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その求婚は謹んでお断りします、王太子殿下  作者: 玖珠ゆら


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図書館の住人2


 レイノルド様という方は、本当に恐ろしい。こんなに遠く離れていても、そのお名前を簡単に耳にすることが出来てしまう。

 ここに居なくても、圧倒的存在感があるんですけど。


 いやしかし、そのレイノルド様を私が越えるとはどういうことだ。

 メイソン先生は大陸上最高の魔術師のはずなのだが、こんな戯言を言うだなんて。



「まあ……! 学園長先生、ご冗談を」

「その呼び方はやめてくれないか。俺は本当は、学園長になれる器ではない。俺より優れた魔術師がいることを、知ってしまったからな」

「まさか! 先生は大陸一の魔術師と伺っています」

「………マリアナージュ一、の間違いだな。ここから居なくなったレイノルド・ルーファスの方が、魔術師としては優れていた」


 

 …………ああ、聞きたくなかった……。

 レイノルド様の存在が益々遠くなる。

 どこまで完璧なんだ、私の元婚約者は。


 

「アメリア、お前は見込みがある。こうして早くも国のため、大陸の平和のために、聖女や『災厄』について学ぼうとするなんて、レイノルド・ルーファスの再来だ」

「ごっ……! 誤解です!」


 本当にやめて欲しい。

 私はレイノルド様のような崇高な考えは持ち合わせていない。

 自分の欲望のために動いているだけだ。


 しかしメイソン先生は、全く聞く耳を持ってくれない。



「図書館の沢山の蔵書の中から欲しい情報を得るのは大変だろう。卒業までの二年の間に、全て確認するのは困難だ。お前が本気で学び、魔術師として努力を重ねる気があるのなら、俺が可能な限り教えてやってもいい」

「それは…………大変有難いお申し出ですけれど」


 学園長自らに教えを乞えるだなんて、都合が良すぎる。期待が大き過ぎて怖い。


「ただし、お前が魔術師として能力を開花させた暁には、マリアナージュへ残り、相応の立場に就いて魔術発展に貢献することを真剣に考えて欲しい。無論、強制ではないが」

「えっ…………」


 これは頷いていいものなのだろうか。

 強制ではないと言うが、期待させておいて必要な情報だけ得て逃げるのは、騙すようなものだ。魔術師としての才能があるという保証もない。


 

 答えを決め兼ねていると、私の困惑した表情に気付いたメイソン先生が、自嘲するように小さく笑った。


「…………駄目だな、俺は。これでは二年前と何も変わらない」

「メイソン先生?」

「期待の余りにこうして迫って、例のレイノルド・ルーファスという生徒にも逃げられたんだ。何でも教えてやると言ったのに、白星塔のトップにも気に入られて、そこで色々学んだようだな。あそこは貴重な文献が揃っているから、ここには寄り付かなくなってしまった。……まあ、レイノルド・ルーファスは次期国王になる男だから、どちらにしろマリアナージュに残るという選択肢は無かったのだろうが」



 …………白星塔って、魔術研究の最高峰であり、一般生徒が入れる場所ではないはずですけど?


 ルカは主人の素晴らしさを再確認し、得意げに笑みを見せている。尻尾振ってそうな顔だ。

 こっちは、頭が痛くなってきたというのに……。

 やっぱりどれだけ頑張っても、胸を張って彼の隣に立つ未来なんて、一生訪れない気がする。


 

「すまなかった、アメリア。先程の言葉は忘れてくれ。生徒たちを導く者として、質問に答えよう。何について知りたい?」

「ええと、では……。聖女に選ばれる条件というのをお聞きしても?」


 自己完結されたようなので遠慮なく質問すると、メイソン先生は満足そうに微笑んだ。

 冷たい印象しかなかったメイソン先生の笑顔は、なかなかに破壊力がある。魅力的なギャップだった。

 

 同時に、しまった、と思う。期待通り聖女について聞いたことで、また要らぬ株が上がってしまったのかもしれない。


 

「光属性の膨大な魔力を持っていることだ。誰もが知る事実であるが、これを敢えて聞くということは、何か考えがあるな?」

 

「光属性の魔力持ちは希少ということですが、聖女以外には全く存在しないものなのですか? マリアナージュへ入学出来ない程の、僅かな魔力量であった場合は、聖女とはなり得ないということでしょうか」

 

「そうだな。聖女たる条件は、その魔力量だ。例え光属性であったとしても、魔力量が少なければただの人だということだ」

 

「…………つまり、存在するのですね? 聖女の他にも、光魔術を使える人物は」

 

「そうだが、何を期待している?」 


 見透かすようなその言葉に、どきりとする。

 今のやり取りで、メイソン先生は私の思惑に気付いたようだ。

  

「言っておくが、マリアナージュに入学出来ない程度の魔力量では、かすり傷ひとつ直せれば良いレベルだ」

「うっ……。そうですか」


 やっぱりルカの傷を治せるのは、エリーだけだということか。

 結局、振り出しに戻ってしまった……。



 とはいえ、メイソン先生に質問出来たことで、大量の本の中から必要な情報を探し出す苦労をせずとも答えは出た。

 聞けば何でも的確に返ってくるこの機会にと、気になっていたことも質問しておくことにした。


「初回授業で先生はエリーに、『聖女としての役割を終え国に帰れば』と仰いましたよね。その役割というのは、このマリアナージュにいなければ果たせない、と言っているように聞こえたんですが?」

「! ……確かに、そうだ」

「……もしかして『災厄』とは、マリアナージュから起こるものなのですか……?」


 メイソン先生の顔色が変わる。

 聞いてはいけない話だったのかもしれない。

 

「……『災厄』については詳しく話せない。マリアナージュの一部の人間と、各国の王族にしか伝えられないんだ」


 いずれ起こるかもしれない恐ろしい『災厄』から、聖女様は救ってくれる、と。大陸中が希望を抱きながらも、『災厄』とは具体的にどんなものなのか、誰も知らない。

 しかもそれが、このマリアナージュに関わるものだったなんて……。


 触れてはいけない秘密の一欠片に手を伸ばしてしまったような気がして、胸がざわめいた。



「聖女は、その光の魔術を使い、『災厄』を防ぐ。俺に言えるのは、そこまでだ」

「魔術の使用は、絶対なんですね? 聖女はただ存在するだけでは、『災厄』は防げない……」



 ならば尚更、エリーはどんなに恐れていようと魔術を使うことから逃げられない。

 彼女はここで魔術を学び、その力を世界のために使う使命が課されているのだ。


 その重圧たるや、完璧王子の婚約者の比ではない。

 想像しただけで、血の気が引く思いがした。



「お前は聡いな、アメリア」


 その声に顔を上げると、メイソン先生が優しく微笑んでいた。

  

「気に入った。俺はほとんどの時間をここで過ごしている。いつでも訪ねて来てくれ」

「……ありがとうございます……?」



 大した話はしていないはずなのに、何故だか気に入られてしまったようだ。

 私はレイノルド様のように高潔な人間ではないので、どうかそれだけは誤解のないように、と祈らずにはいられなかった。

 

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