番外編短編・ソウルフード
後に月宮から綾本の創作ノートを見せてもらい、コージー村の面々はリアルにモデルがいる事がわかった。
夢の中も牧師さんも、綾本の近所の教会で牧師をしている「エディ」という人物をモデルにしているようだった。
綾本は彼に片想いをしていたらしい。自分から話しかけられず、拗らせたあげく、こんな小説を書いてしまったらしかった。
私も今となっては、夢で見た牧師さんに恋していたかどうかも疑問に思うほどではあったが、実際にエディを目の当たりにしてしまうと、気になって仕方がない。
私がエディに最初に話しかけ、綾本の元担任教師だと知ると向こうも興味を持ったそうだ。連絡先を交換し、メールや電話をするような仲になってしまった。
エディは綾本については詳しくは知らないそうだが、近所に自殺者が出てしまった事はとても牧師として心を痛めていて、墓参りも時々しているようだった。
あの墓参りの日から1ヶ月。エディから誘いを受けた。
「真澄チャン、僕と一緒に近所のデパートの行きませんか?」
エディは外見は牧師さんにそっくりで一見おっとりとしたタイプではあるが、話し方はややチャラく、私のことは「真澄チャン」と呼んだ。ちなみに外見は西洋人そのもので、両親ともにアメリカ人らしいが、10年以上日本で牧師をしているので、日本語は若干なまっていたが、ペラペラだった。
あの夢の中のように英語で話さなくても良いのは楽ではあった。
「何でデパート行きたいの?」
「北海道物産展やってるんです! 僕は、北海道の食べ物が大好きです」
エディはペラペラと北海道のスイーツがいかに美味しいかを説明する。私もその熱意に押され、結局二人で行く事になった。
エディは食い意地が張っているようである。
夢の中の牧師さんは、別にそうでも無いので驚く。まあ、所詮綾本の創作の牧師さんとエディは全く違う人物である事を感じさせる。
当日、エディは大興奮で北海道のスイーツや惣菜を買い漁っていた。会場は混み合い、どこにもソーシャルディスタンスなどは見当たらないが、エディは鼻の穴を膨らませて大満足のようだった。
エディは特に白い恋人が好物のようで、実家に送る用にも大量に買い込んでいた。しかも店員に値切ろうともしていて、現実のエディは少々おばさん臭く、人間らしくもあった。
「え!? 白い恋人のアイスがたべられるの!?」
イートインコーナーでは、白い恋人のアイスも販売されていた。行列ができていたが、私もエディも購入し、二人で食べた。
「真澄チャン、美味しいですか?」
「うん。濃厚で夢見心地ね…」
アイスは全く期待していなかったが、思った以上に濃厚な味わいであっという間に食べてしまった。これではエディに食い意地が張っているとはとても言えない。
「これは私のソウルフードになりそう」
「ソウルフード?」
「ああ、これはカタカナ英語ね。ネイティブには黒人の料理って意味になるのよね?」
「そうそう。日本では変わった英語がいっぱいあるね」
エディは苦笑した後、アイスを食べ終えた。彼も満足したのか夢見心地の顔だった。
コージー村の貧相なスイーツを思い返すと、やっぱりこっちの世界に帰ってきて良かったと思った。
「何か楽しかったなぁ。また真澄チャンと出かけたいよ」
「そう?」
それはどういう意味だろうか?
まあ、とくに期待はせずにエディの言葉を受け取ろうと思った。




