6話 泥棒に入られてしまった!
牧師館を後にすると、私はクラリッサの家に向かった。
謎の男も気になるが、泥棒の被害にあったクラリッサやプラムの方が心配だ。無能とはいえ、私よりは役に立つち思われるアラン保安官も調査しているようだし、やっぱりクラリッサの家に行く方が良いだろう。
クラリッサの屋敷は、一見いつも通りだったが、中見はめちゃくちゃだった。玄関も靴が散乱してぐちゃぐちだった。キッチンもリビングも食堂も。私の部屋は金目のものが無いと判断されたせいなのか、花瓶がひっくり返っているだけだった。
心配なのは、プラムだった。
この事がショックで涙を浮かべて落ち込んでいる。
とりあえず比較的被害の少ない私の部屋にクラリッサやプラムを呼び、落ち着かせる事にした。温かいブラックティーと昨日焼いた型抜きクッキーを出す。あまりにも暇でクッキーなんかを作ってみたが、こんな時に役の立ってしまったようだ。
プラムは、星型のクッキーを齧りながら落ち着きを取り戻していた。
「私のせいだわ。あんなに気をつけていたのに、宝探しに熱中してしまって」
プラムは基本的に責任感が強い。私は、全く責任感がないノー天気な平和ボケタイプなので、見習いたいものだが、自分を責めすぎているようにも見える。
「あんなティアラなんてどうでも良いわよ。どうせ王族時代の思い出なんて良いものは無かったんだから」
一方クラリッサは、とてもサバサバしていてクッキーをボリボリ齧っていた。
「泥棒されるとこんな風になるのね。あとで小説のネタにしよう!」
笑顔まで浮かべてネタ帳のメモまで取っている。もともと芯が強い女性だが、まったくへこたれていないようだった。
とはいえ、こんなクラリッサの明るさに救われ、プラムも笑顔を取り戻してきた。私の暗い気持ちも晴れていくようだ。この世界について夢なのか現実なのか不安になっていたが、今はとりあえずその事は忘れておこう。
「アラン保安官によると、コイツが犯人みたい。心当たりない?」
私は、アラン保安官からもらったあの男の似顔絵を見せる。
「ふーん、自分の事を『ムーン』って呼んでるのね。変な男ね。私は知らないわ。プラムは?」
クラリッサが、笑顔になってきたプラムにふる。
「私も知らないですね。転移者かと思うけど、マスミこそ知らないの?」
「一度森の方で見かけた事はあるけど、よく知らないのよね」
あの男が夢に出てきた事などはとても言えない。
「小説のパクリをするぐらいだし、こっちにも逃げているのね。たぶんコイツが泥棒の犯人ね」
「でも、クラリッサ。こっちには土地勘も無いのに、よくこの村の金持ち見つけ出せましたよね」
プラムの指摘は最もである。確かに被害にあったクラリッサやダニエルは大きな屋敷ではあるが、ちょっと引っかかる。
「この村の人の中にも共犯者がいるとか?」
自分で口にしながら嫌な考えだ。でも、自分だったらあまり不慣れな土地は狙わない。そもそもあの男が犯人かどうかもよく分かたなくなってきた。
「それはわからないけど、村が宝の地図で浮かれている時を狙うなんてね。嫌な感じじゃない? せっかく楽しんでいたのに、水を刺された感じね」
クラリッサは口を尖らせてブラックティーを啜る。
「そもそもこの宝の地図って本物かしら? わざと宝の地図の情報ばら撒いて、油断している時に狙ったとか?」
プラムの意見は、考えすぎとも思ったが、突然宝の地図が出てくるのも、作為的な要素もあってもおかしくはない。
「宝の地図について調べた方がいい?」
「それは私が調べてみるわ、マスミ。やっぱり今回の件は私にも責任があると思うし」
プラムは、ちょっとため息をついてクッキーを齧る。
確か宝の地図は、この村とハードボイルド村のまたがる遺跡発掘場で見つかった。遺跡といっても普段は古代もツボやヤリばかり出るらしい。まあ、地図についてはプラムに任せておくのが良さそうだ。
私もクッキーを齧りホッと一息つく。
「まあ、そろそろ殺人事件が起きてもおかしくは無いわね」
クラリッサはワクワクを隠さずに笑顔で言う。
「ちょっとクラリッサ、不謹慎ですよ」
プラムがつかさず突っ込む。そうは言ってみ半分笑っていた。
「そうですよ。もう殺人事件は懲り懲りですよ」
私も笑ってクッキーをつまみ、ブラックティーを飲み干す。
その後、三人がかりでグチャグチャになった屋敷の中を掃除した。広い屋敷の中を片付けるだけで骨が折れ、事件も事などもすっかり忘れていた。今回はプラムも調べてくれるし、アラン保安官もヤル気を見せている。
私はだいぶ油断していた。