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31話 手がかりを見つけました

 とりあえず牧師さんは慌てていいるアビーとジーンは宥め、牧師館の方に連れて行った。


 私は、森の方に足を踏み入れる。なんとなく森の方にエリマキがいる気がした。


 もともとエリマキはこの森の住人であったし、前に図書館で読んだ動物の図鑑によると帰巣本能もあるらしかった。


「エリマキ、いる?」


 大きな声で呼んでみるが、返事はない。そういえばエリマキは、霊性も強い。チェリーが魔術でも使っていた事も思い出し、嫌な予感もする。儀式に使われて殺された可能性もある。


 同時にまた頭痛に襲われる。なぜか元いた世界で受け持っていた生徒の一人の顔が思い浮かぶ。名前は綾本アキだった。


 よく遅刻していて、作り話をするような生徒だった。家庭も複雑で、メイクも派手でクラスに馴染まず、よく趣味のライトノベルの話をしていた。異世界転生もののライトノベルをネットで書いているとも話していた。その時間だけが唯一の息抜きだと笑っていた。


 綾本の顔を思い出そうとすると、さらに頭痛がおきた。事件調査や諸々のストレスで頭痛が起きたようにも思うが、環境もよく食べ物も健康的なこの世界でが体調が良きなっているはずだった。


 彼女の存在とこの世界の謎は何か関係がある?しかし今はいなくなったエリマキの方が大事だ。


 無理矢理彼女の事は思考から追い出し、チェリーの家の方に向かった。牧師さん子供二人を置いてきてから、この森にやってきたようで合流する。


「エリマキはぼくの方にいた?」


 残念ながらいませんでした。やっぱりりこの森にいるような気がしますよ」


 そんな事を話しながらチェリーの家につく。あの男の死体があった場所だ。


 脳裏にあの男の死体が浮かびあが、嫌な気分にしかならないが、チェリーの家の方から物音がした。


 私と牧師さんの間に緊張感が張り詰める。エリマキかどうかはわからないが、とにかくチェリーの家の入る事にした。


 リベアルかイザベラが、変な儀式をしていてエリマキも犠牲にしようとしている可能性も十分考えられた。


「立ち入り禁止のテープがあるけど…」


 あの男の死体のせいか、立ち入り禁止のテープはさらの厳重になっていた。


「マスミ、今はそんな事言ってる場合じゃないですよ。エリマキは儀式の為に使われる可能性も十分ありますよ」

「そうね」


 私達は、立ち入ろう禁止のテープをくぐり、チェリーの家に侵入する。


 再び死体があったどうしよう。そんな事も考えるが、隣に牧師さんがいるのは頼もしかった。


 なぜか牧師さんはどっしりとしたブレない芯をもっている人間に思えてならない。たぶんそれは、彼のなかの神様という存在があるのに違いないだろう。


 人間はさまざまな状況によってコロコロ意見が変わる。ルールの善悪の基準も国や人によって変わったりする。


 でも聖書で書かれた神様は、昨日も今日も明日も変わらいという。そんな神様を信じる牧師さんがブレないのは当然だとも思う。


「誰かいますか?」


 牧師さんが先に前を歩き、一番大きな部屋に入る。私の続いて部屋に入るが、驚きのあまり言葉を失ってしまった。


 コリンが一人でいた。とても悲しい表情でエリマキの首を絞めようとしている。


「だめだ!コリン!」


 牧師さんが叫び、同時にコリンの腕からエリマキを無理矢理離す。


 一瞬の隙をついてエリマキはコリンから逃げ、私の腕に捕まるとそのまま首に巻きついた。


 この季節だと少し暑いが、仕方がない。エリマキが助かっただけ幸運だと思う他ない。


 しかし目の前で崩れ落ちているコリンを見ていると、私も泣きそうになる。


 コリンのそばには、魔法陣のような絵もかかれ、これから変な儀式をしようとしている事は一目瞭然だった。


 牧師さんはコリンに心底同情しているようで、ポロポロと涙をこぼしている。エリマキに手をかけようとしていたコリンには、あまり同情できなくなってしまったが、泣いている牧師さんを見ていると心が押しつぶされそうだ。私も少し泣いてしまった。


