10 進展すぎる!
R15です。よろしくお願いいたします。
そんなドキドキなパーティーも中盤になり、私も役割をいい感じでこなせるようになってきた。オリヴィア様のご両親にもご挨拶できたし、アーロの友人にも会えた。
アーロの友人は
「僕達がアーロから聞いていたジェシカ様と印象が違って、驚きました!」
「ええ、きっとアーロは大事なお姉様を隠しておきたかったんですね!」
「仕方ないよな、こんなにステキな方じゃあ」
と何だか褒めてくれたが、きっと以前のジェシカはあまり褒められた人物ではなかったのだろう。
若者がそんな風に私に挨拶するたびに、横にピッタリと張り付いているジャスティンが
「そうだろう?私の大切な人は素敵なんだよ。君たちも学びやで勉学と人脈作りに励みたまえ。将来の伴侶となる人に出会うこともあるのだからね。」
と何となく圧をかけているのは気になりはしたけれど…。お披露目もしていないのにここまで婚約者らしさを強調されるのは気恥ずかしい。
でも彼との婚約を進めることに同意したのは私だし、ジャスティンと結婚したいと思っているし、今日のジャスティンは反則なくらい素敵なので満足している。
これから、アーロに言ったように令嬢として勉強してジャスティンにふさわしい人になろうと決心したのだから。まだジャスティンの方が輝いているけれど、そのうち私も…流石に伯爵令嬢なので素地はイイのだから頑張ろう、そんなことを考えるくらいの余裕ができた。
こうしてパーティーは終盤となり、疲れたなと思っていたら、
「ジェシカ、よければ少し外に出ないか?」
ジャスティンも疲れたのか、そう声をかけてくれた。ちょっと休憩しようということらしい。
頷いて一緒に庭に出る。午後の陽が傾きはじめて風が気持ちいい。
そう言えば事故にあったのは大晦日だったのに、ここは花もたくさん咲いていて春から初夏なんだなと思った。広い庭というか庭園をジャスティンにエスコートされながら歩いて、つるバラが絡まるパーゴラをくぐりこぢんまりとしたガゼボに着いた。
もう屋敷の声は届かない。二人きりで静かなガゼボにいると不思議な気持ちになる。
「…ジャスティン様、今日はありがとうございました。妹として、また姉として、レオお兄様やアーロに恥ずかしくない振る舞いができたのはジャスティン様がエスコートしてくださったからです」
「…最近のジェシカは、恥ずかしいところなんてないよ」
「ふふっ…」
『最近の』ということはそれまでは褒められないところがあったということで、ジャスティンの気持ちを思いやって笑ってしまう。
「どうぞおかけになってください」
伯爵家らしく屋外でも立派なソファを勧めて、自分も向かいに腰掛ける。
これ、雨の時はガゼボを布か何かで覆っているんだよね、たまたまジェシカという令嬢になっている私としては働いている人たちに感謝しかない。そう、こんな風に最近の私はこれまでのジェシカだったら考えなかったようなことを考えるようになった。
「私、子どもっぽくて、我儘で、家族に迷惑ばかりかけてきました。ジャスティン様にも…いえ、ジャスティン様だけでなくいろいろな方に…その、ご迷惑おかけしてきました。申し訳ありませんでした」
「…うーん、確かに、今の君は以前のジェシカとはだいぶ違うよね」
「っわ、わかっています。その…昔の日記を読んだら…恥ずかしかったです」
「どんなところが?」
「その…何ていうか…その、恋に恋していたというか」
「それは、僕以外の人に対しても?」
「いえっ、日記にはジャスティン様のことしか書いていなくて」
「それは良かった。それならその恋が叶ったということで、いいんじゃあないの?」
「…は、はい…そうなんですけど…」
「ねえ、ジェシカ、僕は以前の君には正直あまり興味がなかったんだ。結婚を申し込まれたものの、何だか君は普通の令嬢にしては、その…アプローチが直接的で…でも伯爵家のご令嬢だし、蔑ろにはできなくて、困ったなぁって」
「はい…すみません」
日記にあった閨への興味からくることだろう。
エロ要素多めのゲームとはいえ、短いスカートで迫ったこともあったというし、きっとそれ以外にもジャスティンが対処に困るような迫り方をしたのだ。想像すると顔から火が出そうなくらい恥ずかしくて俯いてしまう。
「これからはジャスティン様を困らせるようなことはいたしませんので…」
膝の上でスカートをギュッと握る。すると、その手をジャスティンが握った。
顔を上げるといつの間にか彼は私の前に来て、跪いていた。
「え?あ、あの」
「いいんだ、困らせてくれて、いいんだよ」
「いや、あの」
眩しいあなたを直視できずにいるんです、と心の中で言い訳して必死に視線を反らしていると、ジャスティンはちょっと考え込んだ。もしかして、怒らせてしまったか?
