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18話 変な儀式をやっても意味ない

 話題もすっかり暗くなり、デレクと二人で落ち込んでいたら、コリンが客としてカフェにやってきた。


 片手に本も持っているので、読書タイムの為にきたようである。


「デレクにマスミ、どうしたんだ。暗いぞ」


 コリンは苦笑して、窓際の席に座る。さすがに客の前では暗い顔は見せないと、デレクは笑顔に切り替えてコリンに接客を始めた。


「いや、何でも無いよ。コリン。今日は何にする?」

「そうだなぁ。前食べたフルーツサンドが美味しかったから、それを。あとブラックティーも」

「フルーツサンドは人気だなぁ。すぐ持ってくるよ」


 本当にデレクはすぐにフルーツサンドとブラックティーを持ってきて、コリンのテーブルの上に置く。


 コリンはもう初老と言っていい年代ではあるが、目を輝かせてフルーツサンドを食べていた。


 そういえば元いた世界でも男性にもコンビニスイーツが人気だったという記事を見た事がある。やっぱり甘いものは、性別や年代を問わず好まれるのだろう。


「ところでマスミ。事件に巻き込まれたって本当かい?」


 コリンが話しかけてきたので、私は彼に目の前の席に移動して座る直す。コリンにまでこの事件の事が伝わっているとは、やっぱりコージー村の噂は侮れない。


「事件に巻き込まれて落ち込んでいたのかい? 僕のフルーツサンドを一切れあげようか?」


 コリンの親切心に涙が出そうになる。元いた世界でも身近な人は優しかったが、殺人事件に巻き込まれたり、住む世界そのものに疑問を思う事はなかったので、人の優しさも当たり前のように受けとっていた。


 こんな特殊な状況ではなかったら、人の優しさも感謝出来なかったのだろう。さっきまで落ち込んでいたが、こんな気持ちになれるのなら、悪い事にも意味があるのかもしれないと思い始めた。


「ありがとう、コリン」

「さあ、おひとつお食べ」


 コリンからフルーツサンドを一切れもらう。人の優しさも詰まったフルーツサンドは、いつもより倍美味しく感じられた。


「美味しかったわ」

「それはよかったよ」


 珍しくコリンは笑顔を見せる。あの公演の時は、場を盛り上げていたが奥さんの事もあって、無表情の時も多い。「マスミを見ていると、アンナも思い出すね」


「そうなんだ。似てるの?」

「いや、別に似てはいないけど、やっぱり同じ日本人だからかなぁ」


 コリンは杏奈先生を通して日本語にも興味があったようだ。二人で日英の比較言語に研究もしようとしていたそうだが、結局杏奈先生がなくなってしまい、だめになってしまったようだ。


「比較原語? 気になるわね…」

「もしよかったらマスミも私とやってみないかい? 実はエスーペラント語との比較研究もやってるんだがね。もちろんタダとは言わないよ。少ないがバイト代は出そう」


 そう言われてやらない理由はない。

 私はこの嬉しい提案を即決し、毎週月曜日からコリンの家で言語の研究んl手伝いをする事になった。


「とこで杏奈先生ってコリンの目から見てどういう人だったの?」


 気になることを聞く。

 事件に関係あるかはわからないが、杏奈先生が死ぬ直前のことを知る事で何か手がかりが掴めるかもしれないと考えた。


「そうだな。アンナは賢い女だったよ。事件だけでなく、この世界の謎も解いてしまった」


 コリンも意外と嘘がつけない性格なのだろうか。うっかり口を滑らせたと言いたげなバツの悪い表情を浮かべている。


「この世界は夢?」

「僕も気になるよ、コリン。この世界は現実に存在するの?」


 いつの間にかデレクもやってきて、私と同じ質問をする。

 コリンはすっかりタジタジになっていた。


「君たちも案外賢いな」

「コリン、案外って何さ」


 デレクが苦笑し、この場が笑いに包まれる。気の抜けたような笑いだった。この世界の謎については、こうして笑うしか無いといった感じだ。


「まあ、一つだけ確かな事があるよ。神様がお創りになった世界は一つだけだ。他は全部偽物」


 コリンが言う事が確かなら、あちらの世界とこちらの世界のどちらかは偽物という事になる。


「さて、どちらが本物でしょう?」

「ちょっとコリン、揶揄わないでよ。ちょっと混乱するよ」


 デレクは顔を顰めてつぶやく。


 この謎は、自分の手に負えないかもしれない。もし夢だったら早く冷めてほしいと思う一方、この世界にすっかり慣れてしまったため、帰りたくない気持ちもある。ぐらぐらと気持ちが揺れている。浦島太郎も帰る直前はこんな気分だったのだろうか。今思うと、玉手箱も残酷な贈り物である。そもそも亀を助けてあんな目に遭う浦島太郎って童話の中の主人公の割には、ひどい目に遭っている。あの物語の教訓は一体何だろうか。


「まあ、その謎はいいじゃないか。事件の方はどうなんだい?」

「それがさっぱりよ」


 私はコリンに事件についてわかった事を説明する。やっぱり、自分の奥さんの事件については、コリンは顔を顰めて難しい顔をしていた。


「そうか。エスーペラント語の団体も関係あるかもしれんな」


 コリンぽそりとつぶやく。


「あそこは昔の魔術書なども研究のために収集してるしな…」

「儀式のためにあの男を殺したと思う?コリン」


 この話はコリンの取っては、酷だとは思ったが、聞かずにはいられない。


「まあ、信じたくはないが未だに魔術に憧れ利用したいという連中もいるからなぁ。ありえない話では無いね」


 やはりあの男は、変な儀式の生贄として殺された可能性が高そうだ。


「エスーペラント語の団体は、明日も公演するそうだよ。ハードボイルド村のあの会館で。マスミも行ってみたら何かわかるかも知れない」

「ありがとう、コリン。明日公演に一応いってみるわね」


 と言う事で事件調査のため、再びハードボイルド村に行く事が決まった。


 ・あの男は変な儀式の生贄になった可能性が大

 ・エスーペラント語の団体が昔の魔術書を収集しているらしい。変な儀式の手順にも詳しい?


 まだ何もわからないが、過去の歴史が事件解決のキーになっている気がした。


「それにしても、変な儀式をやって願いを叶えても楽しいのかね。自信とか自己肯定感とかなくなりそう」


 珍しくデレクは儀式の話題ではため息をついていた。それに関しては同感だ。自分も英語を身につける為コツコツ努力をしてきた。変な儀式で夢を叶えてもちっとも嬉しく無いと思う。


 色仕掛けをして金銭を得ようとしていた男の発言とは思えない。デレクを見直す思い出す。


「すごいわ、デレク。あなた、成長しているのね」


 素直に褒めると、デレクはドヤ顔で胸を張った。


「そうさ。ズルして手に入れた結果なんて碌でも無いね。それで成功しても、きっといつか自分の手から離れてしまうよ」

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