23話 夢が終わる予感がします
ミッキーのパン屋をあとにすると、デレクのカフェでサンドイッチやサラダを食べて腹ごしらいを終えると、次はジェイクの医院に行く事にした。
15年前の泥棒事件について何か知っている事がないかやっぱり気になる。魔導書の謎とともに何か関係があるかもしれない。
ジェイクは医院のそばの庭に植えられているハーブ類に水をあげていた。
最近ジェイクは断食や健康講座を開き、仕事にも意欲的だった。お陰で最近、村の患者も減っていたと言っているのを思う出す。
ソニアの事件はジェイクにとってもかなりショックな事には違いないが、だんだんと回復してきたようである。今日もジェイクが笑顔で庭のハーブに水をやっていて、私もホッとする。
「今大丈夫?仕事中?」
「大丈夫さ。ありがたい事に最近村の人達も健康になってね。僕がホームレスになる時期も近いかも知れない!」
「それでいいの…? ジェイク」
職業意識が高すぎるのも考えものである。私はちょっと苦笑して、庭のハーブを眺める。ミントも植えられているようで、スッとしたいい香りもする。温かな春の日差しの下にいるハーブ達は、心なしかとても元気に見えた。
立ち話もなんだという事で、庭の隅にあるベンチに二人とも座る。
「マスミは事件調査をしてるんだって?今日はその事かい?」
「ええ」
私は頷き、事件のノートやペンを取り出す。
「あはは。こうして見るとマスミは探偵みたいだな」
「そうかな?いきあたりばったりでろくに推理なんてしていないんだけどね」
「アンナは多少強引なところがあったけれど、マスミは素直だし、ぽろっと容疑者達も事情を溢すんだろうね」
そんなに褒められてしまうと、顔が厚熱くなる思いだ。
ジェイクの中身は残念であるが、顔は惚れ惚れするほどのイケメンである。この村のきたばかりの頃、ジェイクの顔を見て舞い上がっていた事も思い出す。我ながらとっても薄っぺらい行動をしていたが、今思うとそれも懐かしい。再び胸に込み上げるような寂しさを覚え、それを誤魔化すかのようには話す。
「ジェイクに聞きたいことがあるんだけど、15年前の事をきいていい?」
15年前というワードを出すと、ジェイクはあきらかに顔を曇らせた。
「聞いたらまずかった?ごめんなさい」
「いや、いいんだよ。あの事件は辛かったね。うちに泥棒が入ったんだ。お金と壺、あと指輪なんかも盗まれた。母さんは責任を感じて鬱っぽくなってしまってさ」
「それは、お気の毒ね」
「でもいいんだよ。お陰で両親は、王都で楽しくやってるし、今は貧乏な医者の家に泥棒は入らないだろう」
ジェイクは豪快に笑う。日本では医者はステータスがある仕事で、婚活女子に人気があるとか、ロマンス小説のイケメンヒーローも医者が多いと聞いたら、さぞ驚くことだろう。
そう思うと、やっぱり元いた世界は職業や肩書きが一番という世界だった気もする。そう思うと、この世界の方が純粋で素朴さがまだ残っているようにも感じる。元いた世界では、医者が貧乏職となると、就業する人は少ないんじゃないかとも思う。
「それで、15年前の犯人は捕まったの?バベルっていう泥棒集団である事はアラン保安官に聞いたけど」
「おお、マスミ。けっこう調べているじゃないかそうだよ。バベルっていう泥棒集団が犯人だ」
その集団にあの男も所属いたのだ。何か関わりは絶対にある筈だ。
「でも結局犯人は見つからなかったんだよ」
「そんな」
もう少しで手がかりが掴めそうだったのに。残念な気分だ。この国にも一応時効があるようで、15年たつと時効になる様である。
「まあ、当時もあんまり警察が調査してくれたわけでも無いしね。田舎だしね」
「そういう問題?田舎でもちゃんと調査しなきゃ」
「まあ、この村にくる保安官は代々無能だから仕方ないよ」
そう言ってジェイクは肩をすくめる。
15年前の事件については全く気にしていないようだ。時間の経過のせいでもあるが、やっぱりこの村の人達は根っからお人好しなんだろうと思わされる。
「でも、犯人の一人はわかったんだよな。といってもアンナがコリンの事件調査をする上で偶然見つけたんだよ」
「え?本当?」
これは大きな手がかりがだ。私は身を乗り出して聞く。
「うん。この村の霧の森の方に空き家があって、そこにアハブって男が残した手紙や日記が残ってた。どうやらホームレス状態でそこに住み着いていたようだ」
アハブと聞いて私の背中はヒヤリとする。
あの魔導書の持ち主?そうとしか思えなかった。
「そのアハブは今どこに?」
「さあ、それが全くわからない。確かに、犯行当時空き家に住み着いていた事はわかったけど、盗まれたものが出てきたわけでもないしね」
「そっか」
「なんだか被害者の僕より、マスミの方がショックを受けているな」
ジェイクは再び笑う。私はジェイクの笑い声を聞きながら、事件ノートを書く。
・魔導書の持ち主にアハブは、15年前泥棒をしていた。泥棒集団のバベルの一員だろう。
・アハブは15年前この村の空き家に住みついていたらしいが、行方不明に。
・杏奈先生が偶然その事実を見つけたらしい。
ノートに書いてみたが、このアハブの魔導書について何故イザベラ達が揉めていたの?あの男もこの魔導書でイザベラと揉めた?
単なる推測でしかないが、イザベラ達が泥棒集団のバベルの一員だと仮定すると、辻褄があってしまう。ただ、その証拠はまったくないし、肝心のアハブの魔導書のありかがわからない。
やっぱりこのありかがわからないと、事件は何もわからない。ただ、逆に言えばこの魔導書がわかれば一気に事件の謎が動きそうだ。
この魔導書を探す事を第一優先に考えた方が良いだろう。イザベラとあの男は、移籍発掘場近くで揉めていたと言うし、そこにヒントがありそうだ。この後に移籍発掘場に行ってみても良いだろう。
「やっぱりマスミは、こうしてみると本当に探偵みたいだよ」
「ちょと恥ずかしいからやめてよ」
「ずっとこに村の治安に為にマスミも居てもらいたいな」
ジェイクは笑顔を隠し、真顔になる。
「僕はずっとマスミにこの村に居てもらいたいよ」
そう言われてしまうと、逆に別れが近い事を連想させた。胸に寂しさが溜まっていく。
こに世界が夢かどうかなどは関係なく、私もこの村と離れたくなかった。でもそれは、現実を見ていない痛い状態である事を強く連想させる。
浦島太郎も、竜宮城にいた時はこんな気持ちだったにだろうか。きっと夢を見ながらも、どこかで後ろめたさや罪悪感の様なものを感じていたのかもしれない。
夢のように美しい顔のジェイクの横顔を眺めながら、やっぱりこの世界には 長くいられない予感が感じていた。




