8話 臭いものに蓋ではダメです
男を見失い、絶望感しか感じず、転移者保護の仕事をなんとか終わらせて、クラリッサの屋敷に帰る。
明るいクラリッサにこの事を話して、元気になりたいとも思ったが、残念ながら急に小説の締め切りが縮まったらしく、部屋のこもって執筆をしていた。
プラムは、リビングであの宝の地図が印刷されたコージー村速報ちエスーペラント語の辞書を開いて、再び調べているようだった。
「マスミ、どうしたのよ。だいぶお疲れのようね」
「いえ、大丈夫。何でもないわ」
私はあの男について詳細を話すのも疲れてしまい、プラムの隣に座り、ブラックティーをすすった。スッキリとした味わいのブラックティーを飲むと、少しは気分が冷静になって来た。
「また宝探し再開したの?」
「それが、やっぱりこの地図はフェイクの可能性が出てきたのよ」
「フェイク?」
プラムによると、今日はこの村の遺跡発掘場と郷土資料館のが学芸員のアデルに会ってきたらしい。アデルは、発掘場で研究に没頭している女性で、私は礼拝の時にちょっと顔を合わせただけで、あまりよく知らない。
「ええ。アデルの話によると、この地図が見つかった数日前、泥棒に入れたらしいのよ」
「本当?」
「ええ。だから、最初に見つけた本当の地図とこの地図が同じものかどうか確証はないそうよ。でも村の広報が話題作りに記事にしたんだって」
プラムは若干イライラしながら、エスーペラに語の辞書をめくる。
「しかも、この地図を解読したんだけど」
「すごい、本当?」
「すごくはないわよ。ガッカリな結果よ」
イライラがおさまらない様子のプラムは、地図のお宝が書かれたゴールのすぐそばに書かれた文を読むあげる。
「『残念ながら、この地図は偽物です。せっかく難しいエスーペラント語を翻訳したが、残念だったな。by泥棒集団バベル。地図はやっぱりニセモノよ。こんなのに振り回されて損したわ」
「でも何の為に? こんな偽の地図を作ったの?」
自分で言いながら一つの可能性しか感じない。村の住人が宝の地図に熱中して油断したところを、泥棒する為だとしか思えない。宝探しをしているつもりで、実際盗まれていたとは、なんとも皮肉っぽい。
「まあ、これは本当に酷いわね。私はこれから村のみんなに宝探しはやめて、戸締りや防犯をするように言ってくるわ」
「村の人達は、防犯するかな…」
「まあ、しないでしょうけれど、何も言わないよりはマシよ。うちは、さらに厳重に鍵も取り付けたし、スプレーも新しく作ったから」
ニヤっと笑いながら、プラムは私に紫色の毒々しい色の瓶に入ったスプレーを手渡す。
「泥棒が入ったら、これで撃退するのよ」
最後に念を押して、プラムは出かけて行ってしまった。
一人残された私は、やっぱり事件に巻き込まれているようだと感じていた。自室に行き、ノートを広げる。
●コージー村泥棒事件(仮)
偽の宝地図がばらまかれ、その隙にクラリッサとダニエルの家に泥棒が入る。
●犯人はあの男?
王都で日本の小説をパクり、捕まっていたがコージー村に逃げてきた。
転移者である事は確定だが、言動が支離滅裂。
転移者は一応最初は保護されるが、次第に生活が苦しくなる傾向があるで、泥棒の手を染めてもおかしくはない。
ノートに書いてみたが、まだ何もわからない。
そして最大の謎である「この世界は夢?」ということを考えると、やっぱり怖くて不安しか感じない。やっぱりこの謎は考えない方がいいのか?
日本人らしく「臭いものには蓋」をし、逃げる方が楽なのかも知れない。
でも、まだ残る足の裏の痛さを感じながら、それだけではダメなような気がしていた。