1 事故からの転生?
目にとめていただきありがとうございます。R15設定ですが、どれくらいだと引っかかるのかわからないので予防です。そういうシーンはない…と思います。よろしくお願いいたします。
事の起こりは1ヶ月前。友達の寺久保ユウと一緒に初詣に行くことになった私は雪がちらつく中、待ち合わせ場所の藤丸坂の入口で人の多さに閉口しながら立っていた。
ユウは勉強はそこそこのモテ男なのだが、なぜか私にくっついてくる。軽音部でギターとボーカルを担当していて、学祭でなんとかっていうリズムゲームの曲を演奏して女子からキャーキャー言われている。ダンスもできるし、見た目もシュッとしていてかっこいいのは確かなのだが、そんなのに構われるとやっかみが酷いので本気でやめてほしい。
彼は家が手広く商売をしているので将来は継げばいいとの考えで、大学はどこか入れるところに行くつもりらしく、進学について悩んでいる私にとっては苦々しい部分もある。
なのに初詣への誘いを断りきれなかったのは寺久保くんが本気で私を尊敬していると感じる時があるからだ。単にちょっかいをかけられているのではないなと思うような言葉、例えば
「伊勢崎サンって自分に厳しいよね、一見そう見えないけど、時間の管理とか、委員会の仕事の仕方とか、ホントきちんと終わらせてて…俺そういうのダメだから尊敬する」
「どうやったらそうやって最後まで物事やりきれるの?俺、何がダメなんだろ」
「結局俺って甘えてるのかな?どう思う?」
「何かスケジュール管理とかできるもの使ってる?アプリとか?あ、ToDoリストとか?」
「今度さ、俺と一緒に行事の係やらない?一緒に仕事したら何かわかるかもしれないから…あ、でもそれだと俺にしかメリットないか…あ、うちの店でバイトしない?バイト代上乗せしてもらってもいいから」
…それだけ褒められて、しかもバイト代上乗せとかって、私にしたら断る理由がないわけで、でも今のところ行事がないから取り敢えずどんな風に行動しているか見たいって言われて新年から一緒に初詣に行くことになってしまったのだ。
「それにしても遅い…」
温暖化とかいって例年よりは厳しくないとはいえ大晦日の夜中は寒い。しかも雪がチラチラしている。
息が白くて、耳がピリピリする中、周りの人たちがどんどん友人なのだろう相手と落ち合って笑顔で境内へと続く坂道を上っていくのを見ていたら、これまでになく寂しい気持ちになってきた。
私は両親を小学6年生で亡くして叔母夫婦に引き取られ転校してきた。叔母さんたちはとても親切だし小さい頃から可愛がってもらっていたので不満はないけれど寂しさがないわけではない。
最近は現実的な悩みも大きい。切り盛りしている洋風食堂の手伝いをしてバイト代も十分もらっているけれど、高3になったら大学進学という大きな問題に直面する。
叔母さんは遠慮せずに大学に行けって言ってくれるけど、そんなにお世話になっていいのかという葛藤はある。もちろん社会人になったらこれまでの恩返しはたくさんしたいと思っているけれど、それでも大学の4年間は長いし叔母さんたちの負担を考えると簡単には決断できない。
旧帝大の推薦を早々と決めた一つ上の従兄の幸司は
「遠慮すんなって、俺だって大学卒業したら稼ぐようになるし、なんとかなるって」
と楽観的だが、そこまで勉強ができるわけではない自分は自信もない。
『今年はどうなるんだろう、私…』
そんなことを考えて暗くなっていたら、
「あれ、伊勢崎さん?どうしたのこんなところで」
と声をかけられた。顔を上げると、同じクラスの豊浦咲希が立っていた。
「あ、豊浦さん…?と…」
彼女の後ろには何人かいて、そのうちの一人は蓬莱くんだった。
蓬莱くんは豊浦さんたちとよく一緒にいる子で、とても頭がいい。
