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7話 みっともないブサイクなシンデレラ

 翌日、午前中はクラリッサの屋敷を掃除し、すっかり元通りになった。


 事件やこの世界については、あまり考えないようにはしていたが、今日は転移者保護の見回りの仕事があった。


 やっぱりあの男の存在は気になる。

 泥棒の犯人かどうかは別として、不審な男であるのには変わりはない。


 私はちょっと緊張しながらも湖のほとりを歩き、森の中の向かう。


 ホテル建設して地区は、なかなか慌ただしいが、やっぱりチェリーの家の近くは以前として人気はなく、薄暗い。


 ボロボロの山小屋のようなチェリーの家を見ていると不安しか覚えないものだ。


 とはいってもここで立ち止まっているわけにはいかない。

 私は立ち入り禁止のテープをくぐり、チェリーの家に侵入する。立ち入り禁止の場所に勝手に入るのは、良い気分ではないが、やっぱりあの男を探すのが先だ。


 アラン保安官が昨日調べたせいなのか、意外と埃っぽくはなく換気されているようだった。


 玄関から一番大きな部屋の入ると息を飲む。


 あの男がいた。


 しかも今日は何故か白衣姿だった。あの時の夢と同じで、再び不安感に襲われる。


「よぉ、バカな女」


 初っ端から悪口も言われ、思わず怯む。


「あなた誰?王都で日本の小説をパクって販売し、こっちに逃げてきたの?」


 それでも勇気を振り絞って少し大きめな声で言う。


「ははは」


 男は、明らかに小馬鹿にしたような笑顔を浮かべ、見下ろすように私を見ていた。


 第一印象では、役所の人間のような印象を受けたが、実際は悪魔のような男に見える。黒い角を生やしていたらよく似合うだろう。


「これは夢?」

「さあ」


 肝心な事は答えないようだった。


「あなたは転移者?誰なの?」

「俺はムーンショット男」


 さらに小馬鹿にしたように、男は話し始めた。


 こんな行きすぎた文明はいずれ人間は要らなくなる。今ある仕事も全部ロボットのなるだろう。だから要らない人間はゆっくりと死んでもらおう。また男はそんな話をしている。


「無能な人間には、いずれ脳みそをぶち抜いて異世界転移や異世界転生の夢でも見せたまま死んでもらおう!」

「ちょっと、待ってよ。意味がわからない!」


 男の話を聞いていると、夢と現実がごちゃ混ぜになったような感覚に陥ってしまい、とても怖くなる。男の意味のわからない話は、催眠にでもかけられたように思考が塗りつぶされていく。


 頬をつねってみた。


 痛いが、ここは本当に現実?夢を見せたまま安楽死させる事が事実だとすれば、リアルな五感の夢を見させる事も可能ではないか?


 私はこの場の崩れ落ちる。この世界も夢だとしたら、自我というものも壊れてしまいそうだ。


 一体いつからが夢?


 この世界に来てからが夢なのか、元いた世界も夢なのか分からなくなる。元いた世界にいた時、スピリチュアル好きの友人に「世界は全て仮想現実だよ」と語っていた事も思い出し、本当に足元から崩れ落ちそうだ。


 ロマンス小説ばかり読んでいたのも良くなかったのかもしれない。仕事は一応ちゃんとやっていたが、恋愛のよくはフィクション全て解消していた。いつの間にか、現実の恋愛や男に興味が持てなくなっていた。


 コージー村に来て強制的にロマンス小説が読めない環境に置かれたから、身近にいる牧師さんに惹かれる事も出来たが、やっぱり心の奥ではひたすらに自分に都合のいい夢のような恋愛の方が美味しい気もしてくる。


 ふと足元を見たら、今までスニカーを履いていたのに、ガラスの靴に代わっている。シンデレラが履いていた恋愛の勝利の象徴のような靴だが、実際に足を入れるとあちこちが痛い。たぶんサイズが合っていない。


「じゃあな! みっともなブサイクなシンデレラ!」


 男はその隙に家から出て走って出て行く。


「ちょっと、待ちなさいよ!」

「待つわけないだろ、キモい喪女よ!」


 男の背中を追いかける。


 しかし、ガラスの靴は想像以上に走りにくい。こんな使いにくいものが、持て囃されている事が疑問で仕方ない。


 途中でガラスの靴を脱ぎ捨て、素足で男を追う。前と同じように男は意外と足が早く、追いつけそうにない。素足で走るのも意外と痛い。ちょっと野生児になったような気分で心理的にはちょっと楽しくはなったが、そんな時に限って男が挑発してきた。


「目覚めたら浦島太郎だったら、超面白いな!」

「どういう事よ! やっぱりここは夢?」


 男は答えず、さらにスピードを上げて駆けていく。


 村の不便な生活のせいで足腰が丈夫になって来たとはいえ、成人男性の全力疾走には勝てそうのなかった。前と同じくようみに男の姿は、見失ってしまった。


 足の裏はマメや細かい傷で真っ赤になっていた。


 私は、あの男の言う通りみっともないブサイクなシンデレラなのかも知れない。


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