6 思ってたのと違いました
R15設定にしたのはこのあたりの状況と言葉選びです。引っかかりそうなら移動させようと思いますのでご注意ください。
びっくりして大きな声が出た私。
「ちょ、声大きいし。あの…ちゃんと言わなくて悪かったけど、このゲーム、恋愛ゲームでヒロインのマリアがいろんな人と、その…エロなことをするのがメインで…」
「…」
「マリアが聖女になったら、いろいろなところへ行くいうのも、それを口実にカッコイイ人たちと旅をしながら、その…」
「…ちょっと」
「ごめん…」
「つまり、マリアはジャスティンや他の人と旅しながらエロいことをするってこと?聖女として人を癒やして回りながら?」
「あー、だからごめんって」
開き直ったようなマリアをジト目で見てしまうのは仕方がないと思う。しばらく気まずそうにしていたマリアだったが、ようやく話し始めた。
「最初はさ、自分もヒロインだ、やったーって思ってたんだよ?カッコいい人たちとエロいイベントこなしてチヤホヤされるなんて、すごいって。前は私全然モテなかったし、大事にされるのってどんなだろうって楽しみにしてた。でも、しばらくここで生活してたら、怖くなったの。小さい子たちと遊んだり勉強教えたりして、ジャスパーが来ていろいろ話して、だんだんジャスパーが気になるようになって…そうしたら、他の人とそんなことできるのかなって。ジャスティンはゲームで見ていたしカッコイイと思うけど、それほど話したりしているわけじゃないから、正直好きなのかって言われるとわかんない。でも、ジャスパーは…」
「…好き?」
マリアはコクンと頷いた。
「もし、ジャスパーに好きだって言われたら、嬉しい。聖女にはなりたいけど…もしなれなくても、ジャスパーと一緒なら、このままのマリアでもいいって…思ってる」
しばらく二人無言でいたけど、気になったので聞いてみた。
「あのさ、もし聖女がいなかったら、この世界ってどうなるの?」
「…特に何も」
「え?どゆこと?」
「治癒の魔法は便利だから、いろんなところで人を救うことはできるけど、時間をかければここのお医者さんでも治せるようなものが多いの」
「聖女がいないと世界が滅びるとか」
「ない」
「国を揺るがす事件は」
「おきない」
「…じゃあもうジャスパーって人とくっつけばいいじゃん」
「で、でもっ」
「何が困るの?」
「それでいいのかなって…だって聖女になるのがマリアの役割で…」
「実際のゲームでは、ゲームオーバーの時はどうなったの?」
「マリアはジャスティンか、他のモブの男性と結婚して、平凡に暮らし…あっ」
「いいじゃん、ゲームオーバーで。ジャスパーさんと結婚して平凡に暮らせるってことじゃないの?」
「…いいのかな?」
「だって、そうしたいんでしょ?」
「…伊勢崎さんに、ジェシカになってもらったのに?」
「あ、私?」
「そうだよ…」
「え、でもさ、豊浦さん、あのままジェシカだったら、私のこと虐めてた?」
「いやっ、そこまでの虐めなんて多分無理…あっ」
「ほら、じゃあ同じじゃん。聞いてて思ったけど、多分それがないとジャスティンとマリアの仲って進展しないんじゃないかな。だったら私がマリアでも聖女にはならなかっただろうね。そもそも私はこのゲーム知らないから聖女になるとも思ってなかったし、ジャスティンがただここに来ても好きにならなかったと思う。キレイな人だとは思うけど、元々の好みからは遠いし…私もマリアの時はこのまま教会で暮らしてそのうち村の人と結婚とかするんだろうなって思ってたよ」
「…じゃあ」
「そ、もし私に何か思うことがあるんだとしたら、それは考えなくていいってこと。豊浦さんが来てくれなかったら私はここで平凡に暮らして人生終えてた。それもいいけど、今の伯爵令嬢の生活も正直気に入っている。兄弟もいて、両親もいて、私にも家族ができたんだなって嬉しい。だから、もしマリアがジャスパーさんを好きなら、一緒になる努力をすればいいと思う」
マリアは私の顔をじっと見ていたが、そのうち、口がへの字になって、
「ごめんね」
って言ったから、
「そこは、ありがとうじゃない?」
って言ったら、
「…ありがとう」
って抱きついてきた。
ふわふわの金髪のマリア、幸せになってほしいと思った。それにしてもさすがヒロイン。泣いてる顔も可愛いし、胸もポヨンポヨンしてる。よしよしってしながらちょっと羨ましい私だった。
「じゃあ、もしジャスティンがパーティーに誘ったら、断るってこと?」
泣きやんだマリアに確認すると、即座に頷いた。
「うん、ジャスパーとここで生きていけるように頑張るから、パーティーに参加してる時間はないかな。今からドレスやら何やら準備してたら忙しいしお金もかかるし。それよりも村のお祭りの準備の方が重要だと思って。でもさ、多分ジャスティンは私を誘わないと思う。さっきも言ったけど、私達、接点がなさすぎるもん」
「そうなんだ…」
「そうなの、でも、そうなると本来ジャスティンのことが好きでアタックしてたジェシカの立場って…」
「アタックって…あー…うん、でもホントそう。彼は時々うちに来てお茶飲んでるんだけど、これまでのジェシカを考えると…親や周りからは私がすごーく喜んでると思われてるだろうね。今更『そうでもないので、もういいです』っていうわけにもいかないかも」
「ジェシカはジャスティンに夢中だったものね。でもジャスティンはジェシカの我儘に辟易してたじゃない?なんでお茶なんて飲みに行ってるの?ジェシカが誘ってる?」
「まさか。マリアとくっついて貰わなきゃって思ってたし、そんなことしてないよ。でも、うーん、なんでだろう、短い時間でもよく来てる気がする…最近大人しくしてるから、何か企んでるのかと疑ってるのかも」
「ゲームではそういうタイプではなかったよ。正直で真面目で強い人。公爵家の嫡男で家を継がなくてはならないからって品行方正で、無駄なことはしない。それに、うん、嫌ならそんな風に時間を使ったりはしないと思う。だって…」
「だって、何?」
ちょっと言いよどむマリアにすかさず突っ込む。
「えーと、マリアに告白してすぐに」
「すぐに?」
「押し倒した」
「押し…え?」
「ほら、そういうゲームだから、告白して両思いになるっていうのはそういうことで」
「さっき、ロマンチックって思った私のときめきを返して。もう、何それ、そんな情報いらなかった!」
「だって、もしこのままジェシカが断らなかったら、あれだけ両家で話を進めていたんだから婚約して結婚だよ?今から心の準備は必要でしょ。乙女ゲームのヒーローは絶倫でエロいっていうのが定番なんだから。そしてジャスティンは無駄なことはしないから展開が早かったし、その後の旅や冒険に時間かかるし、そこはもうサクッと…」
「そんなの知らないし!」
平気な顔でそんなことを話すマリアとは違ってその手の話に免疫がない、というかそんな話をする相手もいなかった私は、熱くなった顔を手で覆った。
「ジャスティンのこと、嫌い?」
まだ顔が熱い私にマリアが聞いた。私は
「嫌いとか好きとか…まだ会って3週間位だし、マリアとくっつくと思ってたし、そんなこと考えてなかったから、わからないよ」
「ごめんね…」
「いや、そこはもういいの。そう、ここからは私の問題だよね、うん、ジャスティンとのことをどうしたいか、考える。うん、そうする!じゃあ、また来るから、またね!」
マリアの顔が曇ったので、元気を装って明るくそう言うと、教会を後にした。
お読みくださりありがとうございました。高校生らしい二人でした。