その成績以外ではあまり話題にならないけれど、私にとっては、他の人に仕事を押し付けられがちな仲間という印象がある。仕事も丁寧で、なんというか、物静かで、きちんとしていて、感じがいい。そういう仕事の時以外の接点はないけれど、私にとっては珍しくもっと話してみたいなと思う男子だ。
けど、そっか、豊浦さんと初詣なんだ…。
「…えーと、その、友達と待ち合わせてるんだけど…」
文芸部の仲間らしい数人に見つめられてしどろもどろになっていると、蓬莱くんが助け舟を出してくれた。
「すごい混雑だから、待ち合わせも大変だよね。スマホに連絡とか入るかもしれないから確かめておいたほうがいいと思うよ」
「あ、ああ、そうか、そうだよね、ありがと、見てみる」
スマホを確認すると通知がきていた。
「ホントだ、連絡きてた」
「良かったね」
でも文面を確認する前に私を呼ぶ声が聞こえた。
「伊勢崎サーン、お待たせ。ごめんね出るのがちょっと遅れちゃって」
「寺久保くん、こっちこそごめん、通知に気付かなくて」
「いいのいいの、俺が遅れたのが悪いんだし…あれ?みんなどうしたの?」
そこで寺久保くんが豊浦さんたちに気付いた。
「こんばんは、文芸部で初詣か〜、いいね〜。俺のとこなんて全然そんな話にならなかったよ」
爽やかに挨拶をした寺久保くんに豊浦さんたちがちょっとたじろいたのが感じられた。わかる、寺久保くんって眩しいよね…キラキラしいというか…すぐに立ち直ったのはやっぱり豊浦さんだった。
「寺久保くんは軽音部だよね、伊勢崎さんは…」
「ああ、部活は同じじゃないんだけど、俺が誘ったの、ね」
同じじゃないどころか私は部活に入っていないのだけれど、ぼかしてくれたことに感謝する。うちの学校はほとんどの人がどこかしらに登録していて、全く何もないのは私と、他に数名しかいないので、知られると微妙な雰囲気になりがちなのだ…なのに、
「そうだよね、伊勢崎さん、部活入ってないもんね」
豊浦さんはガッツリ指摘してくれたので、私は自分の表情が固まったことを感じた。
そう、彼女はいつも率直だ。人よりも努力して、見合う結果を出している人特有のオーラが感じられる。私にはない、努力に裏打ちされた自信、そして目標をもつ人の輝き。
豊浦さんの言葉を聞いて、周りの人たちは一瞬微妙になった。もちろん蓬莱くんも…微妙というよりはっきりと苦々しく見える顔をしている。はぁ。きちんとしている皆さんの気持ちを乱してしまったようですね…。
原因となった、忖度のない相手を気遣っても仕方ないので私にしてははっきりと答える。
「そう、入りたい部がなかったから。寺久保くん、そろそろ行こうよ」
「あ?…うん、そうだね、そろそろ…って、あ…」
このタイミングで周りからカウントダウンが始まってしまった。思っていたよりも時間が経っていたようだ。
「10,9,8…」
あーこのまま年越しか、と諦めた。まあ初詣に行ったら寺久保くんと「あけましておめでとう」を言い合うことになるのはわかっていたのだけれど、思っていなかったメンバーとも新年の挨拶か。
「4,3,2…」
その時すごい音が聞こえてきて、見ると車のヘッドライトが迫り、そして、衝撃を受けた。
おそらくあの時、向かって来た車はそのまま坂の下にいた人並みに突っ込んできたのだろう。悪意があったのかどうかはわからないけれど、少なくとも私はぶつけられて無事では済まなかったはず。
そのせいで病院で夢を見ているのか、『この世界』に来てしまったのか…考えても仕方がないので状況に流されるまま過ごすことにしたのだった。
お読みくださりありがとうございました。転生先まで届きませんでした…。読みにくいとご指摘いただいたので少しずつ修正していきます。




