13話 27回目の殺人事件です
何となく釈然としない気持ちを抱えたまま、チェリーの家まで歩く。
途中で再び「この世界は夢なの?」とプラムに質問してみたが、薄く笑って無視を決め込んでいた。
これでは話すつもりは無いらしい。
そんな事を考えている時、湖のそばまできた。湖のそばでは、クラウスがベンチに座ってフルーツサンドを齧っていた。
春の綺麗な湖のそばでフルーツサンドを食べているとは、何とも平和な光景で気が抜けてきた。
クラウスは、ソニアの事件以来結局このコージー村に住み着いてしまった。
一応親のコネで王都の大学に就職はしているようだが、毎日暇そうに遊んでいた。イケメン好きのリリーやアナでさえ、「あの子は、ニートなの?」とドン引きし、モテる事はないようだった。せっかくの綺麗な顔も台無しである。
「よお、マスミにプラム。何してるの?」
クラウスは欠伸をしながら、私達に近づいてきた。
本当に平和すぎる光景で、私も眠くなってきた。こんなクラウスを見ていると、スローライフ的な長閑さを実感し、事件の事やこの世界の謎も忘れそうになる。
「実は、ちょっと事件を調べているのよ」
プラムが詳細を説明すると、クラウスは興味を示しはじめた。
「マジ? 泥棒事件?」
「まあ、怪しい男は一人いるんだけどね」
私があの男について説明すると、クラウスも事件を調べたいとワガママを言いはじめた。
「クラウスも事件調査するの?」
悪くはないが、事件に興味を示すとは珍しい。ソニアの事件の時はそんな素振りはあまり見せていなかったのに。
「まあ、暇だから事件も調べてみたいんだよね」
クラウスはニコニコ笑って言う。そこには、深刻さなどはまるでない。暇だから事件を調査するものなのか?この土地の人間の価値観はやっぱりよくわからない。
「まあ、いいじゃない? マスミ。一応男手があっても」
「ちょ、プラム。一応って何さ。これでも僕は男だよ!」
胸を張っているが、今日のクラウスがどうも平和ボケな雰囲気で閉まらない。とはいえ、このまま湖の辺りでぼーっといるのも無駄であるし、森に入り三人で事件を調査する事になった。
森の中は静かだった。
いつもはホテルの建設のため、工事の音もするが、今日は休みらしい。
「そういえばブラッドリーは元気かな」
ホテル建設地を横目で見ながら、ブラッドリーを思い出した。
ブラッドリーはソニアの事件の関係者の一人だが、事件に巻き込まれてだいぶ反省しているという噂を聞いてはいたが。
「ブラッドリー? まあ、あれ以来、まじめに仕事している見たいよ。今のところ女遊びはしていないみたい」
クラウスからの情報を聞き、ホッとする。やっぱり事件の関係者が、ひどい末路になっているという話題は聞きたくはない。
「そういうクラウスがどうなの? 化学の仕事はしてる?」
プラムは、ツッコミを入れる。
村ではすっかりクラウスはニートという噂が流れ、彼の評判は地に落ちていた。ジェイクや牧師さんなどの男性陣はあまり気にしていないようではあるが。
「失礼な、明日学会があるから王都行ってくるよ」
クラウスは村でニート疑惑がかけられている事にプンスカ怒り、少し早歩きでチェリーの家に行く。
「ちょっと、待ってよ!」
「待って」
私とプラムも少し早歩きでクラウスの後を追い、チェリーの家につく。
相変わらずボロボロのチェリーの家ではあるが、立ち入り禁止のテープはしっかりとはられていた。
「立ち入り禁止じゃん。やめとこう、帰ろう」
クラウスは意外と常識的な事を言い、怖気付き始めた。
「ちょっとクラウス、せっかく来たのに何て事言うのよ」
プラムは立ち入り禁止のテープなど全く気にせず潜る。さすが元スパイであるので肝が据わっている。
「なんか、俺、嫌な予感がするんだよなぁ」
プルプルとちょっと震えている。湖のそばで見せていた呑気さはもうすっかりきえていた。
ちょうど頭上で鳥の鳴き声がする。
春の平和な昼間であるのに、急に自分も嫌な予感を感じ始める。でも、ここまで来て逃げるわけにはいかない。私も思い切って立ち入り禁止のテープを潜る。
「ほら、マスミでも入ったのよ。クラウスは男の子でしょう」
プラムにクスクスと笑われ、クラウスは顔が真っ赤になる。こうして見ると子供っぽいが、プライドに火はついたらしい。
「そうだよ、僕は男だよ!」
クラウスは率先して立ち入り禁止のテープを潜りチェリーの家の中に入り、私達もそれに続く。
チェリーの家の中は静かで、もう電気は通っていないのか薄暗い。チェリー本人はもうすっかり記憶を失い王都の親戚の所にいるが、この家のついては過去に事件の舞台になってしまったし、簡単に取り壊せない事情があるようだった。
一人でこの家に来るにはさすがに怖かったが、今日はみんなと一緒なので安心ではある。とはいえ、森の方から響く鳥の鳴き声や風の音などは不気味ではある。前きた時と変化がないかキョロキョロと見回すが、特に変化は無い様子だった。
玄関を抜け、一番大きな部屋に入る。
「ちょっ、マスミもプラムもあんまり見ない方がいいぜ!」
先頭を歩いていたクラウスは、立ち塞ぐように止まった。
まだ若く子供っぽいクラウスとはいえ、こんなふうに立ち塞がれるとよく見えない。
「何、何があったのよ?」
背が高く体格のいいプラムも立ち止まり、顔を顰めて顎を触っているが、標準的日本人体型で、この土地では小柄な方に入る私はよく見えず、ちょっと大袈裟に背伸びをして、部屋の中を除き込む。
思わず息をのんだ。そこには、死体があった。
「あぁ…」
驚いた事は事実だが、私にとってもう5回目の殺人事件である。慣れてはいない。死体を見るのは、嫌な気分であり、悲しい。
「またか…」
私もついにこの台詞を呟いてしまった。




