17話 エイプリルフールはとっくに過ぎてるはずです
翌日、私はデレクのカフェに行きフルーツサンドを注文した。
「ところで、マスミ。また事件が起きたんだろ?」
「どこで知ったの?」
デレクは、マリーアナが噂しているのを聞いて、事件の事も聞いたようだった。やっぱりコージー村の噂の広がりの速さは、インターネットより負けていないようである。
カフェは午前中の中途半端な時間のためか、他に客はいなかった。
デレクはちょっと退屈しているようで、フルーツサンドを持って来ると私の目の前の席に座って話し始めた。
「事件はどうよ?」
「今回は難しいかもしれないわね。まだ容疑者らしき人もさっぱりよ」
私はお手上げというポーズをとる。ただ、事件が長引いて解決しなければ、この村にいられる時間も伸びるかもしれないと浅ましい事も考えていた。
そう話と、デレクは何か考え込んでように黙ってしまった。
事件やこの世界のことばかり熱中して考えていたが、デレクも何か悩みがあるのかも知れない。
私は田舎パンで作られた黒っぽいフルーツサンドをつまむ。
確かに日本にあるスイーツと比べれば地味ではあるが、噛めば噛むほど美味しい。噛みごたえのあるパンと濃厚なチーズ風味のクリームはよくあった。この土地でとれたイチゴもみずみずしい。
食べている間は束の間ではあるが、気分は良くなる。事件やこの世界の謎を考えると、気分は暗くなるが美味しいフルーツサンドに慰められる。
「僕さ、昨日食材について勉強しようと思って図書館に行ったんだ」
「そうなんだ」
この村でタピオカ屋をやっていた時とは考えられない真面目さである。その頃は、クラリッサに色仕掛けまでしていたと思うえばかなりの成長だ。やっぱり職人気質のミッキーと一緒に仕事をしたのは、良い影響だったのだろう。しかし、デレクの口は重く、何かを悩んでいる事は一目瞭然だった。
さっきまで美味しくフルーツサンドを楽しんでいたが、ちょっと自分まで気分は重い。
「地理学の本も読んだんだけど、世界地図なんかが塗りつぶされていたんだよ。一体どう言うこと?」
デレクもこの世界ぼ謎に気づき始めたようだ。デレクも転移者であるし、おかしいと思っても不自然では無い。
「司書のジャスミンは何て言ってたの?」
「ジャスミンによれば、世の中には知らなくてもいいことはいっぱいあるんだってよ。どう言う事?マスミは何か知ってる?」
この事実にデレクは明らかに混乱していた。
「私も全く同じ事を言われたわ…」
「本当?」
「ええ。ジャスミンだけでなく、牧師さん、アナ、プラム、クラリッサも。それにアビーとジーンも。子供までそう言っている何て」
その事を思い出すと、手の込んだ嘘のようにも思えてしまう。4月1日はもうすぎてしまったが、エイプリル・フールと言われた方が納得できてしまう。
「なあ、マスミ。この世界は夢?僕は最近そんな風に思うようになったんだよ。こんな素敵なカフェも持ててさ。たぶん、あっちの世界にいた時は、無理だったと思うよ」
デレクは愛おしそうにカフェを眺める。
「そんなことは…」
強く否定は出来なかった。
確かにこんなにすぐにカフェができる何て、やっぱりどこかで強い力、ご都合主義と言われているようなものが動いているような気がしてなら無い。
「マスミはどう思う? この世界は夢なのかな?」
ちょっと悲しそうにデレクが言う。
「そうね…。そうかもしれない」
元いた世界は、確かに便利で何でもあった。美味しいものもたくさん。綺麗なものもいっぱい。心躍るロマンス小説には夢中にもなった。
でも、満たされていたかといえば別にそうでも無い。疫病の影響もあるだろうが、人々はけっこう自分勝手だったと思う。「自己責任」の元で弱者を切り捨てていたとも思うし、食べ物も無駄にしていた。
それに比べればこちらの方が生きやすい。転移者で何のスキルもない私がこうして死なずに生きて来れたのは、この村の人達の厚意があるるからだ。たぶん、日本っで弱者になってしまったら、切り捨てられて死んでいた事だろう。そう思うと、この村の人々の人の良さは、夢のようで現実感もない。
「そっか。マスミも夢だと思うのか…」
「わからない。でも…」
思い切ってあの男の事や夢の中でのあの男の言動を話してみた。やっぱり、こんな話題は同じ転移者であるデレク以外には出来そうになかった。
「ムーンショット計画…?ちょっとそれ向こうにいた時に聞いた事があるよ」
「本当?」
「うん。確か文明は発達して人間が要らなくなるから、夢を見せながら合法的な安楽死をさせるっていう…」
デレクに話によれば異世界転移や異世界転生のライトノベルが流行っている理由も、ムーンショット計画と関係があるといっていた。
あの男がいっている事とも合致するし、今の身の上を考えると恐怖でしか無い。
「足も手も寝たきりで衰弱したまま、ファンタジックな映像を見せられて死んでいくんだってさ。恐怖でしか無いね…」
デレクも心底怖がっていた。
この世界が夢だとしたら?
早く目覚めたほうがいいのだろう。でもどうやって目覚めるべきかわからない。
杏奈先生は何かに気づいていた。インクが滲んで読めなかったが、「死んだほうがいい」と書いてあった可能性が高い。
この夢の世界を終わらせるのは、この世界での私の死?
全くわからないが、やっぱり早く目覚めた方が良い事は自覚していた。




