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5話 また事件!

 事件だと聞いて、牧師さんはむしろホッとした顔を見せる。意外と不謹慎な男である。


「アラン保安官、どうしたんですか?」


 少し額に汗をかき、慌てているアラン保安官に私はとても冷静に言う。考えたくないが、やっぱりどこか事件に慣れてしまった自分がいる事は、認めざるおえないようだ。


「大変だ。なんと、クラリッサとダニエルの家に泥棒が入ったんだわ」

「泥棒?」


 殺人事件ではないとホッとしたが、泥棒は不穏な響きである。しかクラリッサとダニエルの家を狙うなんて、金持ちの家に狙いを定めているのも嫌らしい。


「何が盗まれたんですか?」


 牧師さんが聞く。


「ダニエルの家は現金と宝石、クラリッサは王族の印でもあるティアラ、それに宝石もいくつか盗まれていますね」

「プラムはしっかり防犯しているはずなのに」


 ダニエルの家はわからないが、クラリッサにあるティアラはかなり厳重に金庫にしまわれていたはずだ。


「それが、村中が宝地図で大騒ぎだろ? その隙のクラリッサの屋敷に泥棒が入ったようだね」


 村はやっぱり治安は良くないようだ。普段はのんびりしているからすっかり治安の悪い村である事を忘れていた。


「牧師さんも気をつけて。今、村のみんなに警告しているんだ」


 無能なアラン保安官の割には気が利いている。


「とは言ってもうちは元々鍵付けてないしなぁ」


 牧師さんは全く危機感なくのんびりと笑っていた。


「まあ、貧乏な教会から盗むものなんてないでしょ。教会が泥棒されたっていう話聞いた事あります?アラン」

「そういえば無いな」


 クリスチャンの多いこの国では、泥棒もクリスチャンが多いのだろうか。確かに教会の泥棒なんて、神様から何十倍も報復されそうで、恐ろしくてできない。


「ところで犯人は見つかったの?」


 アラン保安官は、私の質問に残念そうに首を振る。


「実は王都から指名手配犯が逃げてるんだよ」

「指名手配犯?」

「誰なの?」


 牧師さんと私はほとんど同時に声をあげる。


「ああ。前、王都でそっちの世界の小説をパクっているやつがいるって言っただろ?」

「そういえばそんな話もあったわね。『ノルウェイの森』や『人間失格』をパクって出版社に持っていった人がいるって」


 アラン保安官から聞いた情報を思い出す。確かロブの事件のあと、似たようなパクリをしれいた作家を発見した事を思い出す。その後、その犯人は捕まったと聞いたのだが。


「実は、その犯人が脱獄してな」

「え?」


 脱獄なんて平和な話題ではない。アラン保安官は、ポケットの中から一枚の紙を取り出す。


 そこには、男の顔が書かれていた。私も牧師さんも男の顔を凝視する。


 男の顔は、見覚えがあった。あの転移者の謎の男ではないか。キッチリと分けた髪やお役所の人のようなルックスは、よく覚えている。あの男は転移者であろう事は予想がついていたが、日本の小説をパクって出版社に売っていたとは。


「転移者ですね」


 牧師さんは、興味深そうに呟く。


「この男が王都からこっちの村の方に逃げてきたっていう情報があるんだ。泥棒もこの男の可能性が大だと思うんだよ。転移者といえばマスミだ。この男について何か知らないか?同郷か?」


 珍しく冴えて仕事をしているアラン保安官に私は言葉が出てこない。


 あの夢について話そうか?


 しかし牧師さんはともかくアラン保安官が信じてくれるとは思えなかった。


 ただ、ソニアの事件の時にこの男を見た事は言っても良いだろう。


「実は、この男は森の方で会った事があるのよ。転移者だと思ってね。チェリーの家にいた見たいだったんだけど、見失ったのよ。あとマリーもこの男を見た事があるって言ってたわ」

「なんだって!? それは大変だ。とにかく僕は、チェリーに家の方に行ってみるよ」


 アラン保安官は慌てて礼拝堂を出て行ってしまった。落ち着きがなく若干うるさいアラン保安官がいなくなると、あたりは一気に静かになった。


「転移者が犯罪者だったんですかね。これは大変だ」


 牧師さんは、ちょっと嬉しそうにあの男が残していった男の絵が書かれた紙を眺めていた。おそらく話題が逸れてホッとしているのだろう。


「で、マスミはこの事件の調査をするんですか?」


 事件調査をした方がいい!と言いたげた圧の強い笑顔で聞いてくる。


「そうね…」

「どうせマスミは暇でしょう」

「いつも思っているんだけど、暇だから事件を調査するものなの?」


 それに今回はアラン保安官も珍しくヤル気を見せている。殺人事件ではないからかも知れないが。


「まあ、犯人もマスミには油断するかも知れませんよ。なんせ同じ転移者ですし」

「そうかなぁ。また危険な目に遭うのは、嫌なんだけどな」


 ソニアの事件では犯人に頭を殴られた。犯人に殺されかけた事は一度や二度ではない。


「その時は、私が助けましょう」

「本当?」


 甘い言葉を言われて、ちょっと顔が赤くなる。やっぱり事件を調査しなければならないようだった。


「いざとなったらプラムもいますしね。それに、「大丈夫ですよ」とぜいぶんと牧師さんの口調は断定的だった。


「神様が守ってくれますよ」

「神様って元いた世界を創った神様? それともこちらの世界の神様といえる存在?」

「さあ」


 その質問には答えず、牧師さんはいつものようにおっとりと笑っているだけだった。

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