謹慎期間が明けたら2
散々私を嫌って避けまくっていたはずのエリーは、どういう心境の変化なのか、沈痛な面持ちで話し出した。
「ずっと避けてて、本当にごめんなさい。私、アメリアのことを誤解していて……。アメリアのお父さんが私の命を狙ったって聞いたし、アメリアも怖い人だと思ってた……」
「まぁ……そうね。義理の父があなたの暗殺を企てていたのは事実だもの。仕方がないわ」
「ルカがアメリアの言いなりなのも、何か脅されてたりとか事情があるのかと思ってて……。それでアメリアがいない間に話を聞いたんだけど、自分の意思で一緒にいるって言ってました」
「…………そう」
めちゃくちゃ悪女だと思われていた。
これは私のせいではない。完全にルカが態度を改めなかったせいだ。
「どうして下僕みたいな扱いをされても一緒にいるのか不思議だったけど、さっきシリルが教えてくれたんです。ルカは犬のように主人に仕えて虐げられることに快感を覚えるタイプだって」
「は? ふざけんな。ただの変態じゃねーか」
「それに、学園長先生に私への指導を頼んでくれたのも、アメリアなんですよね? 魔術を使えないことを心配して、私のためにわざわざ掛け合うような優しい子だって学園長先生に聞いたんです」
「え……ええ、まぁ……?」
メイソン先生のフィルター越しに語られた私は、優しいいい子になってしまっている。
エリーと和解するためのナイスアシストではあるが、偽りの姿で騙すようなやり方には罪悪感を持ってしまう。
何しろ私は、純粋にエリーへの心配だけで行動している訳ではない。
エリーに魔術を使えるようになって欲しいのは、自身の欲のため。
『災厄』が起これば自分も被害を被るかもしれないという思いがあるのだ。
あわよくば、ルカの傷を綺麗に治してもらえないかという下心だって多分にある。
エリーがメイソン先生と話をしたということは、私の思惑通り、先生からの個別指導を受けているのだろう。
「エリー、メイソン先生の指導は素晴らしいでしょう?」
「えっ? え……うーん……学園長先生はお忙しくてまだ二回しか受けていないし…………」
エリーの返事は歯切れが悪い。
言いづらそうにしながらも、正直に話そうとしてくれているのが伝わる。
「こんなこと言ったら失礼だけど、学園長先生はちょっと怖いんです……」
「怖い? 先生が?」
「だって、少しも笑わないし……。緊張しちゃって、ちっともうまくいかないんです」
「笑わないの!?」
それは怖い。真顔の先生は確かに怖い。
メイソン先生の魔術指導は丁寧で優しかった。だからこそ、エリーも気負わず練習出来ると思ったのだが……。
「あっでも学園長先生、アメリアの話をする時は笑顔でした!」
「…………はい?」
「もしかして二人って、恋人同士だったり」
「絶対ねーから!」
エリーの言葉を遮ったのは、ルカだった。
ルカはメイソン先生とは、かなり相性が悪いようだ。先生のこととなると、やたら不機嫌になる。
ルカに落ち着いてもらうためにも、私も頷いた。
「メイソン先生には私も魔術の指導をしていただいたけれど、それだけよ」
「あっ、そうですか……。良かったね、ルカ。私、ルカの恋を応援してる」
「何でだよ! お前さっきからいい加減にしろ」
何故かエリーに応援されたルカは、更に不機嫌になった。
「何よりよく考えたら、もしアメリアが本当に怖い人だったら、レイノルド様が仲良くしてって言うはずがないですよね!」
「そっ……そうね」
レイノルド様の話題には、やっぱり少し動揺してしまう。
そしてその名を口にしたエリーは、悲しげに瞳を伏せた。
「…………本当は…………アメリアのこと避けていた一番の理由は、アメリアがレイノルド様の元婚約者だって知ってしまったからなんです」
「…………それって…………。待って、エリー」
その先は聞きたくない。
なんとなく想像はついているけれど、決定的な言葉を聞いてしまうのは怖い。
「私、レイノルド様のことが好きなんです! 嫉妬みたいな感情でアメリアに酷いことをして、本当にごめんなさい!」
「…………………………気に、していないわ………………」
アルロといいエリーといい、平民という生き物はどうしてこうも真っ直ぐなんだろう。
何の策略も根回しもなしに、他人へ自分の感情をあっさり暴露するなんて恐ろしい。
私には絶対に出来ない。
薄汚れた私とは違って、エリーは澄み切った瞳を向けてくる。
「貴族の婚約者って私にはわからないけど、シリルは政略だから互いに何の感情もない、気にするなって言ってくれたんです。それでもずっと引っかかってて、アメリアにまともに接することも出来なかった自分が情けなくて……」
「わかったわ! もうわかったから! 私は何とも思っていないから、あなたも今までのことは忘れてちょうだい」
これ以上続けられては、自分の醜さを目の当たりにさせられているようで耐えられない。
エリーの純粋さと正直さが眩しすぎて、自らの心の仄暗い部分に殊更影が落ちる。辛い。
エリーはそんな私に、正に聖女といった慈悲深い笑みを浮かべて言った。
「ありがとう、アメリア。あなたはやっぱり、とても優しい人だってわかりました」
何故か心に深いダメージを負った。
エリーには敵わない…………。
脳内に、レイノルド様とエリーが並ぶ姿が浮かぶ。
崇高な王子と汚れなき聖女の組み合わせは、これ以上ない程にお似合いだった。
自らの勝手な想像で更に心が傷だらけとなった私は、少し離れた場所から私を睨みつけるシリルの視線には気付いていなかった。




