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その求婚は謹んでお断りします、王太子殿下  作者: 玖珠ゆら


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図書館の住人


 マリアナージュ魔術学園に入学して、一週間が経った。

 例のシリルの発言のせいで、私は翌日からしっかり孤立している。

 ルカは一緒にいてくれるし、事実は変えられないので仕方ないと思っているけれど、一つだけ諦め切れないこともある。


 それが、ルカの傷を治すことだ。


 卒業までにエリーと良好な関係を築いて、再度お願い出来ればいいけれど、シリルが彼女にべったりくっついて私を牽制しているし、エリー本人にも避けられている。


 そもそも、エリーは魔術の使用を恐れている。

 

 この学園に入学した以上、いつまでも逃げてはいられないのだから、いずれは魔術を使えるようになると思う。


  

 それでも、私自身も個人的な欲求のために彼女に魔術を使用させることに、躊躇う気持ちを抱き始めている。

 私のように、誰かのため、自身のために回復治癒を願う人は、きっと世界中に大勢いる。

 その全てがエリーに治してもらうことは叶わないだろうし、皆がエリーに願い乞えば、もし魔術を問題なく使えるようになったとしても、彼女は再び辛い思いをするのではないだろうか。


 


 ────そもそも、聖女の定義とは何か。


 光魔術が使えるということはわかっている。

 その魔力が、とても大きいものだということも。


 では、聖女以外が光の魔術を使うことは出来ないのだろうか。

 例えば光魔術が使えるとして、その魔力がごく僅かという人間は、一人もいないのだろうか。

 魔力量によって、魔術による回復治癒にどれ程差が出るものなのか──。



 考えてわかるはずもなく、私は放課後、図書館に来ていた。 


 

 図書館はマリアナージュ内で学園の次に大きな建築物だ。

 円柱状の二階建てとなっており、大陸中の本が集められている。

 一階部分には大きな窓があり、窓際に読書用の机と椅子が沢山並べられている。窓の外にはマリアナージュの森の美しい緑が広がっており、人口のそう多くないマリアナージュ内でも、かなり人気の場所となっている。


 

 私がいるのは二階部分。一階とは少し雰囲気が違う。

 ここには魔術の専門書ばかりが並んでいる。

 基礎専門書は学園内の図書室にもあり、学園の学習内容に関する知識を得るには、そこで充分事足りる。

 こちらまで足を運ぶ学生はほとんどいないため、全く人がいないのだ。

 明るい一階と異なりここは昼間でも薄暗いので、益々人が寄り付かないのだろう。

 古い書物も多く、太陽の光による劣化を防ぐ目的で、窓がほとんど無いのだ。代わりに魔道具のランプがあちこちに灯されている。



 光魔術についての記載がありそうな本を次々手に取り、ランプの下でページをめくる。


 ルカは何も聞かずについて来て、すぐそばに座って退屈そうにしている。

 初めのうちは私と同じように本を開いたりしていたのだが、興味を持てなかったらしく、すぐに放り出してしまった。

 

 そのうち退屈に耐え兼ねたのか、図書館中をうろつき始めた。


 気にせず本を読み続けていると、しばらくして姿が見えなくなったルカの声が、少し離れた場所から私を呼んだ。


「お嬢ー! こっち来て」

「もう…………何よ?」


 仕方なく声のする方へ行くと、本棚の間に不自然に備え付けられた扉の前に、ルカが立っている。


「見て、これ。こんなとこに扉って、変じゃね? しかも中で人の気配がするんだけど。開けていい?」

 

 慎重・安全を第一に考えるべき護衛には、必要のない旺盛な好奇心だ。

 しかし今は護衛ではなくただの学生なのだから、私が止める理由もない。


「開けられて困る扉なら、鍵がかかっているんじゃないかしら」

「じゃ、開けてみよ」


 


 ルカはそう言うと、全く躊躇わずに勢いよくノブを回し、扉を押し開いた。


 

 扉の向こうは、眩しい光で溢れている。

 ずっと薄暗い場所にいたせいで、目の前が真っ白になって何も見えない。



 目がようやく慣れると、そこが小さな部屋だとわかった。

 とても大きな窓、書類が積み上がった机、壁一面にも沢山の本が並んでいる。

 部屋の奥にはベッドまであるのが見える。


 そして机に向かい、革張りの大きな椅子に腰掛けていたのは、なんと学園長のメイソン先生だった。


 その冷たい灰色の瞳に私たちを映し、メイソン先生は呟いた。


「お前たちは……新入生の、アメリアとルカか」


 しっかり覚えられている。

 入学式と、一度の講義でしか顔を合わせていないのに。

 

 怒っているような無表情に、慌てて頭を下げた。


「申し訳ありません、学園長先生。まさか先生がこちらにいらっしゃるとは思わず、扉を開けてしまいました。大変失礼しました」

「別に構わない。ここに人は滅多に来ないから、鍵はかけていないんだ。それでお前たちは、ここで何をしていた?」

「図書館ですから、もちろん調べ物を。光魔術に興味があったものですから」

「魔術属性についてなら、教科書に載っているはずだ。ここにあるのは専門書ばかりだろう」

「ええ。教科書は、一通り目を通しました。ただ、光魔術についての記載はほとんどありませんでしたので、こちらになら詳しく記載された本があるかと思ったのです」


 もちろん、教科書全てを読んだわけではない。

 『魔術の歴史と成り立ち』とか、『魔力放出の基本』とか、そういうのはスルーした。

 私が読んだのは、『属性魔法とその効果』という教科書だけだ。そこには、水・風・火・土の四属性については詳しく書かれていたものの、光属性については、メイソン先生が初回授業で話した内容以上のものは無かった。


 しかしメイソン先生は、驚いてその目を見開いた。


「まだ入学して一週間だろう。もう教科書を読み込んで、更に専門的に学ぼうとしているのか」

「いっ……いえ! そんな大したことではありません! ちょっと、聖女様の魔術というのに興味があっただけですので。せっかく同級生として学べるのですし?」


 過大評価されている気がして焦る。

 聖女の方にこそ興味があるのだと強調したのだが、メイソン先生は更に身を乗り出してきた。


「アメリア。俺が知る限り、お前で二人目だ。入学後間もないのに、聖女や『災厄』について深く知ろうとしたのは」

「は…………はい?」

「お前は魔力量もかなり多かったな……。しかもあれは確か、8歳での記録だろう? 今は更に増えているのではないか? もしかしたら、お前は」



 続いたメイソン先生の言葉に、私は耳を疑った。



「レイノルド・ルーファスを越える存在になり得るかもしれない」


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