「ねえ、コリン。なんでこんな事してよいの?」


 私は頬の涙を拭って、聞く。首にエリマキが巻き付いているので、客観的に見たら間抜けな絵面かも知れないが、笑う事などできなかった。


「そうだよ、コリン。コリンにも神様が授けてくれた良心があるでしょ? 痛まない?」


 牧師さんが泣きながらそう言うと、コリンはうなだれて全てを告白した。


 事件で奥さんを失い、変な儀式をして生き返らせようとしていたと言う。魔術は禁じられた行為である事は理解していた。その力は悪魔からくるもので決して幸せな願いの叶い方はしない事も理解していた。何度か郷土資料館にも足を運び、魔術には手を出さないと自制心も保っていた。


「それなのに、なんで?」


 牧師さんは少し落ち着いてきたのか、涙を拭き、コリンにとう。その声は不思議と責めるようなニュアンスは全くなく、むしろ優しいものだった。


 この牧師さんの態度にコリンは罪悪感が刺激されたようだった。


「実は2年前、アンナと一緒に霧の森の空き家でこれを見つけたんだ」


 コリンは、足元の落ちていた一冊の魔導書を私達に見せた。


 やっぱり杏奈先生と一緒に見つけたものは、魔導書だったのか。少しホッとして、気が抜けるが、もしかしてこれはアハブの魔導書?


 確証はないが、この村にある魔導書はそれしかない。しかも霧の森の空き家に住人は、15年前の泥棒の犯人。この魔導書がアハブの魔導書だと考えるのが一番妥当だろう。そう思うと頭が冴えてきた。泣いている場合ではないと思い、涙も完全に引っ込んだ。


 コリンは本当に後悔しているようで牧師さんと一緒に神様に謝っていた。


 どちらと言えば知的で頭が良さそうなコリンが子供のように身を小さくして悔い改めの祈りを捧げている。


 不思議とだんだんとコリンの表情も穏やかになってきた。やっぱり神様が居るのかも知れないと思わせる。


 しかし、なぜかそんなコリンを見ていると私の心はチクチクと傷み始めた。


 脳裏に再び元いた世界で受け持っていら綾本の顔が浮かぶ。この世界に来る前、綾本とは何か話したっけ?


 少し変わった生徒だったけど、思い出そうとすると強い頭痛が走り顔を顰める。


 しかしこんな状況で頭痛などと言ってられない。再び思考から生徒の事を追払い、床に落ちている魔導書を拾う。


 もしこの本がアハブの魔導書であるのなら、事件に何か関係しているはずである。事件の容疑者であるイザベラやリベアルがこの本を探している。


 ずっしりと重みのある本だった。見た目だけは、この村の図書館にある図鑑や辞典にも似ているが、ページを捲ると死体や魔法陣のイラストが出てきて気持ちが悪い。


 英語では書かれていないよいだった。全てエスーペラント語で書かれているようだった。どうやら昔の魔導書を複製したものようだ。奥付にはおそらく初版発行時期が記録されているが、20年前に作られた本のよいだった。


「マスミ、この魔導書どうするつもりですか?」


 すっかりコリンを宥め、落ち着きを取り戻した牧師さんは、魔導書を抱えて難しい顔をしている私に聞いてくる。

 エリマキは私の首が飽きたのか、牧師さんの肩に飛び移って、すぐ首に巻きついた。やっぱり飼い主である牧師さんに懐いているようだ。自身を殺そうとしたコリンには警戒しているようで、小さな声で鳴いていた。


「コリン、この本もらっていい?」

「マスミも魔術するんですか?」

「やめて、マスミ。あなたは未信者ですが、やっぱり牧師としては見過ごせませんよ!」


 二人して突っ込んできた。


「そんなわけあるわけないじゃない!」


 私は大きな声でツッコミ返す。やっぱりこの村の人達は、天然というかのんびりとし過ぎだ。


「事件の容疑者達がこの本を探していたのよ」

「と言う事は?」


 牧師さんはちょっと目を輝かせて聞いてくる。


「この本に事件の謎を解く手がかりがありそうよ!」


 私もちょっとワクワクとしながら言った。

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