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ショートショート7月〜3回目

星空上映会

作者: たかさば

……何もない、空を見上げる


夏の空気、月の輝き

星の瞬き、天に伸びる光


寂れた、国道沿いの…駐車場


車の走る音

虫の鳴く声

雑草だらけの歩道

かすれた駐車のライン

品切れだらけの自動販売機

点在する街灯

点滅する公衆トイレの明かり


山に囲まれた、人けのない場所


……広い夜空が見たくなった時、僕はいつもここに来る


ここは、夜空を独り占めできる場所


……自分の物語を映し出したくなった時、僕はいつもここに来る


目に映る夜空に、目に映らない自分の世界を重ねて、気の済むまで物語を見上げる

夜空を見上げて、広い、広い夜空に、自分の創造した世界を解放する


ここは、僕だけの…星空上映会場


星の浮ぶ夜空には、何も映ってはいないけれども…物語が流れている

時折車の音が聞こえる空間には、何も聞こえないけれども…言葉があふれている


夜空に輝く月に霞む…か細い光を纏った、僕の物語

豪快に音を撒き散らす車にかき消される…貧弱な、セリフ

熱を帯びた空気に混じる…温度のない、感情


僕の世界が、夜空を背負って…あふれ出す

僕の世界が、夜空に押しつぶされて…消えてゆく


いつまでも輝くことができない、僕の…物語

いつまでも燻ぶったままの、僕の…物語


夜空があまりにも…明るすぎて


自分の、目が……眩む

自分の、心が……沈む


煌びやかな街から逃げ出して、寂れた場所に…逃げ込んで


こんなに暗い場所さえ、こんなにも……眩しい

夜空が眩しすぎて、自分の物語が……霞む


いつまでたっても輝けない、僕の……物語


思い描く夢ばかりが、キラキラと輝いては…消えてゆく

つまらない妄想ばかりが、ドロドロと渦巻いては…のしかかる


創作の世界が、……まぶしすぎて


僕は、もう……疲れてしまったよ


……星空上映会場は、毒になる


夜空に飲み込まれてしまいそうで、不安になる。


星空上映会場は、毒になるのに……来たくなる


闇に、飲み込まれてしまいそうだ


……星空上映会場は、毒になると、わかっているのに


飲み込まれてしまいそうだ

飲み込まれてしまいそうだ

飲み込まれてしまいそうだ

飲み込まれてしまいそうだ

飲み込まれてしまいそうだ


飲みこまれて……しまい、そうだ


のみ、こまれて……



プー!

プップ―!!!



眩しい光が、僕を……照らす



……ああ、誰か、来たようだ



寂れた駐車場の、ど真ん中で

空を仰ぐ僕を見た運転手が…怖い顔を、している


慌てて歩道に向かうと、車から降りてきた運転手が、公衆トイレに駆けて行った


自動販売機の光が、僕を……照らす

目が、明るさに慣れて……現実の世界が、浮かび上がる



……ああ、今回も、飲みこまれることは、できなかった



僕は、消える事の出来なかった、未練がましい自分の物語を、胸に



寂れた駐車場を……、後にした




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