ペア学習はあなたと
平穏な学園生活が、ようやく訪れた。
謹慎が明けしばらく経ち、入学後の数週間が嘘のように穏やかな毎日を送れている。
謹慎期間中にすっかり忘れてしまっていたが、テオドール様にも何度か食堂で鉢合わせた。
しかしルカとアルロと共にいる私に、笑顔で手を振っただけで何も言わなかった。
テオドール様はもともと女性との噂が絶えないお方だ。きっと飽きっぽい性格で、私のことなど既に興味を失ったのだろう。
そうして平和に過ごしていた矢先に、ちょっとした試練が立ちはだかった。
それはペア学習。
その名の通り、二人一組でペアを組み課題をこなすというものだ。
長期休暇を挟み、二期制となっているこの魔術学園。一期に一度提出する課題は、成績にも大いに反映される。
二年生になると、魔道具作成や魔術研究など高度な課題が課せられるが、今回は初めての課題ということもあり、それぞれが興味を持つ分野についてマリアナージュ内で自由に調べた結果をまとめ、提出するというものだった。
一年生は18人。一人も溢れることなくペアは組めるはずだ。
しかし……。
私の隣には、当然のような顔をしてルカが立っている。
その反対側には、困ったようにこちらに視線を送るアルロ。
自由にペアを組んでいい、という教師の言葉が仇となろうとは……。
私にはどちらか一人など選べない。
教室内で、次々とペアが出来ていく。
エリーはやっぱり人気で、数人の生徒に囲まれている。
困り果て、三人で顔を見合わせるしかなかった、その時。
「アメリア」
「……え?」
声をかけてきたのは、まさかのシリルだった。
「貴様、どうせペアになる相手もいないのだろう。仕方がないから俺がなってやる」
「は!?」
尊大な態度のシリルは、こちらの返事を待つことなくペア決めの用紙に名前を記入して、さっさと提出してしまった。
「ちょっと! 何考えてるのよ!?」
「くれぐれも俺の足を引っ張るなよ。早速今日の放課後から進めるからな。学園内の図書室に来い」
「シリル!!」
一切人の話を聞かないままに、シリルは自分の席へ戻って行った。
……どうしてこうなった…………。
シリルのことは多少見直したとはいえ、ペアを組む相手としては全く望むところではない。
これまでのやり取りを思い返せば、気が重いどころの騒ぎではない。
せっかくのペア学習、ルカかアルロと一緒が良かった…………。
落ち込む私を前に、残されたアルロとルカは、二人でペアを組むこととなった。
◇◇◇
放課後、渋々図書室でシリルと対面している。
課題の評価は非常に重要だ。
長年の王太子妃教育により、知識を詰め込むことには慣れているので、座学の成績には自信がある。が、度重なる魔術使用のやらかしによって、私の実技披露がいつになるか全くわからない。
卒業後の身の振り方をどうするにしても、成績をなるべく上げておきたい私は、この課題で高評価をとっておく必要があるのだ。
例えペアの相手が誰であろうと、手は抜けない。
その相手である向かいに座るシリルが偉そうに切り出した。
「貴様、何かテーマは考えているのか?」
「いいえ、まだ何も。そういうあなたはどうなの?」
「特にやりたいものがないならば、結界についてというのはどうだ?」
「……結界?」
真っ先に頭に浮かんだのは、教会だった。
あの場所の結界が破られ、ルカは謹慎処分となったのだ。いい思い出がない。
「ああ。マリアナージュ全体に張られた巨大な結界について興味がある。貴様が良ければ、それについて調べたい」
「あ、そっちね。いいわ、それで構わないわよ」
「ならばまず、この図書室内で得られる情報を集めてまとめていくか」
シリルと会話が成立している。
きちんとテーマを絞ってきてくれているし、すぐに行動出来るよう図書室を指定して呼び出しているところも、文句のつけようがない。
これは、本当にあのシリルなのだろうか……?
「貴様、なんだその目は。何が言いたい?」
「…………何故、私とペアを組もうと思ったの?」
「言っただろう、貴様が一人きりで哀れだったからだ。それに貴様とは、一度きちんと話をつけておきたかった。こんな機会でもなければ叶わないだろう。いつもあの犬がはりついているのだからな」
シリルが図書室の隅を一瞥する。
遠く離れたその隅っこから、ルカがこちらを睨んでいる。
ちゃんと私についてきて隣に座ったルカだったが、シリルに「課題を盗み見る気か?」といちゃもんをつけられ、姿は見えるが声は聞こえないという位置で待機している。
「それに貴様は、こういう課題は得意だろう。王立学園での成績もかなり良かったからな。謹慎処分などという汚点を残してしまった今、俺は課題で巻き返すしかないんだ」
「まぁ。そっちが本音ね? いいわ、私もあなたと同じで、この課題でいい成績を残しておかないと困るのよ」
「おい。貴様と同じにするな。俺は遊びではない。本気でやっているんだ」
「失礼ね。私だって本気よ」
この話の流れで、何故か急に忌々しそうに睨みつけられた。
さっきまで普通の会話をしていたはずなのに、どこに地雷があるのかわかったものではない。
シリルは腕を組み、私を正面から見据えた。
「いいか。俺は貴様と違う。ここで結果を残さなければ、後がない。知っての通り、伯爵家の四男だからな。王立学園での成績もそこそこというところだったし、婿入り先も見つかっていない。このままでは家を出て、平民に成り下がることは確定だ」
気持ちはわかるが、随分な物言いだ。
こっちはとっくに平民に成り下がっている。
「シャパルへ戻り、平民として暮らすなんて御免だからな。赤星塔での結界維持研究職を目指している。そのためにも優秀な成績を収め卒業する必要があるのだ」
「赤星塔! それで結界について調べようと思ったのね? あなたが本気なのはわかったわ」
派手なイメージのある魔術研究専門の白星塔や、わかりやすく成果が見える魔道具研究専門の黒星塔でなく、地味な赤星塔を目指しているところが、なんとも堅実なシリルらしい。
「でも、私だって遊びでやっているんじゃないわ。全ての授業に真剣に取り組んでいるつもりよ」
なんなら既に平民である私の方が、よっぽど追い込まれている。
「ふん。貴様は殿下に守られて好きにしているだけだろうが。結婚前の遊びのつもりで入学したくせに、笑わせるな」
「………………なんですって?」




