表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

5 マリアとの再会

どうぞよろしくお願いいたします。

 文句を言わずに食事をするようになったことや、矢鱈と着替えをしなくなったことなどからか、両親も兄弟も私に対して特に何かを言うこともなく、むしろ何か欲しいものやしたいことはないのかと聞いてきたので、もう少し勉強がしたいのでもう一度家庭教師をつけてほしいと頼むと、父親が涙を見せたので、どれだけ我儘娘だったのジェシカ、とちょっと引いた。


 でもおかげですんなりと家庭教師を見つけてもらえたし、とっても優しい先生だったので、2週間程度で私はいい感じに貴族の令嬢っぽくなってきた。


 前世でのファンタジー世界の理解が助けてくれてる気がするけど。


 あまり我儘を言わなくなってきたので、アイラや他のメイドたちもチヤホヤしてくれるのが増えた気がする。


 あと、しょっちゅうジャスティンが来てお茶を飲んで帰るけれど、私達の間に特に進展はない。会話だって天気の話や頑張って勉強し直していることくらいで、全然弾まない。


 あ、でも今日は少し話したのだった。


「…」


「…あの、来てくださって嬉しいのですけれど、騎士団のお仕事がお忙しいのではありませんか?」


「このくらいの時間はあるから、大丈夫だ」


「そうですか…ええと…」


「…」


 たいして楽しそうでもなくお茶を飲むジャスティン。


 気まずさに耐えかねて、お茶菓子の一つとして並んでいた、前世の知識を伝えて作ってもらったチーズケーキを紹介する。


「あ、これなんですけど、牛乳から作ったチーズにクリームを混ぜて作ったものであまり甘くないのでジャスティン様のお口に合うかと思います」


「…チーズ、ケーキ…」


「あ、ええと、温めた牛乳にレモンを入れて作るもので…よろしければ…」


 焦って取り繕いながら会話を続ける私を他所に、ジャスティンは小さく切られたレアチーズケーキを食べた。


 台には砕いたクラッカーとバターを混ぜた物を敷いている。叔母さんのお店でデザートとしてよく出していたもので、これを作るのは私の役目だった。


 牛乳が安い時にカッテージチーズから作っていて、最後にこれを出すと、お客様はみんなちょっと嬉しそうな顔をしてくれた。爽やかな味で、甘みが欲しい人には自家製のジャムやフルーツソースを勧めて…これは、この世界のお菓子の甘さに疲れて作ってもらったのだ。


「…美味しいな」


「そうですか!それは良かったです。次回もご用意いたしますね」


「…ああ…」


 これでもだいぶ会話が盛り上がった方だ…。それでも当たり障りのない交流ができているので良しとしよう。


 こんな風に、ああ、このまま何事もなく人生が進んでくれればいいなと思っていたが、そうは問屋がおろさない状況になった。


「レオお兄様の婚約発表とアーロの王立学園の入学をお祝いするパーティー…?」


「そうよ、忘れていたの?もう1週間後よ?あなたも素敵なドレスを着て参加しなくちゃ」


「え、ええ…はいお母様」


 そうだった…思い出したところによると、兄のレオはとても優秀で王立学園の卒業後はさらに上の大学院に進み、そして今は文官として王宮で働いており、エリートコースまっしぐらである。


 あまりの優秀さに、転生してからそう接点の多くない私でさえ引け目を感じる。


 アーロの王立学園入学も、高校入学と同じようなもので、しかもとても難しい試験に合格しなくてはならないので立派だ。可愛い感じの弟も兄の凄さにいじけず努力していて偉いなあと思う。


 でも今はそれよりもしなくてはならないことがある。マリアに手紙を書くことだ。


 どう考えても何か起きそうな気がしたからなのだが、マリアからはすぐに返事が来た。


 やはりゲームではマリアはそのパーティーの夜に聖女の力を発現するらしい。となると、マリアもこのパーティーに参加するということなのだろうか?手紙ではそのあたりがよくわからなかったので、私は思い切ってマリアのいる教会に行ってみることにした。



「ジェシカ、久しぶり!」


「マリアも、元気そうね」


 私達はすっかり自分たちに馴染んだ名前で呼びあった。今日はセオドアは街へ用事で出かけるというので二人でゆっくり話せるはずだ。マリアがお茶を淹れてくれたので、二人で台所のテーブルにつく。


「最近はどう?貴族の生活には慣れた?」


「ええ、もうだいぶ困らなくなってきたの。どうしても本物のジェシカに比べると大人しいみたいでみんな変な顔してるけど、時々、どうしても〇〇が食べたいとかすぐに△△に行きたいとか我儘言って誤魔化してる」


「そうなんだ、我儘って大変なんだね。ま、それもそうか、伊勢崎さんって自由気ままに見えて実はいい人だったもん、苦労するよね〜」


「え?私?」


「そうだよって、え、自分でわかってなかった?」


「いやぁ…うーん…?」


 マリアの豊浦さんは、『伊勢崎ともえは背が高く迫力のある人物で、大方の人からは部活にも入らず自分の好きなことをしている印象をもたれていたけれど、少しでも一緒に何かしたことがある人たちからは、本当は家の手伝いをしている真面目な子で、行事や委員会の仕事を押し付けられても引き受けるいい人だと思われていた』と語った。


