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3 新たな人物登場

よろしくお願いいたします。

 入れ替わりが完了して、私はすぐに馬車に乗ってジェシカの家、ローズウッド伯爵邸に向かった。私はそこの伯爵令嬢、ジェシカ・ランドレン…でも伯爵って何?と思いつつ家までの道を眺める。


 これまで教会にしかいなかったので、町並みの美しさや活気のある人々の様子にワクワクしてしまう。たくさんのお店や馬車、ちょっと昔の外国みたいだ。


 ゲームだからあまり不便なこととかない設定でラクだよ、と豊浦さんは言っていた。確かに、道路の脇には街灯があるし、街中の衛生状態も悪いようには見えない。魔法のお陰で水や明かりに困ることはなさそうだ。


 となると一番の心配はやはり自分について不審感を持たれないようにすることか…時間が経つに連れてちょっと心配になってきた私だった。



 豊浦さんは、ゲームの世界では主人公は転生してきたことになっているので、マリアは今日からそうやって生きていくと話していた。


 私はずっとここで生きてきた設定なので、まずは家に着いたら、家族に挨拶をして、バレないようにちょっと疲れたって言って休むことにして…と頭の中でシミュレーションする。


 そのうち記憶がぼんやりと蘇るのはマリアで経験済みだが、それまではなるべく人に会わないようにしたいものだ。高飛車なお嬢様ということだけれど、そんな行動、取ったことがないのでだいぶ不安だ。悩んでいたら体感20分ほどで家に着いてしまったようで馬車が停まった。


「えーと…」


 あんなにシミュレーションしていたのに、馬車の扉が開いて降りようとしたら、やたらと整った顔の男性がいて手を差し出してきたので、いろいろ考えていたことが吹き飛んでしまった。固まっている私を見て、相手は


「どうしたの?またご機嫌斜めなのかな?」


と冷たい声をかけてきた。


 濃い茶髪、緑目、長身、整った容姿、ああ、ウェストバル公爵家の嫡男、ええと跡継ぎ?の氷騎士ジャスティン・クラッセだとようやく気が付く。この人だけは覚えなさいと言われた人だった。


「あ、いえ、その…一人で降りられるので」


取り敢えずドレスの裾をグッと持ち上げてヒョイと降りて、振り返ってお礼を言う。


「でも、ありがとう」


ジャスティンだろう人は眉根を寄せて驚愕の表情を見せたが、はぁとため息をついて


「…よくわからないが、エスコートは私の役目だから」


私の左手を取ると、自分の右手にのせさせてそのまま家へと向かう。


「あ、あの…でも…」


 とここで家を見て、それどころではなくなった。これは、家ではなく、お屋敷…いや、とんがった塔みたいなのあるし、お城?


 口を開けて見上げていたら、彼が不審な目を向けているのに気付いた。いけない。


「あ、そ、そうね、じゃあお願いするわ」


 精一杯お嬢様らしくそう言うと、手に力を込めて、歩こうと促す。彼は私をもう一度見つめてから、屋敷に向かって歩き出した。



 疲れたと言って部屋に籠もる作戦はもろくも崩れ去り、私は何故か彼、やっぱりジャスティン・クラッセだった、とお茶を飲むことになった。


 マナーに不安があるので、庭にセッティングされた小さなテーブルの向かいに座るジャスティンの動作をなぞりながらお茶を飲む。小さな焼菓子や果汁を固めたゼリーのようなお菓子を摘まむ彼は特に何か話すわけでもなく、ただそれらを口に運んでいる。


『この人、どうして私とお茶を飲んでいるんだろう。確か、ジェシカがジャスティンが好きだけど、ジャスティンはそうでもないって聞いたのに。そうだよ、ジャスティンはマリアのことを好きになるんじゃなかったっけ?だから嫉妬したジェシカが邪魔して、挙げ句ひどい目に遭うからそれは程々にしておけって…』


 豊浦さんが教えてくれた設定を思い出すと、こうしてお茶を飲んでいるのはおかしいと感じる。


 私はマリアに嫉妬して酷い虐めをしてしまうことがないようにって言われたけど、会ったばかりのこの人への気持ちはまだ思い出すことはできないし、大変なことになるってわかっているのに好きになることもない。家柄?が合うから結婚は可能だとジェシカが迫っていたらしいけど。


「ジェシカ嬢は、今日は大人しいね」


「…」


「…」


「…」


「…ジェシカ?」


「…あ?わ、私?」


 そうだった、さっきまでマリアだったので呼ばれているのが自分だとは思わなかった。


「な、何?あ、何かしら?」


「…大丈夫?」


「なんのことかしら?大丈夫に決まっているでしょう?オホホ」


「…」


 やりすぎなお嬢様風の動作が奇妙だったのか、ジャスティンがじっと見つめてくる。素敵すぎるその風貌と眼差しにちょっと照れくさくなってしまい、私は俯いてしまった。


「…その…私、ちょっと疲れてしまって…ごめんなさい」


「どうして謝るの?」


「だって…その…楽しい会話とかができなくて…せっかく二人でお茶を飲んでいるのに、申し訳なくて」


「…いつもなら、私に何か楽しい話をしろと言うのに?…本当に疲れているんだな。急にお茶を飲もうなんて言って、悪かった。今日は終わりにしよう」


「えっ、そんな、あなたは悪くなんて!本当に私のせいなの、ごめんなさい」


 顔を上げるとジャスティンが私を見ていた。もうどうしていいのかわからなくなってしまい、また下を向いて次回はもう少し元気で話せるようにすると伝えるので精一杯だった。

お読みくださりありがとうございました。この後も読んでいただけたら嬉しいです。

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