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その求婚は謹んでお断りします、王太子殿下  作者: 玖珠ゆら


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魔石のピアス2


 普段であれば大抵のことはそつ無くこなしてしまうシリル。

 そんな彼の魔術が的にかすることもないなんて、初めてのことだ。


 皆が驚きを隠せずにシリルを見ている。

 らしくない、それこそ失態とも呼べる姿だ。

 誰も何も言わないが、彼のことだから大層プライドが傷付いたことだろう。


 教師に心配そうに声を掛けられながら、シリルはふらつく足取りで見学席へ戻る。


 

 居眠りもしていたし、体調が優れないのかもしれない。


 そんな思いでシリルを見れば、憎悪のこもった鋭い視線が返ってきた。



 …………何故私をそんな目で見る。


 八つ当たりされるのもご免だと思い、二度とシリルの方は見ないと決めた。



 

 結局、突き刺さる視線を感じながら授業終了まで耐える羽目になったのだが、それだけで終わらなかった。


 

「アメリア・イルヴァーナ!!」


 教室へ戻ろうと立ち上がると、シリルに呼び止められてしまったのだ。


 この男は、私のことをストレスのはけ口だとでも思っているのだろうか。

 そんなものに付き合っていられないし、次の授業もある。


 他の同級生は、私たちを横目で見ながらも急ぎ足で校舎へと向かっている。

 ここでまた言い合いを始めれば、遅刻してしまうかもしれない。

 

 無視することにした。



「行きましょう、アルロ」


 アルロに声をかけ、シリルの横を通り過ぎる。


 

「貴様! 待て卑怯者!」


 卑怯と罵られる謂れはない。

 尚も無視を決め込んでいると、後ろから聞き捨てならない侮辱の言葉が飛んできた。


「この、……泥棒が!!」


 私を陥れたくて仕方がないのだろうが、言い過ぎだ。

 事実無根の罪を着せられてはかなわない。

 立ち止まり、振り返った。


「なんですって? 泥棒呼ばわりされるような行いをした覚えはないわよ」

「しらばっくれるな! 俺が失敗するように、ピアスを盗ったのは貴様だろう!!」 

「…………ピアス?」


 そこで初めて気が付いた。

 シリルの左耳には、ピアスがない。


 

 ──もしかしたら。

 実技て魔術を上手く使えなかったのは、ピアスがなくて魔力調整がまともに出来なかったせい……?


 左耳に触れた時、シリルは明らかに動揺していた。

 メイソン先生も、魔力コントロールと感情は密接に関係していると言っていた。


 きっとそうだ。

 しかし何故、それを私の仕業にされなくてはならないのか。



「ピアスをなくしたのなら、それはあなた自身の責任でしょう。私のせいにしないでちょうだい」

「とぼけても無駄だ! 貴様の仕業だとわかっている。昼前までは確かにあったんだ。俺が眠っている間に盗んだんだろう!? 昼休み、教室に残っていたのは俺の他に貴様たち二人だけだと皆が証言している!」


 シリルの言う通り、アルロと二人で教室には残っていた。

 でも、それだけではないか。


 

 証拠もなしに決めつけられて糾弾されるなんて、あの時のルカと同じだ。

 私がこの一週間、どんな思いで過ごしてきたか……。

 そしてそれ以上に、ルカが。


 そう思ったら、はなから疑ってかかるシリルに無性に腹が立った。


 

「だったら何? 私は知らないわよ。私を犯人に仕立てあげたいなら、確固たる証拠を持って来なさい」

「ふん、正に悪党の返事だな! それこそが証拠だ! 俺に恥をかかせたつもりだろうが、貴様こそ己の行動を省みて恥じ入るべきだ!!」

「私は恥ずかしい行いなどしていないわ。大体あなたも、一度の失敗くらいで大袈裟なのよ。ピアスを紛失したと気付いたならば、すぐに先生に申し出れば良かったのではなくて?」


