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その求婚は謹んでお断りします、王太子殿下  作者: 玖珠ゆら


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わんこの災難


 魔術を無断で使用したことでルカは物凄く怒られた。

 

 入学後間もない一年生で、魔術使用が許可される前であったこと。

 人に向けていないとはいえ、大勢の生徒がいる食堂で使用したこと。

 それがどれだけ危険なことであるか、鬼教師と有名なジェイコブ先生にみっちり一時間説教を食らっていた。


 それだけでは済まなかった。

 ルカときたら、何しろ口と態度が悪すぎる。

 反省した素振りをするタイプではないので、厳重注意だけでは終わらず、反省文10枚の罰が課せられた。



「まじでだるい。無理。一行も書ける気がしない」


 机に突っ伏して、真っ白のままの提出用紙を前に、ルカが泣き言を言う。


 放課後の教室で居残り、反省文を書くルカに付き合ってあげているのだが、一向に進む気配はない。

 同級生たちは全員帰宅してしまい、二人きりになってからかなりの時間が経ったというのに……。

 これでは明日までかかっても終わらないだろう。


 こうなった原因の一端を担ったシリルは、こちらを見て鼻で笑って帰って行ったし。いちいち感じの悪い男だ。


 このまま反省文が完成せずに明日からルカが登校出来ない、なんてことになったら、非常に癪に障る。

 


「心を殺して謝罪の文章を捻り出しなさい」

「思ってないことを書けってこと?」

「そうよ。レイノルド様に粗相をしたつもりで誠心誠意謝りなさい。内容なんてなくていいのよ。謝罪の言葉が並んでいればそれでいいわ」

「あ。書ける気がしてきた……」

 

 そう言うとルカは、『この度は大変申し訳ありませんでした』と突然スラスラと書き連ね始めた。

 この王家の犬は、主である自国の王族に対してはきちんと敬語が使えるお利口さんなのだ。出来る子なんだから、普段からもっとちゃんとやって欲しい。



 結局反省文は三枚ほどしか書けなかったが、その内容がやたらめったら殊勝なものであったことから、ジェイコブ先生のお許しが出た。

 付き添った私をじろじろ見ていたので、ゴーストライター疑惑が生じている気もするが。

 


 ようやく学園を出た時には、空が夕焼けに染まっていた。

 今日はとても疲れたし、早く帰ってゆっくりしたいところだけど、足は自然と教会へと向かう。


 教会の存在を知ってから、私は本当に毎日祈りに行っている。正確には特に何かを祈っている訳ではないのだけれど、祈りのポーズだけはとっている。

 何をやっているんだろう、と思わなくもないけれど、すっかり日課になってしまった。



 ところが教会まであと少し、というところで、普段と違うことが起こった。



  

 ────それは、爆音だった。


 何かが破壊されるような音と共に、聞いたことのない激しい破裂音。

 

 つんざくような音に、思わず両手で耳を塞ぐ。


 同時に、行く先に強い光が見えた。

 それは空高く上がり、辺りを白く染めて消える。



 一瞬の出来事で、何が起こったのわからない。

 けれど、確実に何かが起こった。




「………………ルカ!」


 隣に立つルカと、目を見合わせる。

 

「教会の方だな。見に行く?」

「当然でしょう!」

「だよな。危なそうだからやめて欲しいんだけど」

「お断りよ。早く!」

「あーわかったから! 先に行くなって! オレの後ろにしろ」


 

 走るルカを追いかけてすぐ目の前の角を曲がり、奥まった場所にある教会に辿り着いた。



「……なにこれ…………」



 教会の高い塀は崩れ、門扉にかかっていた南京錠がいくつも転がっている。


 教会の周囲は、まるで竜巻でも通り過ぎたように瓦礫が散乱している。

 それなのに、真っ先に崩れそうな教会はその姿を保っており、それがとても奇妙だった。



 余りの惨状にしばらく立ち尽くしていた私たちだったが、徐々に不安な気持ちが込み上げてきて、ルカの制服の裾を掴む。


  

 これは絶対に、魔術が使われた後だ。

 それも、全力で魔力放出したレベルの。

 

 この古い教会を狙って攻撃したようにしか見えない。

 

 

 ────誰が一体、何のために。

 


 

「お嬢、オレから離れんな。誰かいるかもしれないから。…………これをやった奴が」 


 ルカのその言葉に、全身に緊張が走った。

 恐怖で、掴んだ手に力が入る。


「大丈夫。オレが守る」


 

 いつか聞いたセリフだ。

 私はまた、ルカを危険な目に遭わせている。

 軽率に突っ走ってしまったことを瞬時に後悔した。


 

 ルカが傷付いたらどうしよう。

 ──そう思ったら、掴んでいたルカの制服を勢いよく引っ張っていた。


 

「守らなくていい。一緒に逃げるのよ」

「何それ? お嬢らしくねーな。いいけど」



 だってもう、手が震えている。

 ここにはこれ以上居たくない。

 

 教会に背を向け、通りに戻ろうとした、その時。




「アメリア! それに、……ルカか」



 ルカが思い切り顔を顰める。

 

 振り返った先に、こちらへ向かって走って来ていたのは、ジェイコブ先生だった。

 後ろには、他にも教師が二人ほどいる。


 

 私たちの姿を確認したジェイコブ先生は、その先の教会を目にし、はっきりと顔を強ばらせた。



「お前たち、ここで何をしている?」

「何って…………あ」



 これはまずい気がする。


 タイミング的に最悪だ。

 これではまるで、私たちが教会を攻撃して逃げようとしているところに見えてしまう。

 


「何もしてねーよ。音がしたから見に来ただけだ」

「ほう。では何故、逃げようとしていた?」

「危ないかなーと思ったからに決まってんだろ」


 明らかに疑われているというのに、ルカの態度は相変わらずだ。

 ジェイコブ先生が、ルカをきつく睨みつける。


 

「大方、魔術を思い切り使ってみたくなり、ここで試したのだろう。お前のような無鉄砲な学生が、たまにいるのだ。反省文だけでは足りなかったようだな」

「は? オレじゃねーよ」

「調査すればわかることだ。よりにもよってこんな場所で試したのだから、覚悟しておけ」

「なんでだよ」


 やっぱりルカのせいだと思われている。



「先生! ルカは本当に何もしていません!」


 そう声を上げたけれど、ジェイコブ先生の目は、ぞっとするほど冷たかった。


「お前たちのような問題児は、学園創立以来だ。マリアナージュの名を汚すような行動を、許しはしないからな」


 この状況では、何を言っても無駄だと悟る。


 

 周囲には次々と人が集まり始めている。

 ルカが余計なことを言ってこれ以上立場を悪くしないように、そして自分の色んな感情を抑えるために、ルカの制服を掴んだままだった手に、ぐっと力を込めた。


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