20話 眠い公演会
ハードボイルド村の講演会は、前回と同じ会場で行われたが、あまり客は居ないようだった。平日のせいかもしれないが、客席はごく自然にソーシャルディスタンスができてしまっていた。元いた世界では疫病の影響で、ライブ会場でも人と距離を取らなくてなならなくなった事などを思い出す。
講演のテーマは「エスーペラント語は今こそ必要」というテーマだったがいまいち惹かれない。
発言者たちは全編エスーペラント語で話すそうだが、わざわざ英語の通訳も入れるらしい。無駄な手間がかかっているように見え、興味は湧かない。コリンとの討論会形式の時は面白かったが、こちらはあんまり期待しておかない方が良いだろう。
「あら、マスミじゃない」
そんな事を考えていると、隣の背席にコージー村職員のマリーに話しかけられた。
足が少し悪く引きずって歩いているが、噂好きでなかなか性格も強烈なタイプだ。とはいえ、かつての同僚であったカーラの死を悼んだり、根っから悪い人間でも無い。
「こんなつまんない講演会に何しに来たの?」
相変わらずの毒舌を吐きつつ、隣の席に座る。マリーは仕事でこの会場の来たらしい。コージー村村長のダニエルも後で来ると言う。招待されたので来ただけだが、退屈そうだとため息をついていた。
他の客たちも無表情なものが多く、おそらく心から楽しみにしているものは少ないようだ。マリーの毒舌も会場内でも黙認されているようだった。
「もしかして殺人事件の調査?」
マリーは面白がるようにニヤニヤと笑い始めた。
「実はそうなのよ。まだ何にもわかって居ないんだけどね」
「転移者の男が殺されたって噂ね。あとアラン保安官があなたを疑っているとか」
思わずワオ!と言いたくなる。マリーの噂情報収集能力はプロ級である。単なる役場の職員にしておくのは、もったいなくも思うほどだ。
「その通りよ。よく知ってるわねぇ」
「ここでの噂は大抵把握しているもの」
マリーはかなり自信満々の胸を張る。
「この男は知らない? 一度見たことあると思うけど」
私はあの男の指名手配の似顔絵が書かれた紙を見せる。
「どれ、見せて」
まるでこれから遊園地のでも行くかのような楽しそうな顔で、マリーは似顔絵を見ていた。
「あら、この男はこれから講演会するイザベラと会っているのを見たことあるわ」
「本当? どこで?」
思わず身を乗り出す。これは有力な情報である。
「確か、発掘場の近くで二人で歩いているのを見たわ」
「どんな感じだった?恋人同士っぽかった?」
マリーは何かを考えるように目をぐるりと回す。
「そうねぇ。そんな中がいい感じではなかったわね。ただ、魔導書がどうとか話していたわ」
「魔導書?」
「それだけよ。あとはわからない。ごめんね」
「いえ、いいのよ。ありがとう」
あの男とイザベラは関係があったのだ。
と言う事は、イザベラも容疑者の一人に加えなければ。
「おーい、マリー。それにマスミまでいるじゃないか」
そこに村長のダニエルがやってきた。前の村長は最低な人物であったが、温厚で仕事が出来るダニエルが新しく村長になったおかげで村役場の人達からも評判が良いという。
「ところでマスミは何やってるんだい?」
そう言いながら、ダニエルもマリーの隣に座る。
「殺人事件を調べているんだって」
私の代わりにマリーは、ニヤニヤしながら言う。ゲスい笑みだが、有力な情報をもらった手前、文句は言えない。
「ダニエルはこの男は知らない?」
私は例に似顔絵を見せた。ダニエルは似顔絵をしばらく見つめた後、残念そうに首を振る。
「知らないな」
「そう。もう一つ質問いい? マリーも。この村の15年前、バベルっていう泥棒集団の泥棒事件があったみたいなんだけど、何か知らない?」
バベルと聞いて二人とも明らかの顔を曇らせる。
「ああ、あの事件はなあ。僕もよく知らないけど、有名だね」
「あの事件は、ジェイクの家が被害にあったのよ」
「本当?」
この話も初耳だった。
「ええ。でもそれでジェイクのお母さんもショックでメンタルが悪化してしまってね。今は旦那さんと一緒に王都に引っ越していつのよ。今のジェイクには信じらてないかもしれないけど、あの家自体はけっこい金持ちなのよ」
「そうそう。遠縁の王族もいたんじゃないか」
「そうなの…」
これも初耳だった。後でジェイクから事情を聞いても良いだろう。
「ダニエルは泥棒は大丈夫だった?」
「それは全く大丈夫さ。命に比べたらはした金だしね。でもメイドのメイジーはショックを受けてしまってさ」
ダニエルは顔を渋くする。
単なる泥棒事件だが、住んでいるものには精神的ショックをかなり与えるらしい。実際、あのいつも強いプラムもショックを受けていた。命が助かったから良いとは言えるが、犯人がした事は許せる事とは言い切れない。
「あとでマスミもメイジーを励まそてあげてくれないか」
「そういう事ならわかったわ、ダニエル。明日にでも伺っていい?」
「もちろん」
そんな事を話していると、講演会は始まる時間になった。
イザベラが犯人だと急浮上したので、何かボロを出すかもしれない。
私はかなり真剣に講演会を見ていた。
講演会のメンバーは、イザベラ、ニムロデ、リベアルの三人だったが、ニムロデは終始通訳の徹してほとんど自分のことは発言しなかった。
はじめて聞くエスーペラント語は、発音が独特というか、子音もかなり多めで難しそうな印象を受けた。英語のようなストレートさは無さそうだ。
イザベラも実際エスーペラント語は難しい言語だと主張し、かなろ自惚れているようだった。
事件に関係あるかと思い、まじめに講演会を聞いていたが、ずっとエスーペラント語がいかに難しい言語で使いこなせる人は頭がいい、センスも良いという話ばかりだった。一言で言えば、「自慢話」しかしていなく、さすがの眠くなった。
隣にいるマリーは始まって5分で爆睡中だ。客席の何人かも寝ていて、ダニエルも欠伸を噛み殺している。
さすがの私もイザベラの話がつまらなく、頬をつねって眠るのを我慢していた。
・イザベラはあの男と接触.。魔導書の事で揉めていた?
・15年間の泥棒事件はジェイクの家が被害者。
講演会ではマリーとダニエルからの情報以外は得られそうに無いようだった。




