9話 怪しい奴らです
数日間、事件は何もすずまなかった。当然、「この世界は夢なのか?」
という謎も解けていないわけだが、この謎については解けない方が良い気分もあった。
そんな中、言語学者のコリンと約束しているバイトの詳細が決まり、ハードボイルド村にある講堂に行くことになった。
主催者と朝早くから会場を設置する。主催者は、この国の語学大学の研究員のようで、ジャパニーズイングリッシュを珍しがり、意外とすぐに打ち解けた。
講堂に椅子を並べたり、控え室に食べ物やお茶を用意したり、客からチケットをもいだりしてあっという間に時間が過ぎる。お堅い内容の言語学の講演会なのに、意外と客は大人から子供まで満遍なくいた。娯楽の少ないこの国では、こういった堅いテーマの講演会も意外と人が集まるらしい。
「コリン、こんにちは!」
時間がようやく開いたら、控え室に行き、今日の公演の出演者であるコリンに挨拶しにいく。
いつもより仕立てのよいスーツを着て、弁当を食べていた。弁当といってお日本のような豪華なものではなく、くだものの盛り合わせと田舎パンとハムのセットである。コリンは緊張しているのか、あまり手をつけていなかった。私が紙コップにブラックティーを注いで渡す。出演者に飲み物を給仕するのも一応仕事の一つだった。
「お客さんいっぱいよ。楽しみだわ」
「おいおい、そんなプレッシャーかけないでくれよ。討論会形式はや慣れないね」
講演会といっても内容は、討論会形式だった。
テーマは「本当に英語は必要?」
というテーマで、古く使われていたエスーペラント語の学者達と英語を主に研究しているコリンと討論するようだ。
テーマ自体は硬くはあるが、こうして二つに分かれて討論会となると単純に面白そうである。
バイトでなかったら、きっと普通に客として楽しんでいただろう。
「マスミは、バイトはどうだい?」
「ええ。楽しんでやってるわ。こんないい仕事を紹介してくれてありがとう!」
「そうかい。マスミは素直だなぁ」
こんな事を話していると、コリンも緊張も解れていっているようである。この分だと大丈夫そうだと安心し、今度はエスーペラント語の学者の方の控え室の行く。
なんともアンフェアな話だが、そちらの団体は三人も学者がいるようだった。
コリンの方は一人で討論しなければならないので、ちょっと可哀想だが、主催者のよるとコリンの方がなの知れた有名な言語学者であるからこういった配慮になったようだ。
「エスーペラント語の皆様、こんにちは! スタッフのものですが、お弁当などのお食事で困った事はありませんか?」
私は出来るだけ感じよく、にこやかに言ったが、エスーペラント語の団体の方は白けた雰囲気だった。
一人は若い女性だ。名前はイザベラという女性で長い爪を研ぎながら、私を睨みつけている。美人だが、睨む顔はとても美しく見えない。
イザベラのそばで小太りの男がオロオロしていた。この男はニムロデというが、イザベラには逆らえないようで、終始ヘコへコしていた。
「スタッフの人? なんでこんなに弁当不味いの?」
そう言ったのは、リベアルという男だ。この中では眼鏡をかけて一番学者っぽい雰囲気である。しかし、それゆえに高圧的な雰囲気が増し増しになっている。見るからの偉そうな男で、きっと家の中ではモラハラしていそうだ。
「すみません。腐ったものとかはないですか?」
バイトとはいえ仕事中である。一応下手に出て、彼らの文句を聞いた。三人とも弁当が不味いとブー垂れていた。
確かに日本の弁当に比べてみると、質素すぎるわけだが、私に言われても仕方ない。
「まあ、イザベラ。こんな貧乏臭いスタッフに文句言っても仕方ないよ」
ニムロデは無神経なタイプらしい。イザベラやリベアルも大笑いし、私は居た堪れなくなる。
「そういえば、隣のコージー村でエスーペラント語の宝地図が見つかったんですが、何か知りませんかね?」
この人達が事件について何か知っているとは思えないが、一応聞いてみた。
「そんな事知ってるわけないじゃない」
イザベラは本当私を馬鹿にしたように言う。
「俺も知らんよ」
「私も知りませんね」
ニムロデやリベアルも続く。キッパリと知らないと否定されると自分が間違っているかも知れないと思い恥ずかしい。
再び恥ずかしくて居た堪れなくなり、私はこの控え室を後にした。




