10話 世界は一つと言っても
討論会が始まった。
バイトの仕事は、公演後に会場の片付けだけなので、私も一番後ろの席で観覧しても良いと主催者に許可を貰う。
とお堅いテーマであるのに、討論会は意外と楽しい。
エスーペラント語の団体が先に発言し、コリンが反論するという形だったが、ほとんどコリンが論破していた。
もともとエスーペラント語は、「世界を一つ」というスローガンの元に作られたそうだが、実用性が乏しく廃れていったらしいが、エスーペラント語の団体を見ているとそれがよくわかる。インテリぶっていると言うか、明らかに客を見下す発言が多く、客席からはブーイングが上がっていた。
一方コリンは時には冗談を言って客を和ませ、チャーミングな人柄も伝わってくる。言語という難しいテーマも噛み砕き説明され、子供でもわかる内容だ。私も興味深くこの国で英語が根付いて行った経緯をコリンを通して勉強できた感じである。
「もう! 私は知らない!」
「待ってくれよ、イザベラ」
論破されたイザベラは癇癪を起こしてステージを退き、その後をニムロデが追う。この状況はドラマのようで客席は大いに盛り上がる。
最終的にコリンとリベアルの二人での討論会となったが、結局コリンに論破されて終わっていた。こうして思うと、やっぱりエスーペラント語が廃れるのがよくわかる。
「世界を一つ」なんて元々仲が悪い連中が熱望するような発想なのだろう。
「たとえ話す言語が違っても、私はみんなを祝福します」
最後にコリンも言っていたが、所詮話す言語などは表面的なものなのかも知れないと思い始めた。
前に牧師さんに会った時「住む世界が違う」などと可愛げない事も考えてしまったが、よく考えてみたら言語も体格も顔の作りも違う自分を最初に受け入れてくれたのはコージー村のみんなだった。やっぱり「違う」ということに私はこだわり過ぎたのかも知れない。そう思うと気分も晴れ、討論会が終わった後のバイトに仕事も元気よく終わらせる事ができた。
「マスミ、おつかれ!」
「コリン!」
帰る時、会場の前でコリンと会い?、一緒にコージー村に帰ることにした。もう夕方で疲れてはいたが、仕事が終わった解放感で二人とも笑顔だった。
しかし村で起きている泥棒事件の話題になると、コリンの表情も重くなる。
私は、とりあえず事件について知っている情報を全てコリンに伝え、意見を聞くことにした。
「どう思う? コリン」
「そうだなぁ」
コリンは、眉根を寄せて考え込んでいた。やっぱり学者だけあって考える姿は様になっている。
「エスーペラント語に詳しい人物が糸を引いている可能性は高いね。普通の人は、地図もあんなふうに改竄できないよ」
「だったらあのエスーペラント語の団体の誰かが犯人?」
正直、あの三人の印象はよくない。泥棒を働いていたとしてみ不自然ではない。
「いや、あの三人は一応この国で名の知れた大学の関係者だよ。泥棒なんて目立つ事はできんだろ」
「コリンはあの三人知ってるの?」
「ああ。直接会ったのは始めてだけど、彼らが学んでいる教授は私も親しいよ。まさか泥棒なんて…」
コリンが嘘を言っているようの見えない。この国は意外と大学の権威が強いらしく、犯罪者など出た事ないともはなす。日本では教師も性犯罪に手を染めるニュースは珍しくない。元いた世界の職場ではなかった事だが、そんなニュースを聞くたびに同業者として恥ずかしい思いだ。
「やっぱりその指名手配犯が怪しいよ」
「そうね」
やっぱりあの男が犯人なのだろう。あの男似逃げられてしまった事は、とても後悔した。次会った時は、必ず捕まえよう。そんな決意を胸に固めた




