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学園編~公爵さん、寄らないでもらえませんか?

 一年が過ぎた。

 大衆浴場や、街路樹の整備が領民を幸せにするばかりではなく、王族が入り浸ってくれたことが、王家の親交を深めたい貴族家に噂が広まり、今は貴族家の別邸を何件か立て始めることになった。

三年もすれば、貴族家の豪華な邸宅が並ぶ、より荘厳な街並みが出来上がることだろう。


 貴族というものは、見栄を気にするものなので、見栄を張ることができないようでは、貴族が貴族でい続けることはできない。


 この世界の一番の見栄とは、つまり、わかりやすくすると、軍事力である。そのために、きらびやかな、兵を並べるというのは、各貴族、必ずしてくるのに違いない。300名から始まった、私兵の工事への運用であるけれど、向かい入れる側の、伯爵家の軍事力が、上半身裸で、つるはしを握っているという状況では、ばつが悪い。というのは、最初の工事を受注するおりに、父上と相談したポイントである。そこで、新たに、100名ほど、武芸の才能のあるものを、騎士団として、徴用することになった。


 いや、つるはしを握ってくれることの方が、俺は領地の役に立つと思ってるのだよ。本当に。


 と、いっても、憐憫とした武具に身を固めた、屈強な兵に周りを固められているというのは、これは、なんというか、快感だな。


 転生した当初、頭の中だけで考えていたから、兵に公共事業をさせようと、決心をつけることができたけれど、実際に体験してみると、兵に、武芸を磨かせたくなってしまう誘惑に、別のことをさせようというのは、相当な決心が必要だとわかる。

 そうした気持ちがわかるからこそ、父上も俺の最初の提案を快諾してくれたのだ。


 いってしまえば、遊び相手になってくれる相手を、仕事にやるわけだから、父としては、娘の成長が嬉しかったのだ。


 そんな、俺が、ついに学園に入学したのだ。父上は嬉しかっただろう。

 前世の両親も、俺が高校や、大学に進学したときは、本当に喜んでくれた。

 子供の成長を喜ばない親はいないとは、よく言ったもので、本当に、親を喜ばせるというのは、子供として、モチベーションにつながる。ただ、学校に入ることが、成長なのか?というと、そこには、大学に進学したあと、家で引きこもりになってしまった俺からしたら、疑問が生まれてしまうけれど、こういう、自分の子供が大人の仲間入りをしたのだ、と実感できる儀礼は社会に必要なのだと思う。


 「はじめまして、ジーナ・ナサス卿。私は、マリウス公爵領、アキラと申します。父が他界しておりますので、学生の身ではありますがすでに家長であり、まだ式前ですので、尊称を付けさせていただきましたが、どうしてもお声をかけたいと思い、どうか、わたくしのことは、アキラとお呼びください。貴族家での親交はありませんでしたが、学友として、親交を深めることができれば、うれしいのです。」


 俺が、周囲のこれから式に参加しようとしている若者たちを景色にして、物思いにふけっていると、横からひときわきらびやかな服装の黒髪の男が声をかけてきた。


 いや、式前に声かけてくんなよ。

 伯爵令嬢に公爵だろ?これから、敬称を使わない関係になる、学園生活を過ごすのに、邪魔だろ。

 邪魔すんなよ。


 「あら、あなたが、あの、アキラ様ですか。お噂は耳にしております。」


 俺はとりあえず、なんとなくやったことがあるような、ギャルゲーに出てきそうな、最初の出会いっぽいセリフを口にしておいた。

 いや~、ああいうゲームさあ、日常生活で、あんな返事してくるような奴と、仲良くなんてなることできねえよな。ファーストインスピレーションってやつ?第一印象とか、初めて交わした会話って、、大事やん?社交辞令で、別れたらさ、普通、仲良くはならんやんな。いや~、それを乗り越えるギャルゲーの主人公たちって、まじ勇者だよな。


 「ナサス領にまで、噂が届いているとは、ありがたい限りです。それでは、また式の後にでも。」


 いや~、こいつ、まじで勇者だわ。自分で書いた小説とはいえ、日本のゲーマーたちって、なんでこんなに無理ゲーの攻略ができると思ってるんだ?

 だって、今のあいさつで、去って仲良くなれると思ってるんだぜ?

 声かけたら、式まで話せよ。仲良くなりたいなら、礼儀だろ。

 ほら、あいつ、、別に他の奴に声かけるわけでもないんだぜ?ゲームのテンプレっぽい回答したら、ゲームっぽい返事するかな?っておもったけど、どうる気なんだ?式のスキップ機能なんてないんだぜ?好感度プラスじゃなくて、好感度マイナスにしかならんよ。残念だったな。


 さて、俺はというと、「あ、いた。」


 俺の書いていた、主人公が友達と楽しそうに入学式に向かう姿を見つけた。


 「よし!!」俺は、心のなかで、ガッツポーズをした。


 これで、俺の生存戦略の初期段階は、ほぼ完了した。


 本来、一般庶民である、ただのパン屋の娘が王子と親交を深めるきっかけは、ジーナが王子の婚約者として、無駄に勢力を広げようと、自分の派閥を広げ、取り巻きを作っていたから、主人公の友達になってくれる役回りのキャラクターが割り当てられず、彼女が孤独になっていたことが原因だった。

 俺が、剣や魔法の訓練をせず、入学前に自分の取り巻きを作ろうとせずに、純粋に領地の発展に尽力さえしていれば、主人公には普通に友達ができて、わざわざ、平民が王族と仲良くする必要などないのだ。


 あとは、あのアキラにあこがれて、ハイスぺ王子が、自分もアキラの様になりたいと内心思ったりもしないようにさえしてやれば、想像力の豊かなリア充たちが、意味不明な推理から、実は学園の裏では陰謀が巡らされており、それを暴いてやろうなんてことには、普通にならない。だから、俺の身も安全という訳だ。まあ、王女は学園とは関係なく世界を滅ぼす陰謀を巡らせているのだが、実際、放置した場合に王女が邪神を復活させるのに何年かかるかは、わからない以上、最悪、王女の邪神復活計画は、放置してもいいのんじゃないか?とさえ、この三年で思うようになってきている。


 小説では、物語のはじめの一か月で、主人公になかなか友達ができずにいて、ジーナのグループに入れてもらえなくて悲しんでいるところを、たまたま、王子に優しく声をかけられて、自分でも、剣や魔法の訓練を積極的にはじめて(パン屋の娘に武芸勧めんなよ。いらねえだろ。)努力をしている姿から、次第に、友達ができるようになって、そんななか、自分自身では、まったく武芸の稽古をしようとしないアキラが登場してくるのは、入学式から二か月過ぎた、6月に入ってきてからのことになっている。


 ただ、今回のお話では、俺が全く武芸の稽古をしようともせず、取り巻きグループも作ろうとしていないので、ある意味正常な学園の勢力図を作ることになる。


 であっても、貴族であるのに、武芸の訓練に重きを置いていない、俺と公爵は、異色な存在であることに変わらないので、アキラからこちらに接近しようとしてきたのだろう。


 まあ、俺は関わるつもりは毛頭ないのだ。


 寄らないでもらえると、ありがたい。


 そう、入学式の建物の空に祈るのだった。

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