14話 また事件調査をしなければならないようです
殺人事件が頻発するコージー村の住人としては日が浅いクラウスだが、意外と彼は冷静だった。
「ま、俺の生い立ちもけっこうヤバいしなぁ。ちょっと懐かしいかも…」
呑気に死体を眺めていた。
「また殺人事件ね。どうしてこの村は殺人事件ばかり起きるのかしらね」
プラムも呆れて死体を眺め、ため息までついている。
さすがにそこまでは冷静になれないが、死体を直視できるほどの冷静さはあった。杏奈先生の遺体を見つけた時は、気を失ったりしたが、さすがに少しは慣れてしまったらしい。こんな事は別に慣れたくはないが、コージー村に住んでいる限り、仕方ないのかもしれない。その点はもう諦めた。
「マスミ、もしかしてこの男が例の怪しい男?」
「うん…」
プラムの言葉に私は頷く。プラムもクラウスもあの男には会った事はないもだ。たぶんこの中ではあの男について一番知っているのは私である。
「まあ、俺は保安官呼んでくるか?プラムもマスミもここにいて大丈夫か?」
「大丈夫よ」
プラムは私の意見を聞かずに断言し、クラウスにアラン保安官を呼んでくるように指示を出す。まあ、この頼りがいのあるプラムと居れば大丈夫だろう。
「じゃあ、行ってくるよ」
クラウスは重い腰を上げてチェリーの家から出て行ってしまった。
「この男は生贄儀式で殺されたのかしらね?」
プラムは死体のそばにしゃがみ、さらに色々と見ていた。男のポケットの中なども見ている。
男はどうも撲殺されたようだ。頭から血を流して倒れている。
しかし死体の上には、呪文のような文章が書かれた紙や魔法陣のようなイラストが描かれた紙もそばにある。
見ているだけで不気味だ。たぶん何かの儀式に捧げられた死体である事はわかるが、それだけでは犯人の目星はつかない。
「プラム、何かわかった?」
「ポケットの中から、手帳が出てきたわね」
プラムは薄い黒い手帳をマジマジと読んでいた。
「こいつ、泥棒の犯人よ!」
手帳を読み終えたプラムが叫ぶように言う。
「本当?」
「ええ。犯行手口が手帳にびっしり書いてある。見てみる?」
プラムから手帳を受け取って読んでみると、確かにコージー村で起こった泥棒事件の犯人はこの男のようだった。
偽の地図を遺跡発掘場に仕込み、村中が宝探しに大騒ぎになったところで泥棒したようある。
ただ手帳のページはところどこ破られていて、本物の地図を盗んだ件などはわからない。男を殺した犯人が破りとったのだろうか。手帳には泥棒に関する事以外は書いてなく、さらに謎が深まってしまった印象である。
「手帳には、この家のどこかの盗んだものを隠したって書いてあるけど? あるかな?」
「どうかな。まあ一応探しましょ」
プラムは盗まれたものは、無いと思っているようだが、一応この家の中をさがしてみた。
この家は事件の舞台にもなった事があるので、家具は撤去されている。
キッチンやトイレもなになかった。当然盗まれたお金やティアラも出てこない。ただ、男の衣類や歯ブラシなどが入ったリュックサックが見つかり、ここで寝泊まりしていたようだった。
「転移者だったら、素直に国に頼ればしばらくは生活できるのに、泥棒やってたなんてね」
プラムは苦々しい表情で呟く。
この国では転移者に一応最初は、お金が出たり、当面の身分が補償される。男はその事を知らなかったのだろうか。
つくづく自分は運が良いと思わされた。転移してすぐ杏奈先生や転移者保護をしているロブに出会えた。結果的にこに二人は犯罪に手を染めていたとはいえ、最初は身分を保証してくれたわけでは、その点は感謝する他ない。思えば自分の置かれた状況は、「ご都合主義」といえなくもない。
都合よく同僚である杏奈先生に異世界で出会えたとか、確率的に奇跡と言っていいだろう。仕事は見つかりにくいとはいえ、都合よく住む所が見つかったり。
この自分の幸運さを思うと、やっぱり誰かが意図的に話を動かしているような作為的なものも感じた。まさに「ご都合主義」な状況で、この世界がますます夢ではないかと思い始めてしまう。
そんな事を考えているうちにクラウスがアラン保安官を連れて帰ってきた。
「また殺人事件かよ」
アラン保安官は、相変わらずヤル気がなくため息をつきながら遺体を見ていた。あの男はもともと指名手配犯ではあるし、アラン保安官は全くショックを受けていないようだった。
「ところで君たちは、どうしてチェリーの家に行ったんだい?」
ヤル気がない割には、鋭い質問をされた。確かにこの時間にこの面子でチェリーの家にいるのは、限りなく不自然ではあった。
「まさか泥棒事件を調査しているんじゃないだろうな?」
今日にアラン保安官は妙に冴えていた。相変わらず保安官の制服は全く似合っていないが、はじめてこの男が警察組織の一員だと思わされる。
しかし、今までこの男があれほど無能だったのも不自然である。
今までは深く考えていなかったが、仮にも警察組織の一員が殺人事件の調査を素人に投げる事があって良いのだろうか?
