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33話 綾本

 クラリッサの屋敷に帰ると、もうすでに夕食の準備ができていた。


 今日の食事は、田舎パンのサンドイッチの野菜のスープ。今日の野菜スープは具沢山で、肉も入っていて豪華だ。すっかりここの食事慣れてしまった。むしろ、この質素な食事も美味しい。


 日本人で言えば卵かけご飯と味噌汁のような定番メニューと言えるだろう。ちなみにこの土地の人たちは、滅多に生卵は食べず、クラリッサやプラムに「卵かけご飯」を説明すると目が飛び出るほど驚かれた。それは絶対食べたくないとまで断言され、やっぱり日本人の食事がどこの世界でも簡単に受け入れられるはずは無いと思わされる。


「マスミは今日帰るの遅かったじゃない? 事件調査?」


 クラリッサは、スープに田舎パンを浸しながら食べていた。この食べ方もすっかり慣れてしまった。もしかしたら日本では下品に見える食べ方かも知れないが、郷に入っては郷に従えだ。


 私は二人に教会起きた事を全て説明する。私が解けなかった暗号は、プラムが引き継いで解読して貰う事になった。


 プラムも宝探し騒動の時にエスーペラント語を調べていたし、元々語学堪能な人物である。私が解くよりプラムに任せた方が良い結果を生むだろう。


「それにしてもあのコリンが、魔術をしようとしていたなんてね」


 プラムはため息をついて、野菜スープをすする。私もスープを口にいれる。優しい野菜の甘味が口いっぱい広がり、今日の疲労感を癒してくれるようだった。


「クラリッサはコリンの事はあんまり驚いていませんね」


 私は穏やかに笑いながら、田舎パンを食べているクラリッサに聞く。クラリッサは、コリンがエリマキを殺そうとしていたと聞いても、全く表情を変えないどころか少し笑っているほどだった。


「そうねぇ。コリンだって人間だもの。人間なんて本当に弱い生き物よ」


 クラリッサの言う通りかも知れない。人間は、神様のように言語をバラバラにする事も出来ないし、世界を滅ぼすほどの洪水を起こすのも無理である。所詮寿命も長くて120年。心だって弱い。そんな事をしみじみと思った。


「で、マスミは誰が犯人だと思ってる? 今度の小説の執筆の参考にもしたいから教えて?」

「クラリッサ、今の原稿は終わったんですか?」


 私が聞くとクラリッサは満面の笑みを作っていう。


「ようやくよ! 昨日全部原稿は出版社に送ったから」


 道理でクラリッサは機嫌が良いはずだ。仕事を終えたら誰でも解放的な気分になるはずだ。


「でもおかげでクラリッサは退屈しているみたいよ。今回の事件も興味湧いてきたって」


 プラムは少々そんなクラリッサには呆れていた。


「いいじゃない。次の執筆まで少し間が空いちゃったから、暇よ! 私もマスミみたいに犯人を捕まえたい。そうだ、しばらく一緒に事件調査しても良い?」


 キラキラした目で言うクラリッサを拒否する事も出来ず、暗号が解読できたら一緒にそこへ探しに行く事を約束した。


「寂しくなりそうね」


 こんな風にクラリッサがワガママを井言うと、プラムは否定的な事が多かったが、今日は逆にしみじみとそんな事を呟いていた。珍しくクラリッサのワガママも受け入れている。


「やっぱり、人間は強く無いのかもね」


 そしてプラムまでこんな事を呟き、この場の空気は少し湿っぽくなってしまった。私の心は、隠しようがないほど寂しさを自覚していた。


 夜、私はベッドに潜り込みとすぐ眠ってしまった。

 暗号を解いているプラムの部屋はまだ明かりがついているので、ちょっと後ろめたさは感じるが、今日はコリンの事などもあって色々と疲れた。


 また夢を見た。


 綾本の夢だった。


 元いた世界では、私は綾本を気にかけていた。平和であまり問題のない高校だったが、綾本は家庭の事情も複雑だったし、よく嘘をついているのも気になった。


「真澄先生、私ネットで小説書き始めたんだよ。見てみてよ」


 ある日の放課後、綾本と面談中、彼女はそんな事を言っていた。


「真澄先生や杏奈先生もモデルにしてみた。っていうかこの物語は全員モデルが居るんだけどね」

「へぇ。どんな話なの?」

「異世界に転生して、小さな村で謎解きするんだよ。村で言語学の研究しているヒロインなんだけど、ある時前世の記憶を思い出して……」

「ふーん」


 正直なところあまり興味は持てなかった。そういえば綾本は色々な本を読むタイプで、ライトノベルだけでなく翻訳のコージーミステリも好きだと言っていた事を思い出す。私は洋書を読みまくって英語をマスターしたと言ったら興味を持たれて仲良くなり始めたのだ。まあ、綾本はあまり英語は出来ず、洋書を入手して読み始めても「難しい!」と逆ギレしていたが。


 私がコージー村に来る直前も綾本と話していた。


 夢の中だったが、はっきりとその時の綾本の発言が思い出される。


「真澄先生、大嫌い!」


 そう、確か私は彼女の書いていたライトノベルにあまり興味がないとぽろっと正直に言ってしまい軽く喧嘩になったのだ。


 そのあと仲直りしたっけ?


 上手く思い出せなかった。


 思い出そうとすると、夢の中らしく思考にモヤが立ち込める。なぜか事件で死んだあの男も夢に出てくる。


「あんたは最低だ。この責任をとって貰う!」


 かなり怒って私を責めていた。


 私は泣きながら、あの男に許しを乞うていたが、あっさりと無視された。


 事件をいつまでも解決できないせいだろうか?


 わからないが、あの男を怒らせたことは確かだった。その怒りは、綾本とも関係しているような気もした。


 嫌な夢だったが、この世界の謎を解く何か手がかりが掴めそうだった。

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