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その求婚は謹んでお断りします、王太子殿下  作者: 玖珠ゆら


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マリアナージュ魔術学園3


「魔術の使用を楽しみにして入学したのだろうが、この先しばらく講義が中心となる。実際に魔術を使用出来るのは、正しい知識を頭に入れてからだ」


 初めての授業中で教壇に立ったのは、学園長のメイソン先生だった。

 30歳にしてマリアナージュ最高の魔術師として学園長の座に収まっている彼は、入学直後浮き足立つ生徒たちに釘を刺すため、初回授業のみ特別に講師役を務めるそうだ。


 そんなメイソン先生の言葉に、皆明らかにがっかりしている。

 隣に座るルカからも、「だる」という言葉とともに舌打ちが聞こえてきた。


「まあ毎年概ねお前たちと同じような反応だが、これは重要なことだ。三国平和同盟で魔術に関する厳しい規定があるように、魔術はとても危険なものだからだ。学園内では、人に魔術を向けることは一切禁止となっている。破れば罰則もある。もちろん、マリアナージュの外でも同じことだ」


 思い切りルカに向かって魔術を放った経験のある私としては、非常に腑に落ちた。

 私の魔術属性が水であり、ルカが鍛錬のお陰で強靭な肉体の持ち主であったからこそ無事だったが、風や火の属性魔術を人に向ければ、大変なことになるだろう。



 メイソン先生は、そこで視線をエリーに向けた。

 長い銀髪に灰色の瞳をした彼はどこか冷たい印象を与えるので、エリーの肩が怯えたようにびくりと跳ねる。


「何事にも例外はある。エリーが持つ希少な光属性の魔術は、人に危害を与えることはない。その効果は他属性魔術の無効化と、特殊な結界生成、そして負傷箇所の回復治癒だ。この学園で学び、聖女としての役割を終え国へ帰れば、その力を人のために使うこともあるだろう」


 聖女様の能力が凄すぎる。

 人を癒せるというのは結構有名な話けれど、本当だったのか。


 気が付いたら、私は手を上げていた。


「先生。質問してもよろしいですか」

「勿論だ」

「回復治癒効果はどれ程のものですか。命ある限りはどんなに酷い状態でも治せるのでしょうか。それから、例えば何年も前の古傷などにも有効なのですか」

「魔術使用者の魔力量によるな。過去の聖女が、ちぎれた腕を生やしたという記録もある」


 教室内に、感嘆の声が上がった。

 皆から羨望の眼差しを向けられ、エリーは居心地悪そうに俯いている。



 

「…………いける…………かもしれないわ…………」


 誰にも聞こえないように小さく呟いたつもりだったけれど、隣のルカから不審そうな目を向けられた。




「静かに」


 沸き立つ空気に水を差すような冷ややかな声でメイソン先生が告げる。


「あくまでもエリーは例外だ。この学園の入学許可を得たお前たちの魔力量は相当なものだ。人に向けなくとも、魔力を体外に放出することは危険が伴う。魔力コントロールに失敗すれば、魔力が暴発し、取り返しがつかないことになる。その時は最早、人では居られなくなると思え」


 突然の脅しに、肝が冷える思いがした。 

 一瞬にして深刻な空気が漂う。


 メイソン先生は不安げな生徒たちを安心させるように、少しだけ優しい声音で言った。


「そのためのピアスだ。魔石によって魔力を安定させるものだから、外すなよ」


 


 ◇◇◇



 

 聖女エリーの人気ぶりはかなりのもので、休み時間のたびに人に囲まれていた。

 けれど大人しい彼女はどちらかというと困惑の色が強く、皆徐々に遠慮して過剰に話しかけることはやめていった。


 二年あれば、自然と仲良くなれるはず。

 学園生活に慣れるまでは、彼女をそっと見守ろう、という思いやりからだった。

 


 

 そしてそれは、私にとっても都合がいい。

 放課後、一人で帰り支度をしているエリーを見てほくそ笑む。


 なんとかして、エリーに取り入ろう。


 彼女に助けてもらいたい。光の魔術、治癒の力で。



 あの日ルカが負った火傷は、かなりの重症だった。

 手当てを頼んだ後は一度も傷を見せてもらっていないが、レイノルド様から聞いた話では、足全体に跡が残っているという。


 それだけではない。


 恐らく後遺症が残っている。

 普段の生活では支障なく、自然な動きでわからないけれど、急な動きとなると違和感がある。今までと明らかに反応が違う。

 火傷の跡で皮膚がひきつれて、思うように動かせないのではないだろうか。


 護衛としては致命的だ。

 それが原因で、ルカは護衛を辞めてマリアナージュへの入学を決めたのだと思う。


 私のせいで────。



 そんな罪悪感に私は耐えられない。

 私は私のために、ルカの火傷跡を綺麗に治して欲しいのだ。

 出来れば一日も早く。



「エリー様。少しお話させていただいても?」


 私が話しかけると、エリーは目を見開いた。

 近くで見る彼女は一層可愛らしい。自信なさげにいちいち眉を下げる様子も、庇護欲を掻き立てられる。


「あの……。その呼び方はやめてください。せっかく同級生になれたから、みんなと対等でいたくって……」

「それもそうね。それじゃあエリー、私のこともアメリアと呼んでくださる?」

「アメリア……」


 私の名前を呟き考え込んだ様子のエリーに、首を傾げる。


「私の名前が、何か?」

「あっ、いえ! レイノルド様から聞きました! アメリアっていう子も、私と一緒にマリアナージュに入学するから、仲良くして欲しいって。それでつい、色々思い出してしまって」

「そう……。レイノルド様が」


 ここには居ない彼の心遣いに感謝する。

 私が一足先にマリアナージュへ発った後、彼は王城に滞在していた聖女様とそんな話をしたのだろう。



「私も是非、仲良くしたいと思っているわ。それでエリー、とても不躾なのだけれど」 


 エリーに、にっこりと微笑みかける。


「あなたの光魔術を、見せてもらえないかしら?」



 私の言葉に、エリーが真っ青になった。


 

 その瞬間、悟った。

 順序を誤った、早まり過ぎた………………と。

 

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