侍女の失態
ティナーヴが廊下に出たところで
「ティナーヴ嬢。」
とスチュアートが声をかけてきた。
「ごきげんよう。スチュアート殿下。」
ティナーヴが応えると
「学院では“さん”付けだよ。出来たら呼び捨てでお願いしたいな。」
とウインクしながら訂正してきた。
廊下に出ていたため他のクラスの女子も沢山出てきていて、スチュアートのウインクを目撃し方々から悲鳴に近い声が上がった。
ティナーヴはウインクにも悲鳴にもびっくりして固まってしまっていたため、ふいに伸びてきたスチュアートの手に気づかなかった。
あと少しで触れようとしたところで、ティナーヴは後ろに引っ張られて後ろにいる人物にポスンともたれかかってしまった。
またまたびっくりしたティナーヴは振り向いて更に見上げるとアンリがスチュアートを睨むようにして立っていた。
「女性に勝手に触れようとするなど失礼ではないでしょうか?」
口調は丁寧だがとげとげしい感じは隠せていない。
スチュアートはハッとした。どうやら無意識だったらしく
「大変失礼した。ティナーヴ嬢許して欲しい。」
と頭を下げた。
「スチュアートさん。頭を上げてください。気にしていませんわ。あの・・・きゃっ」
続きを話そうとしたティナーヴをアンリがグイっと引っ張ってその場から立ち去ろうとしていた。
ティナーヴは引っ張られながらも
「ごきげんよう。スチュアートさん。また明日からよろしくお願いしますね~。」
と伝えたが、最後の方は果たして聞こえたかどうか。
そういえば、スチュアートは何の話しをしたかったのだろうか?明日にでも聞けばいいかと、引っ張られながらのんきに考えていた。
アンリに引っ張られながら結構歩き、やっと話してもらえたのは人気のない東屋だった。
色とりどりの花に囲まれた東屋。ティナーヴの好きそうな落ち着いた場所を探し出していたのはさすがである。そこにティナーヴをそっと座らせアンリは跪いた。
「ティナ様。先ほどはあのような態度をとってしまい、大変申し訳ございませんでした。罰はいかようにもお受けいたします。」
うずくまるように震える声で言うアンリは、先ほどの態度と正反対だった。
「今日のアンリは謝ってばっかりですね。」
ティナーヴは可笑しくなってクスクスと笑いながら言った。
怒っているお琴って思っていたアンリは顔を上げて目を丸くした。心から驚いている。
「・・・お怒りではないのですか?」
「なぜ?」
「王太子殿下相手に身分をわきまえず先ほどのような態度をとってしまいました。使用人の失態は主人の責任であるのは周知の事実です。にもかかわらず・・・申し訳ございません。」
「アンリは意味もなく相手にひどい態度をとるような人間ではないと信じているわ。だから、理由を教えてもらえるかしら?」
ティナーヴはじっとアンリを見つめて問うてみた。
跪いたまま考えこんだアンリはやがて決意したように話し始めた。
中途半端な終わり方になってしまいました。