「俺は……一度も失敗は出来ない!!」



 学生なのだから、失敗くらいあって当然だと思う。

 シリルはそんなに完璧主義だったのだろうか。


「外すなと言われたピアスをなくしたなどと、言えるはずがない。俺は……」


 シリルの肩が震えている。

 はっきりと怒りに染まった瞳で睨み付けられた。



「俺は、遊びでマリアナージュに来た貴様とは違う!!」



 シリルの大声と共に、空気が変わった。


 その感覚は一瞬で、足元が微かに揺れ始めた。



「何……?」



 異変を感じて慌ててアルロを見ると、酷く怯えた顔をしている。

 大丈夫、そう言おうとした時。



 大きな音がして、シリルの背後に巨大な土壁が湧き上がった。


 それは彼の身長を優に超え、二メートルほどの高さがあるように見える。

 授業で披露していた普段のシリルの魔術と比べると、明らかに異質だった。


 土壁の前で、シリルは我を忘れたように怒りで顔を赤く染め、苦しそうに肩で息をしている。



 尋常ではない。

 恐怖を覚え後ずさりしようとした私の足元が、ぼこりと抉れた。


「きゃあ!」

「アメリア! 大丈夫!?」


 足をとられて転んでしまい、アルロがかけ寄ろうとする。

 しかしその足元でも土が抉れる。


 先程の授業の時の比ではない。

 大小様々な無数の穴が、次々と練習場の地面に現れた。

 そればかりではない。

 抉れたと思った地面が次の瞬間には盛り上がり、刻々とその形を変えている。



 恐ろしい量の魔力を放出しているシリルの呼吸は荒く、しかし瞳は鋭く私の姿を捉えている。



 

 ────魔力暴発…………!


 怒りの感情は、魔力暴発のきっかけになると、メイソン先生が初回授業で話していた。

 私が以前イライラしながら魔術を使用した時も、いつも以上の威力が出てしまったのだ。


 シリルのこの魔術も、普通ではない。

 まして彼は今、ピアスをしていない。



 このままでは、危険だわ……!


「アルロ! 先生を呼んで来て」

「えっ!? でも、アメリアは?」


 シリルは、私に対する怒りで魔力暴発を起こしている。

 私が下手に動く方が危ない。

 何かをきっかけにして暴発した魔術がアルロに当たれば、ただでは済まないだろう。



「転んだ時に、足を挫いてしまったみたい。アルロ、お願い。あなたにしか頼めないのよ」

「わ……わかった」


 優しいアルロが私を置いてこの場を離れることを躊躇わないよう、動けないと嘘をついた。

 アルロは頷いて、何度もこちらを振り返りながら校舎の方へ走って行った。



 アルロが怪我なく離れられたことにほっとする。

 しかしアルロがいなくなっても、状況は変わっていない。


 シリルを止めなければまずい。


 ボコボコと湧き上がる土が、しゃがみ込んだ私の体に何度も降ってくる。

 それを手で振り払うと、益々苦しそうに呼吸を繰り返すシリルが目に入った。


 

 シリルは嫌な奴だけれど、私に危害を加えようという気はないはずだ。

 現に土魔術は一度も直撃していない。

 ただ、頭に血が上っているだけだ。



「シリル! ちょっと落ち着きなさい!」

「うるさい! 貴様が俺に指図するな!!」


 余計に怒らせてしまった。


 

 その怒りに連動するように、私の真横に大きな土壁が湧き出した。


 それと同時に、シリルが膝をつく。

 急に咳き込んだかと思えば、その口から真っ赤な血が吐き出された。



 シリルは、通常では有り得ない程の魔力を放出している。

 体がもう限界なのだろう。

 


 アルロはまだ戻って来ない。

 先生が来るまで、シリルが持つか……。



 メイソン先生の言葉が思い起こさせる。


 

『魔力コントロールに失敗すれば、魔力が暴発し、取り返しがつかないことになる。その時は最早、人では居られなくなると思え』



 ──人で、なくなるとは……?



 

 全身に悪寒が走る。

 シリルは顔を血まみれにしながらも、憎しみ溢れるような目を私から逸らさない。

 


「……シリル…………」



 このままでは、シリルが死んでしまうかもしれない。



 そう思ったら、左耳のピアスに触れていた。

 

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