「あの…」
慌てて謝ろうと思ったその時だった。
「…ジェシカ、君は、マリアという教会の娘を知っているね?」
「っ!」
心臓が跳ね上がった。
なんというのが正解なのか…マリアを虐めたことはないはずだが…もしや転生以前に何かあってもう既に手遅れなことが?様々な可能性が頭の中をよぎる。
でもジャスティンは押し黙る私に
「ああ、いや、責めているんじゃなくて…その」
ちょっと上を向いて考えていたが、
「うーん、マリアと会ってからだよね、ジェシカが変わったのって」
と、直球で、きた。
責めているんじゃないと言いつつ、それって何かあったでしょうと聞いていますよね?と答えに窮する私になおも言う。
「実は、さっき話したようなこともあって、ジェシカとの結婚はできれば遠慮したいなと思って、しばらく前から君を見張らせてもらっていたんだ。その時に君が教会に通っていることがわかった。少し前からなんとなく雰囲気が変わったなって感じていたのだけれど、ある日、君は教会から帰って来たら、別人のようになっていた」
それは…見張っていたというのは、そこで落ち度が見つかったら断ろうと思っていたってことですね。うう、そんなに酷かったのね、ジェシカ。
そして『ある日』というのはおそらくあの「入れ替わりの宝珠」で魂の入れ替えをして帰った日で…そういえばあの日、家に着いたらジャスティンがいた…あの時からジャスティンは何かおかしいって思っていたということ?
「あの…私」
「いや、違う、そうじゃないんだ。変わったことについて何か文句があるわけではないし、マリアとの関係も問いただすつもりはない…ただ、君が変わったことと、その変化は僕にとってはいいもので、なぜそんなことが起きたんだろうって考えたら…」
慌てて言うジャスティンを涙が出そうなのを我慢しながら見つめていたら、彼の顔が赤くなった。
そして
「は…もう無理」
と言って、私をぎゅっと抱きしめた。
「は?え?あの?」
「ジェシカ、僕は君が好きなんだ。いろいろ、説明したいことはあるけど、取りあえず、今ここで結婚の確約がほしい。ごめんね」
そう言うと、両手で私の頬を包んだジャスティンが人生で二度目の口づけをしてきた。初めての時よりも、力を込めて。そしてそれは二度三度と繰り返される。そのうちに私の息があがってしまい、ジャスティンの胸にもたれかかってしまった。
「ジェシカ、好きだ。君は?君は、僕のこと…」
「…好き、です」
チョロいかもしれないけれど、それは本当だ。
人との交流が少ないジェシカにとってジャスティンは結婚したい相手で、その上、これまで一緒にお茶を飲んだり、パーティーの話をしたり、からかわれたり、笑ったり、キスしたりしたのだ。嫌いなわけがない。
だからこれはジェシカとしても、ともえとしても、本心で、こんな風に口付けられても嬉しさと恥ずかしさしかない。
「…よかった。じゃあ、もう少し、上を向いて」
私の横に座ったジャスティンはなおも口づける。そのうちに手が私の肩を撫で、腕を擦り、さらに下へとおりてきた。
「ん〜っ」
何が起きているのかわからなかったけれど、ジャスティンはムームー言っている私をそのまま甘やかし、結局同意の上でそのまま結婚するしかない状況になってしまったのだった。
お読みくださりありがとうございました。次が最終話です。よろしくお願いいたします。
…ジャスティンてば、健康男子。