その事も明らかにご都合主義という設定らしく感じてしまい、少し怖くなってきた。
「そうだよ。泥棒事件を調べてるんだ。この村では、警察が無能って言われているからね!」
クラウスは全く空気を読まず、アラン保安官を挑発するような事を言う。
「そうよ。殺人事件も結局アンナが解決しているじゃない。最近はマスミにもやらせるなんて」
プラムもちょっと小馬鹿にしたようぬ鼻で笑っていた。
確かにプラは有能なので、アラン保安官の仕事への態度は笑ってしまうのだろう。
プラムの気持ちはわかるが、アランは顔を真っ赤にして起こり始めた。
「アンナの名前を出すな! マスミはともかく、僕はあの女は大嫌いだったんだ」
アラン保安官は、よっぽど杏奈先生が嫌いだったらしい。
死体のそばで崩れおれて、いかにも杏奈先生に調査の邪魔をされていたのか、メソメソ語っていた。
あの男も自分の死と全く違う理由でこんな風に泣かれたら、あの世で戸惑っている事だろう。
「全くだから転移者なんて嫌いなんだよ」
「ちょっと、アラン保安官。主語が大きすぎません?」
私が突っ込むと、アラン保安官はさらにメソメソと泣き始めた。
やっぱり村中でアラン保安官が無能で有名な理由が腑に落ちてしまった。クラウスやプラムは呆れてため息までついているが、ちょっと可哀想になってしまうぐらいだった。特にクラウスは、白々しい顔を隠せていない。ここにきたばかりはビビってはいたが、だんだん冷静になってきたようだ。生い立ちを考えるとやっぱり肝は座っている。
「ところでアラン保安官、この手帳を調べてみてよ。この男は泥棒の犯人だった見たいよ」
あまりにも可哀想になり、私は手帳をアラン保安官に渡した。
「なんだって!」
アラン保安官は、ひったくるように手帳をを私に手から奪い、マジマジと見ていた。
「本当だ。こいつが犯人だったのか!」
その事実を知ってアラン保安官はだんだん元気になってきたようだ。
「しかし、こいつを殺した犯人はまだわかってないんだぜ?あと盗まれたものはどこにあるんだ?」
クラウスの指摘はもっともで、アラン保安官は怯み、再び暗い顔を見せてきた。
「あなた何やってたの?一応警察でしょ。怪しい男がいる事はわかっていたハズじゃない。こんな風になったのは、警察の怠慢ね」
プラムの指摘はもっともであるが、アラン保安官は怒りはじめた。
全く情緒も不安定らしい。
「うるさい!僕だって頑張って調査しているんだ。っていうか、マスミが犯人だろ」
急にアラン保安官に指をさされ、私は驚く事しかできない。
「えー? なんでですか」
「だって同じ転移者だし」
「それは薄い根拠だろ」
クラウスが突っ込むが、アラン保安官はこの意見を変えるつもりは無いようだった。
「どうせ変な儀式をして、あっちの世界の知的財産をこっちで売ろうとしてたんだろ。この男と共謀したが、取り分で揉めたんだ、そうだろ?」
「すごい、アラン保安官の推理の割には筋が通ってるわ」
「マスミ、感心している場合じゃないでしょ。疑われてるのよ。それにアラン保安官の推理だって、アンナの事件の焼き直しじゃない」
プラムはため息混じりでツッコミを入れるが、アラン保安官は無視を決め込んでいた。
「いいや、犯人はマスミだ!」
「そんなぁ。でも証拠はあるんですか?」
私は一番重要な事を聞く。
「それはないな…。でも、あんたが怪しい!」
「そんなめちゃくちゃですよ!」
いくら否定してみアラン保安官は、聞く耳を持たないようだった。
「だったら、またマスミが調査すればいいじゃない?」
「プラムの言う通りだよ。マスミがやればいい」
味方だと思っていたプラムやクラウスまでこんな事を言い始めた。
「そんなぁ…」
気が抜ける思いだが、アラン保安官は全く当てにならない。それどころか自分が犯人だと決めつけているなんて、一刻も早く潔白を証明したい。
「でもしょうがないわね。今回も調査するしかないみたい」
ため息混じりに呟く。
結局今回も殺人事件を調査する事になりそうだ。「この世界は夢?」という謎については、しばらく放置する事になりそうだった。




