手紙
昼以降はスチュアートに話しかけられはしたものの移動教室もなく3人で固まって話していたりしたため、無理に入ると外聞が悪くなると判断したのか早々に引き上げてくれた。
放課後、逃げるように教室を出てアンリと合流して寮へ帰りディオル宛に手紙をしたためた。
これまでのスチュアートの行動と来月のパーティでパートナーにと思われているのではないかということ、ただ何も言われていない状態なので思い過ごしの可能性もあることも併せて書いておいた。
それを踏まえてディオルにエスコートをお願いしたいという希望を入れて封をした。
「このような曖昧な内容でお兄様は動いてくださるでしょうか?」
改めて文章にしてみると確かに曖昧な部分が目立つ。エスコートしようとしてきた事も書いたが決定打に欠ける。思い込みだと言われてしまっても返すことが出来ない。
「全く問題ありませんよ。理由なく助けてと書いただけでもあの方なら来てくださると思います。」
ティナーヴの不安そうな言葉とは打って変わってアンリは自信たっぷりに言った。
「お手紙は私がお預かりいたしまして本日中に侯爵邸へ届くよう手配しておきます。ティナ様はゆっくりとお過ごしください。それに新入生歓迎パーティが終わったらすぐ夏季休暇前試験がありますしね。」
と言いながら部屋を出て行った。きっとお茶の準備をしに行ってくれたのだろう。
確かに返事が来るまで不安だがさすがに男子禁制の女子寮には来られないので気を取り直して、お茶をいただいたり復習をしたり本を読んだりして過ごした。
夕食をいただいて就寝準備をし、くつろいでいるとノックされ「どうぞ」の声にアンリはハーブティーを持って入ってきた。
「ティナ様、これから侯爵邸に行ってまいります。少し早いですがご挨拶に参りました。」
「アンリが直接行ってくれるのね。ありがとう。お願いします。」
「かしこまりました。おやすみなさいませ。」
アンリを見送り、ティナは少し不安に思いながらもハーブティーを飲み、心を落ち着かせた。
アンリは侯爵邸に着くと使用人出入口から入り、まっすぐディオルの執務室へ行った。
「アンリじゃないか!元気にしているかい?」
相変わらず能天気な口調のディオルにイラっとしながら
「人払いを。」
と言った。
すぐにみな席を外しディオルと2人になった。
アンリはソファーにドカッと座り髪をかき上げた。大股を広げだらりと座る姿は完璧侍女のアンリとは程遠い態度である。
「アンリ!なんて格好だ。はしたないぞ。」
ディオルがニヤニヤしながら窘めると
「俺は今アンディだ!」
と睨みつけた。
「隠れて鍛錬はしているけど、体がなまってしようがない。」
「まあまあ、知ってるよ。良くティナに仕えてくれているね。やはりアンディに頼んで良かった。」
「確かに最初頼まれたときは頭がおかしいんじゃないかと思ったけど、今は良くわかる。近くで守れるのは安心する。」
「ところで、どうしたんだい?ただアンディに戻って休憩したいだけではないだろう。」
アンディはディオルにティナーヴからの手紙を渡した。封を切り手紙を読んでいくうちにわなわなと震えだした。
「あんのバカ王太子殿下!やっぱり手を出してきやがったか!!わかった!ティナ、お兄様に任せなさい。」
胸を張りこぶしでどんと胸をたたく仕草をしながら言った。手紙は丁寧に折りたたんで封筒にしまわれ“ティナーヴからもらったものコレクション”に入れられた。
まあ、こうなるだろうな。と結果はわかっていたが安心してアンディはアンリに戻り女子寮へ帰って行った。