっぽう強いが、内部から力が加えられると案外弱い。


 

「図書室内でわかったことは、これくらいかしら……? 実際に結界を張っている現場を見てみたいものね。具体的に現在の結界を張った魔術師の人数と、それぞれの属性を知れたらいいのだけれど」

「学生の身分では塔の魔術師に会うことさえ難しいのに、それは高望みしずぎだろう」

「そうよね。だったら学園内の図書室より、より大きい図書館の方へ行ってみてはどう? 資料を探すのは大変だけれど、新しい情報が得られるかもしれないわ」

「そうだな……。行ってみるか」


 シリルとの課題は、案外順調に進んでいた。 


 ペアを組んで数日、毎日放課後こうして図書室で情報を集めている。

 課題提出は約一ヶ月後である。順調すぎるほどだ。



 同じ図書室内の離れた席で、ルカとアルロも課題のために資料集めに励んでいるようだ。

 ルカに黙って出て行くと後々うるさそうなので、声をかけておくことにした。


「ルカ。シリルと図書館の方へ行って来るわ」

「ならオレも行く」

「あなたはアルロとの課題があるでしょう? 私についてきてばかりでは、ちっとも進まないじゃないの」


 一年生がそれぞれペア学習の課題に取り組む中、ルカは変わらず私から離れなかった。

 毎日図書室の隅から見張っていただけなので、どうせならアルロも呼んで、課題を進めるように言ったのだ。

 それでようやく二人は、昨日から課題に取り掛かり始めたばかりだ。

 

「課題なんてなんとでもなるし、いいんだよ」

「あなたはそれで良くても、アルロはそうはいかないでしょう。ペアを組んだからには、責任を持たなくてはいけないわ」

「でもお嬢は目を離すと何するかわかんねーし」

「子どもじゃないんだから! ルカが謹慎中の一週間、一人でも大丈夫だったんだから、あなたもそろそろ私を信用してくれてもいいんじゃないの?」

「…………大丈夫だったっけ?」


 何その疑いの眼差し。

 確かに私も謹慎処分にはなったが、護衛が必要な状況に追い込まれたことはなかった……はずだ。

 

 

「ルカがいてくれたらそれは私も何かと心強いけど、私はあなたにもちゃんと学生として充実した毎日を送って欲しいのよ。必要以上の警戒は、ここでは無駄だと思うわ」


「犬は犬らしく待てと言われたら待っていろ」


 シリルがめちゃくちゃ余計なことを言った。

 私の説得が台無しだ。恐らく彼は、黙っていると死ぬ病を発症していると思われる。



「この女にそんなに必死になって張り付く程の価値があると、本気で思っているのか?」

「もっともだけど、私を前にはっきり言うところが物凄く失礼ね」

「この女は何のためにマリアナージュへ来たのだ? 四六時中見張られて管理され続けるならば、王立学園在学時と変わらんだろうが。結局はあれが嫌で、自分のしたいようにするために逃げて来たということだろう」

「私そんなこと言った!?」


 何がどうなってそういう解釈になったんだか知らないが、シリルの言葉はルカに響いたようだった。

 


「……お嬢の好きにさせてあげたいとは思ってる。でも、何かあったらどうすんだよ」

「何があるというんだ。ここはマリアナージュだぞ? どこの国の王族も自由にしているだろうが。大体この女は、いざとなれば自分で自分の身を守れるだろう。魔力量が化け物並みではないか」

「そういう問題じゃねーんだよ」

「どういう問題だ。貴様、やはり所詮犬か。自分の頭を使うことも出来んのか?」

「は? 何なのお前。あと誰が犬だ。潰すぞ」

「貴様しかおらん。課題に集中しようにも、駄犬に常に視界でウロチョロされては目障りなことこの上ないからな」



 埒が明かない……!


 口が悪いことに定評があるルカと、人を苛立たせる天才であるシリルが言い争えば、100年かかっても和解出来ないことはわかり切っている。

 お互いの課題のためにも、私が間に入るしかない。


「ルカ。必ずすぐに戻って来るから、ここで少しの間だけ、アルロと課題を進めていてちょうだい」

「……お嬢」

「たまには私を信じて待っていなさい。いいわね?」


 不満で仕方がないという顔をしながらも、ルカは頷いた。

 安心したのも束の間、シリルがフン、と鼻を鳴らす。


「仕方がない。守り甲斐も可愛げの欠片もないが、一応女だ。この俺が責任持ってここまで連れ帰ってやる。感謝しろ、犬」

「お前が一緒だってのが一番信用ならないんだからな!」


 誰か余計な一言しか言わないシリルの病気を治療して欲しい。



 ともあれ、私はようやくルカから離れて行動する僅かな時間を手に入れた。

 しかし課題のためであり、共に行動するのはシリルである。


 労力と報酬が見合ってなさ過ぎて泣けた。

 

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