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その求婚は謹んでお断りします、王太子殿下  作者: 玖珠ゆら


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魔石のピアス


 昼休みが終わり、午後一番の授業は魔術実技だ。


 正直放課後まで眠りこけていればいい、と思っていたが、シリルは流石に目を覚まし練習場に現れた。


 それにしても機嫌は最悪だった。

 学園内で居眠りをしてしまうという失態を彼の高いプライドが許せないのか、それともただ単に空腹でイライラしているのか……。

 どちらにせよ、不機嫌オーラ全開の彼には関わりたくない。

  


 一切目を合わせないよう、練習場の中央を真っ直ぐに見据えておくことにする。


 現在、アルロによる魔術実技の真っ最中である。

 アルロの放った風魔術は小さなつむじ風を起こし、的へと吸い込まれていった。


 アルロの魔術は決して大きなものではないけれど、コントロールは抜群なようだ。

 的までの距離は15メートルほどの位置まで伸ばされたが、ぶれること無く綺麗な一直線を描く様に放たれていた。


 教師に褒められ、見学席を振り返ったアルロが、真っ先に私へ嬉しそうな笑顔を見せる。

 なんて可愛いんだろう。



 頭でも撫でてあげたい衝動を抑え、戻って来たアルロに声を掛ける。


「見事だったわ、アルロ」

「ありがとう。アメリアに褒められて嬉しい。僕も、アメリアの魔術をまた見たいな……」

「…………そうね」


 私は一体、いつになったら魔術使用の許可が下りるのだろう。メイソン先生のお陰でコントロールには自信があるのだが……。

 学園長であるメイソン先生にお願いして、許可してもらうように実技指導教師に働きかけてもらおうか。そこまで頼むのは、流石に図々しすぎるだろうか。



 思案していると、エリーが教師と話をしているのが聞こえてきた。


「エリー、今日もやらないのか? 失敗したって誰も笑ったりしない。とにかく練習しないと、いつまで経っても魔術を使えるようにはならない」

「わかってます。でも、どうしても……。今日だけは」

「…………昨日もそう言っていた」


 教師の言葉に、エリーは泣きそうになっている。

 エリーはここ数日、こうして魔術実技自体を拒否してしまっている。

 皆に見られながら失敗を繰り返すのが辛いという気持ちもわかるが、教師の言う通り、逃げてばかりいては永遠に魔術は使えない。


 

 ────しかし。


「先生! エリーをそんなに責めるのはやめてもらいたい。可哀想だ!」

「シリル・エデル。これはエリーの問題だ。黙っていなさい」

「いいえ! 教師でありながら、弱い立場の生徒に嫌がっていることを強要するなど言語道断です!」


 シリルがエリーを庇い立てる。

 本当に余計なことしか言わない男だ。

 私の学園での立場ばかりでなく、世界平和まで脅かすなんて厄介にも程がある。


 教師もシリルにうんざりしたような目を向けている。

 しかし話にならないと判断したのか、諦めたようだった。


「仕方ない……。だがエリーも、魔術を使おうという気持ちはあるな?」

「それは、もちろんです。ただ、今は……」

「人に見られるのが怖いか?」

「…………」

「では放課後、個人指導を受けてみてはどうだ。有り難いことに、学園長先生からお申し出があった」

「えっ……。学園長先生が!?」


 

 メイソン先生は、私の提案を早速実現させてくれようとしているのだ。

 本当に優しい。


 これで安心だ、と思ったのだが……。

 エリーの表情は硬い。


 

「でも……。学園長先生に指導されるなんて、そんな……」


 どう見ても気乗りしない様子だ。

 学園長自ら、というところが、重圧に感じてしまっているのかもしれない。

 それにメイソン先生はパッと見、冷たくて怖い印象を抱かせる。それもあって物怖じしているのかもしれないが……。



 ここでエリーが断りでもしたら、言い出した身として非常に困る。

 

 せっかくメイソン先生がその気になってくれたのだ。

 学園長なんて飾りだなどと言ってしまったが、そんなはずはない。

 メイソン先生は、なるべくあの図書館の部屋で過ごすようにしているものの、決して暇な人ではない。

 マリアナージュ一の魔術師で、学園長という肩書きもある。忙しくないはずがないのだ。

 

 仕事の合間を縫って私に付き合ってくれた上、エリーの指導まで引き受けてくれた先生に対して、拒絶だなんて失礼なことをされては申し訳が立たない。



 だとしても、私が口を挟む場面ではないと重々承知なので、ぐっと堪えようとした、その時。


 

「学園長先生までエリーを追い詰めようというのか! あんまりではないですか!!」


 シリルという男は、どこまでも邪魔しかしない。いい加減にして欲しい。

 私も黙ってはいられなかった。


「追い詰めるだなんて、そんなはずがないでしょう。学園長先生はお忙しい中、エリーのためを思って時間を割いて下さるのよ。その親切心を無下にするものではないわ」

「! また貴様か、アメリア・イルヴァーナ! 部外者が口を出すな!」

「部外者はお互い様だわ。あなたも黙りなさい」

「エリーが苦しんでいるのを見て、放っておけるはずがない!」

「それがエリーのためにならないと言うのよ。苦しんでいるなら尚更、学園長先生自ら指導して下さるという機会を逃すべきではないわ」

「何を偉そうにわかったような口をきいている!!」


「やめなさい!!」



 制止の声にはっとして見ると、教師が大層ご立腹の表情で私たちを見下ろしていた。


 しまった。当事者を無視して、すっかりヒートアップしてしまった……。



「決めるのはエリーだ。……そして、シリル・エデル。お前の番だ。魔術実技を行いさない」

「………………はい」


 シリルがこちらをひと睨みして、練習場の中央へ向かう。


 エリーは、やたら深刻な顔をして考え込んでいる。

 いい返事をしてくれればいいのだけれど……。


 


「アメリア」 


 呼ばれて見れば、アルロが心配そうに私を見つめていた。


「ごめんなさい、アルロ。見苦しいところを見せてしまったわね」 

「ううん。かっこよかったよ」


 にっこりと笑顔を見せてくれるアルロに癒される。

 可愛げのない私をそんな風に言ってくれるのは、アルロだけだ。


  

 気持ちを切り替えて、シリルへ視線を向ける。

 いつも自信満々で魔術を披露して見せるシリル。

 そんなシリルが、練習場の中央で左耳に触れたまま、酷い顔色で立っている。



 …………なんだか、様子がおかしい。



 不思議に思っていると、シリルが指先を前方へ向けた。

 少しだけ、震えているように見える。


 今日は明らかにいつものシリルと違う。

 一体、どうして…………。



「ル……ルース!」



 シリルが魔術呪文を唱え、その土魔術が放出された。



 しかし的へ向かうはずのそれは、シリルの足元をぼこりと抉った。


 ふたつ、みっつ……と増えていく。


 ひとつも的に向かうことなく、練習場の地面をぼこぼこと抉って荒らしていく。


 

 シリルの周りに、幾数もの拳大の穴が空いた。

 魔力のコントロールが全く出来ていないかのようだ。



 その真ん中に立ち、シリルは青かった顔を今度は赤らめ、怒りに震えているように見えた。

 

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