「え、その、家の手伝いって…」


「叔母さんちのお店の手伝いだよね?ほら、初音町のカフェ?レストラン?あれ、違う?」


「そうだけど…え、なんでそのこと」


「お店によく配達を頼んでいた病院あったじゃない?あれ、渉のお父さんがやってる病院だから」


「えっっ!蓬莱くんの?」


「そ、だから渉はずっと前から伊勢崎さんのこと知ってたんだよ。お店にも何回か行ったことあるって行ってたし…気付かなかったの?」


「お客さんのこと、気にしてる余裕なかったから」


「そうか、忙しかったんだね。ホント渉が言ってた通り、伊勢崎さんて真面目。寺久保くんも伊勢崎さんに夢中だったし、羨ましかったな」


「そんなことないよ、寺久保くんは私が忙しいのに何となく仕事を終わらせるのがなんでかって知りたかったみたいだけど」


「はっ!本気で言ってる?全く鈍いのもすぎると反感かっちゃうぞ」


「え、そんな」


「いいや、そういうのって罪だから!もう。しかも伊勢崎さん、実は勉強できたよね?」


「え、あー…うん…まあそこそこ…でも、豊浦さんの方がずっと成績良かったでしょ?」


「そりゃー私はがっちり塾や予備校行ってたからね。デキすぎな父親の期待に応えなかったら何言われるかって…だからあれくらいできて当然だったんだよ」


「そんなことない!」


 言い返した私を驚いた目で見るマリア。


「ど、どうしたの?」


「豊浦さん、いつもちゃんと勉強して、学級の仕事や部活もやって、すごいと思ってた。期待されるのってきっと大変で、それに応えようって努力できるのは才能だと思うし、当然なんて…そんなことないよ。豊浦さんはすごかった」


「はは…あ、アリガトウ?でも、私から見れば見目麗しい伊勢崎さんが羨ましかったよ…まあ今ここでそんなこと言い合っても仕方ないけどね」


「…あーそうだよね…」


 見目麗しいはどうかなとか思ったけどまた否定するのもなんだし、それに、なんだか二人してちょっと寂しくなったので、お茶を飲んで気を取り直す。


「私の方は、まあそんな感じで貴族っぽさにも慣れたけど、マリアサンはどう?」


「何よ、サンなんてつけちゃって。マリアでいいから」


 マリアは苦笑いしながら両方のカップにお茶を継ぎ足して、自分の分を一口飲むと近況を教えてくれた。



 マリアは、あの後、慰問として来てくれた騎士団にいたジャスティンと出会ったということだった。


 マリアが小さい子たちと遊んでいるのをしばらく見ていたジャスティンは、その後も何度か教会を訪れて、子どもたちにと衣服やお菓子、勉強に使える石盤なんかを差し入れてくれたそうだ。順調なようで何よりだ。


「ゲームでは、ジェシカの家のパーティーの日にジャスティンがここに来て、告白されるんだよね」


「えー何それ、ロマンチックじゃん!」


「あー、ゲームだしね〜」


「じゃあ、私が二人の邪魔をするのはその前?後?どっち?」


「うーん、実はゲームではもうジャスティンが教会に来ているのに気付いたジェシカがここに押しかけて、私にいろいろ意地悪してたんだけど…」


 なんと、全然順調じゃないようだ。でも教会に来ていると言えなくもないか…?いやいや!


「えっ、じゃあ私、出遅れてるってことじゃない?どうしよう」


「いや、でもね、マリアの聖女の力の発現は裏手にあるあの木、あの下で両思いになるってことで起きるから、その状況さえ作れれば、ぶっちゃけジェシカが意地悪しようがしまいが、関係ないとも言えるんだよね」


「あ、そうなの?それならいいの。二人の邪魔するのって正直気が進まないから」


「はは、でしょうね。でも、そう考えると、告白されるほどジャスティンとは接触がないんだよね、本当に私、聖女になれるのかな?」


「そんな!それじゃあなんのために替わってもらったのかわかんないじゃない。やっぱり私これから邪魔するよ!」


「いや、そんな無理する必要はないって。それに…」


「何?」


「いや、その…実は私、ジャスティンよりも教会にいつも来てくれる領主の息子の方が好みで…」


「ええっっ?何それ、いいの?」


「いや、本当に聖女にはなってみたいんだよ?でもジャスパーは…あ、ジャスパーって領主の息子ね、うん、彼は何と言うか優しいし、領主の息子なのに小さい子や貧しい人たちに丁寧だし…一緒にいると落ち着くっていうか…」


「それって好きってことじゃない?」


「やっぱり?」


「いや、うん、それは…でも、マリアが聖女にならないと、困るんじゃないの?」


「何が?」


「え、ほら、ゲームのストーリー上、マリアが聖女にならないと何か大変なこととか?」


「あー、それなんだけど…実はこのゲーム、絵だけが人気の乙女ゲームだから話はそんなにシビアじゃなくて、マリアがジャスティンや他の人たちと結ばれていくのがメインっていうか…」


「え、他の人たち?たちって何?」


 想像外の話が出た。

お読みくださりありがとうございました。ジェシカ、初情報に驚きでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