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9 パーティー

どうぞよろしくお願いいたします。

 レオお兄様の婚約パーティーの日は、あっという間にやってきた。


 私のジャスティンへの想いや悩みなんて考えている時間がないほど、と言いたいところだが、さすがにそれはなくて、やっぱりジャスティンのことを気にしながらもお客様の名前を覚えたり妹としての挨拶を考えたりして、私なりに準備を整えた。


 そして今日は深緑色のほっそりとしたドレスを着せてもらって、後はパーティーの始まりを待つだけだ。


「わ、ジェシカお姉様、綺麗です!」


 もう一人の主役であるはずのアーロが私の部屋にひょっこり現れた。


 最近は以前よりも姉扱いしてくれると言うか、懐いているように感じる。まあ、前のジェシカは我儘でアーロにも気分で無理難題をふっかけたりしていたので、気持ちはわかる。


 そしてそれは嬉しいけれど、もうすぐパーティーが始まることを考えると、アーロがここにいるのは良くない。


「あら、どうしたの?あなたがここにいちゃあダメじゃない。早くホールへ行ってお客様をお迎えしなくては」


 そう声をかけると、アーロは少し拗ねたように


「レオお兄様の婚約の方が注目されるているんだから、少し遅れるくらい大丈夫だって」


と答えた。


 レオお兄様はとても優秀だし、婚約者も負けず劣らずの人物で、家柄や性別に関係なく尊敬できる方だ。その二人の婚約なので注目度は高い。


 それと同時のアーロの入学祝だ。彼の気持ちもわからないでもない。でも、アーロにはアーロの良さがあるのだ。


「ダメよ。アーロ、学園に入学できるのはとても栄誉なことよ?これまできちんと頑張ってきた結果だもの、お兄様の婚約と同じだけの重さのある報告なの。だから胸を張って、しっかりお迎えする姿を見せてちょうだい。さ、私も行くから一緒に行きましょう!」


 この世界では能力と環境に恵まれただけでは王立学園に入ることはできない。それら以上に大変な努力をした者だけが成し遂げられるのだ。しかも、入学後はさらに努力し、卒業後も能力に見合う努力を続けなければ望む職に就くことやその先の仕事の継続は難しい。


 基本的にこの世界、この国は自分で進路や仕事を選ぶことができる。けれど学園への入学とその先は大変だからこそ、入学が可能だろうと思っても選ばない人も多い。


 大学進学について悩んでいた私にとって、その努力を重ねて結果を出し、入学を決断したアーロは称賛に値する。本当に誇らしいし、尊敬する。


 そのアーロにレオお兄様への引け目なんて感じてほしくない。のびのびと自信をもって自分の力を伸ばしてほしい。そんな気持ちが湧き上がる。


 鼻息も荒く自分の手を引いて部屋を出ようとする私に、アーロはポカンとした顔をしたが、すぐに頬を染めて


「…っそんなに言うなら…行くよ。なんだよ…自分が入るわけでもないのに…」


とブチブチ言いながらも大人しくついてきた。


 おそらく照れているのだろう弟の姿に私まで少しニマニマしてしまう。ああ、なんだか家族って感じがして…嬉しい。そして叔母さんや幸司兄を思い出して胸が痛んだ。でも、今の私はジェシカだから。


「アーロ、私、あなたが誇らしいわ。これまで、私は我儘ばかりだった。でもあなたの努力を見て、これじゃあダメだと思ったの。私、あなたから誇らしいと思ってもらえる姉になれるよう、頑張るわ」


 前世での自信がなかった自分への決別の意味も込めて断言した。アーロの手を握って長い廊下をズンズンと進みながら、私の心は晴れ渡っていた。



 会場である広間では両親とお兄様、婚約者のオリヴィア様が談笑中だった。使用人たちは準備を終えてお客様の到着を待っていた。


 私達が広間に到着すると、お母様が


「まあ、アーロ、どこへ行っていたの?準備は…大丈夫なようね」


と呆れたように言った。でも表情は優しく、アーロを愛していることが感じられる。


「遅れて、すみません。あの、お姉様を迎えに行っていて」


「ああ、ジェシカ、あなたもとっても素敵よ」


 お母様は私の手を取って、にっこりと微笑んだ。


「ありがとうございます。今日はお兄様とアーロの大切な日ですもの」


 そう、私は今日からこれまで以上に努力すると決めたのだ。家族に喜んでもらえるよう、何より自分自身に自信をもてるよう。


「今日は僕がお姉様をエスコートします」


 さっきの会話の流れからかアーロが私の隣に立って腕を差し出した。


 少しは私を見直してくれたのかもしれない。今は同じくらいの高さの目線だけれど、きっとこの後アーロはもっと大きくなるのだろう。


 エスコートの申し出は光栄だけれど、今日はアーロも主役の一人だし断ろうとした時、


「その役はぜひ私に」


 広間の入口に目を向けたみんなの目に入ったのは正装して眩く輝くジャスティンの姿だった。



「ジャスティン…様」


「ジェシカ、今日は私が君をエスコートしたい。ローズウッド伯爵、どうぞ許可を」


「…ああ、もちろんだ。ジェシカを、娘をよろしく頼む」


 お父様はあっさり許可して、微笑んでいる。お母様もニコニコしながら頷いている。お兄様はオリヴィア様とニヤニヤしている。アーロは…憮然とした表情だが、私をチラリと見ると


「…仕方がないか、譲るよ」


とため息を付きながら両手を挙げ、


「お姉様のそんな顔見ちゃったら、そう言うしかないよね」


とお兄様と同じ表情をした。


「!」


 そんな顔って…多分私の顔は真っ赤なのだ。


 だって、ジャスティン、素敵すぎる。ジェシカの記憶にある怜悧な雰囲気のジャスティンの姿に、最近のよく笑う、私を熱っぽい目で見るジャスティンの姿が重なって、そして婚約を進めようと言った声や、く…く…口づけたあの日のことを思い出して、倒れそうになる。


 そんな私にジャスティンは寄り添って、手を取ると自分の手に乗せた。


「ローズウッド伯爵には婚約の話を既にして、許可を頂いているから…本当は今日ここで発表してもいいくらいなんだけど…お義兄様に悪いからね」


 パーティーが始まる時にそんなことを言われて、途中で何度も可愛いとかドレスが似合っているとか早く自分たちもお披露目したいねとか言われるせいで照れる上に、そんなことを言うジャスティンがずっと隣にいるせいで、私はお兄様の友人たちに挨拶をすることはできなかった。


 せっかく結婚相手を精力的に探している令嬢仲間から釣り書きをこっそり見せてもらって、ある程度顔と名前を覚えられたのに…お兄様もご友人方もなんだかやれやれという顔をしていた…名前、本当に覚えたんですから。披露できなくて残念なんですから。


 お母様にいたっては、


「あらぁ、すっかり婚約者同士って感じねぇ。ジャスティン、今日はもう泊まっていったら?可愛いジェシカがレオのお友達にアプローチされたら大変でしょ?」


なんて優雅に怖いことを言うので、私の腰を抱くジャスティンの手に力がこもった。


 その後のことはフワフワしてしまっていたのでよく覚えていない。

お読みくださりありがとうございます。

ゲームの性質上、お母様もだいぶサバサバしていらっしゃる…?

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