2話 宝地図で大騒ぎ
デレクのカフェは新メニューができたようで、ちょっとした賑わいを見せていた。客はクラリッサ、プラム、牧師さんもいた。隣の村から来たのか、知らない顔も何人か見えた。
今日はバイトの日では無いが、やっぱり一時的とはいえ働いている場所なので、客として行くのはちょっと微妙な気分ではある。
とはいえ、大きな丸いテーブルではクラリッサやプラム、牧師さんが美味しそうに食事をとっていて私達み笑顔で席につく。
「こんにちは。コリンにマスミ」
そこにデレクがやってきてメニューを持ってきた。
新メニューは、隣のパン屋のミッキーと一緒に開発したフルーツサンドだったし。中はチーズ風味のクリームで、濃厚な味わいがある。パンはこの村風にちょっと硬い。雑穀が練り込まれている。そこに挟まれているイチゴの断面もなんとも可愛らしい。バイト中もこの新メニューが人気で、特に村の女性陣たちに好評だった。
「マスミ、こんにちは。このフルーツサンドは夢見たいに美味しいですね!」
牧師さんが目尻を下げて、新作のフルーツサンドを頬張っていた。女性にウケのいいフルーツサンドだったが、牧師さんのハートみ鷲掴みにしたらしい。暇があればこのカフェに食べに来ていた。
「そうね。本当に美味しそう。デレク、フルーツサンドを注文するわ」
「じゃあ、僕もフルーツサンドを注文するかな」
コリンもつられるようにフルーツサンドを注文して、しばらくしてデレクがテーブルに持ってきた。
日本の一般的なフルーツサンドと違って色は少し暗めとはいえ、やっぱりフルーツサンドは華やかだ。
フルーツサンドが乗ったテーブルは、パッと花が咲いたようである。
「ところでクラリッサ達は何してるの?」
華やかなフルーツサンドをすぐに食べてしまうのは、もったいない気がしてクラリッサに声をかけた。
クラリッサとプラムはさっきから何か地図のようなものを凝視して、難しい顔をして考え込んでいた。
「これよ。エスーペラント語の地図発見されたのは知らないの?」
ちょっとドヤ顔でクラリッサは、コージー村速報を見せてきた。コージー村速報は、村の役所が出している広報誌だ。正直あまり面白くないので、事件調査以外では真面目に読んだ事が無い。羊飼いのチャドがお見合いに成功したとか、アナのジュース屋が史上最高に売り上げを記録したとか、欠伸の出そうな話題ばかりである。最初は、殺人事件もここで大騒ぎしていたようだが、あまりにも頻繁に発生しているために事件についてはサラリとしか載っていない。
「知らない? どんな話題?」
私はそんな眠気を誘うコージー村速報をクラリッサから受け取り、トップ記事を読んでみた。
なんでもコージー村とハードボイルド村にまたがる遺跡発掘場で古い地図が見つかったようだ。
発見したこの村の学芸員によると、宝が隠されたいる場所を示す地図らしい。ただ、とっくに廃れたエスーペラント語で書かれており、解読が難しいという事だった。そこで、村の住人達も解読をして宝を探そうという事だった。
この件にクラリッサは大興奮しているようだ。メイドもプラムを巻き込んで暗号解読を試みているという。
「語学といえばコリンですね。コリンはこの地図は解読できますか?」
牧師さんも興味があるようで、ニコニコ笑いながら質問する。
「いや、エスーペラント語は呪われた原語だからなぁ。差し詰めバベルの塔さ。あんまり関わりたくないね」
コリンは顔を顰めてフルーツサンドを齧る。
「ああ、確かにこの原語で世界統一を目指していたっていう歴史もありますね」
「牧師さん、どういう事? エスーペラント語とバベルの塔って関係あるの?」
私は牧師さんに質問する。
確かバベルのとうは、聖書の中にある話だ。悪巧みをする悪魔崇拝者達が、神様に反抗し、天まで届くような塔を建てる。しかし、神様の怒りを買う。「こんな悪巧みをするのは、言語が一つだからだ。言語をバラバラにしよう」という事になり、数々の言語ができたという。
「このエスーペラント語は、もともとこの国の魔術師達が「世界を一つにしよう』という思惑で作ったんだよ。そに割には複雑で使いにくい言語でよ、英語が入ってきて廃れてしまったのさ。歴史的にはバベルの塔の過去と経緯が似てるし、私はあまり好きでは無いね」
この国の歴史について無知の私に噛み砕いて説明してくれた。確かにそんな過去のある言語だと思うと、いい印象は持てない。
「でも宝があるなんて夢があるじゃない? コリンは宝探しには、参加しないの?」
クラリッサは、ちょっと口を尖らせていう。
「まあ、興味がない事は無いが、なんとなくイタズラのような気もするし、私は参加しないよ」
コリンは、クラリッサと違って現実的のようだ。
「牧師さんは、参加する?」
私は牧師さんに質問する。
「したいですが、ちょっとこれは難しそうですねぇ。プラムでも苦戦いるんでしょ?」
「ええ。すごく難しいわ。一体どうして666種類も文字を作ったのかしらね。エスーペラント語が、識字率も低くいの納得よ」
プラムは心底イライラしながら、エスーペラント語の辞書をめくっていた。プラムは元スパイでかなり有能だ。私がちょろっと教えた日本語も特に訛りがなく話せている。そんなプラムが苦戦するのは、よっぽどだろう。私もちょっとみただけでも文字数が多く、日本語よりも難しそうな印象を受ける。
「マスミもこの謎解いてみる?」
無邪気にクラリッサは笑って言った。
「そうねぇ。どうせ暇だからエスーペラント語も勉強してみようかな」
私はそう言って笑った後、フルーツサンドを齧る。濃厚なチーズ風味のクリームとイチゴのみずみずしさ、そしてパンの硬さもちょうどいい。
美味しいフルーツサンドに舌鼓をうちつつ、コージー村速報に乗ったエスーペラント語の古地図を眺めていた。