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1話 もうすっかり春です

 もうすっかりコージー村は春だった。


 風は少し緩くて優しい。日本のように花粉もないにので、全く心地よい春の日だった。毎年花粉に悩まされていた事を考えると、コージー村の春は天国のようだ。


 私は現在、とても暇だった。


 仕事相手であるジミーは事件の影響で引っ越してしまい、定期的な仕事を失ってしまった。


 同じく仕事相手のネルも大きな病気が見つかってしまい、手術を受けに王都に病院に入院中。


 クラリッサの屋敷のメイドの仕事もプラムがほとんどこなしてしまっているし、デレクのカフェのバイトも週2回から3回。客に多い土曜日と水曜日か、木曜日の昼に行くけで、とても暇だった。


 とはいえ、住むところはあるし楽観視はしていた。森の湖のそばに新しくホテルも出来るし、そこの求人も出ていた。悪い条件ではないので、履歴書も送っている段階だった。


 謎の転移者はいるのは事実のようだ。転移者保護の仕事も週一回ではあるが、やっぱり気になる。私は、自主的に毎日村中を歩いて、怪しい人物がいないか確認していた。


 ソニアの事件が解決して以来、あの謎の男は見ていないが、気になる事は気になる。


 森の方は、ホテル建設のための人が増えているので、人がいないところに身を隠しているのかもしれない。


 今日は、村に墓地に行くことにした。


 教会の裏手にあり、周りは雑木林に囲まれている。


 よく晴れた春の日に行っても人気がなく、暗い雰囲気は否定できなかった。やっぱりどこの世界の墓地は暗いのだろう。

 今までの被害者達の杏奈先生、アンジェリカ、カーラ、マーク、ソニアの墓をめぐり、手を合わせる。


 墓は、キリスト教式で墓跡には聖書の言葉が書かれているが、どう祈っていいのか分からず、とりあえず日本式で手を合わせた。


 特に杏奈先生の墓の前では、花も添えて、目を閉じて祈る。


 あの変な夢はどういう事?


 この世界は夢?仮想世界?あの謎の男や悪夢のせいで、この世界が本物かどうか自信が揺らいでいた。


「こんにちは」


 そこに村の住人が現れた。最近越してきた言語学者のコリンだった。


 コリンは、もともとこの村の住人だったが妻が事件に巻き込まれて殺されていしまった。二年前の事である。事件は杏奈先生が解決し犯人が捕まったが、彼の心の傷は深くしばらく王都で仕事をしていた。


 しかし、王都の生活もそれはそれで不便なようで、最近この村に帰ってきた。


 60歳ぐらいの初老の男だが、そんな悲しい過去があるせいか、どことなく不幸な雰囲気が漂う人物だった。最近知り合ったわけだが、私はコリンが笑ったところをあまり見た事が無い。


「今日は天気がいいね。墓参りかい?」

「ええ。杏奈先生のお墓に…」

「そうか。アンナも亡くなってしまったのか」


 コリンは杏奈先生の死もかなりショックを受けていた。

 事件を解決してくれた杏奈先生に対して娘のようの可愛がっていたらしい。


 杏奈先生は色々と問題がある部分もあるが、基本的には人の良いタイプにも見える。コリンと親しかった理由も察せられた。


 杏奈先生と同郷という事で、私もコリンに良い感情を持たれているようだった。


「マスミは仕事なくなったんだろう。大丈夫かい?」


 妻の墓参りを終えたコリンに深く同情されてしまった。


 二人で墓地を出て、湖の周りをブラブラと歩く。春の気候が心地よく、いつもより湖も綺麗に見えた。


「そうなんですよね。仕方ないですけど、毎日暇なのも辛いですね」

「そうか。実はな、来週ハードボイルド村の講堂で講演会をする事になったんだが」

「本当ですか? どんな講演?」

「まあ、この国に元々あった古い言葉と英語の討論会みたいな感じでもあるな」

「気になりますね」


 私は元々英語教師だったし、原語にも興味がある。この国に元々あったエスーペラント語もよく知らないが、きになる。どうせ暇だし、図書館で調べてみても良いかもしれない。


「それで受付や会場準備の人手が必要でな。あんまり良い時給は出せんが、手伝ってくれないか?」

「もちろんです!」


 即答した。願ってもない良い話だった。


「やる気があるようで嬉しいよ。詳しいことはまた後日伝えるね」


 食い気味の私にコリンは苦笑しながらいう。


「ありがとうございます。やっぱりなんだかんだでこの村でも生活できそうですね」


 ホッとしらと同時にお腹がすいた。コリンもそうだったようで、二人でデレクのカフェに行くことになった。

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