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1話 はじまり

「おいおいおい、ちょっと待て?おい、今お前さんなんて言った?正気かよ?」


「あなたのことが、大好き。正気も正気、ちゃんと本気ですよ」


 絶句して私の顔を見ている、山賊レクイン。

 彼に辿り着くまでかなり大変だったけど、会えたことでそんなもの全部吹き飛んだ。

「レクインのことが好き」、それだけで私は今まで行動してきた。こんなに早く出会えるとは思ってなかった!ほとんど情報なしだったから、20になる前に会えたら上出来ぐらいのつもりだったのに。


 山奥を拠点とするレクイン山賊団。そこに15の少女が一人。

 傍から見れば少女が紛れ込んでしまったように見えると思う。実際にはその少女が自ら押しかけてきて告白しているのだけど。


 レクインは私がプレイしていたゲーム「インフユア」の、チュートリアルでしか登場しない敵側の山賊だった。そして、私の最推しだった。

 当然、画面越しよりも目の前にいる方が嬉しくてたまらない。好きで好きで、心臓がバクバク言ってる。嬉しい。どうしよう、どうしよう!


「インフユア」は、豪華な声優陣ってことでも有名だったけど、チュートリアルにしか登場しないレクインには声が当てられていなかった。

 初めて聞いたレクインの声は、低音がお腹まで響くようなかっこいい声。いくらでも聞ける。



「お、お、お、おかしらがモテてる!」


「お頭ぁ、好意持ってもらえたの初じゃないっすか?」


 周りの山賊たちの方が先に調子を取り戻したのか、ヒューヒューと口笛を吹き始めた。ポカーンとした顔で私を見ていたレクインは、声を立てて再びゲラゲラと笑いだした。



「こんな可愛いお嬢さんにモテるなんて明日にゃぁ槍でも降るかもしんねぇな!野郎ども、今夜は宴にすんぞー!」



 と言い放った。…と、言い、放った…?しかもこっち見てニヤリと笑って?

 私の幻聴?空耳?推しに会えたショックで耳がおかしくなった?聞き間違いでないなら、今…可愛いって…?


「お、お頭ぁ!女の子が顔真っ赤にしてぶっ倒れちまった!」


「はァ!!??俺変なこと何も言ってねぇよな!!??」


「お頭ァ、このお嬢さん押しは強えが可愛いとか言われ慣れてねぇんじゃねぇのか…?」


「そんな一言でか!!」


 ーーー


「起きたかよ?」


 超低音ボイス。あまりにもかっこいい。かっこよすぎて、このまま永眠してしまいそう。

 1分ほど前に推しからの可愛いに気絶した私は、ようやく目が覚めたところだった。

 目の前であぐらをかいているレクインは、こちらを見るとにやっと笑った。それ反則!好き!大好きです!


「山賊の拠点のど真ん中で気絶するなんざ、いい度胸してんなァ。面白ぇもん見してもらったよ。なァ、可愛いお嬢さん?」


「ひゃっ、ひゃい…」


 二度目の可愛いにもはや私の心はキャパオーバー。

 真っ赤になっているであろう顔を手でパタパタと冷やす。鼻血が出そう。

 そんな私をにやにやと見てるレクインのかっこよさと言ったら!次気絶したらそのまま起きれなさそうだ。この思い出だけで白ご飯のみで一生生きていける。



「宴の主役がいないんじゃァつまらねえ。一緒に来いよ」


「は、はい!もちろんです!大好きです!」


「物好きなやつもいるもんだよなァ…面白ぇな、お前さん!!」



 ツボに入ったのか、ぎゃはははと笑い続ける。可愛さも合わせ持ってるなんて最高ですか。くらっときて、倒れそうになる体を叱咤する。

 一緒に来いって推しから言われたのなら!這ってでも向かわなくては!




「こっちも食べるか?」


「はい!ありがとうございます!」


「お嬢さんー、ほらこれやるよ」


「ありがとうございます!嬉しいです!」


「随分と人気だなァ…チョコいるか?」


「あああありがとうございます…家宝にします…!大好きです…!」


 あっという間に山賊たちと打ち解けた私の周りには、チョコや果実などの甘いものがたくさん。

 生まれた場所が過酷だったから甘いものはなかなか久しぶり。レクインから貰ったチョコレートは神々しくて食べれない。


 神様は手を回しておくって言っていたけど、かなり過酷な場所に生まれたから恨んでいる。日本を基準にするとどこで生まれても、いい場所なんてあまりない気がするけど。

 けど、山賊レクインの拠点の、近くの街で生まれたことにはすごく感謝してます。ありがとう神様。

 今日が命日でも私は満足です。



「それただのチョコだぞ?」


「あなたから貰えたチョコは、神々しく輝いて見えるんです。どんな最高級チョコよりも勝ります」


「うまいやつだから食べてほしいんだが」


「頂きます」


 即答した私を見て、またレクインがげらげらと笑った。周りの山賊たちは若干引いている。

 口に入れたチョコは今まで食べたどのチョコよりも美味しかった。推しが見ている前で、貰ったものを食べられるなんてこんな贅沢があっていいのか、どうかお願いだから夢なら覚めないでください!



「気に入った!あァ、そういや名前聞いてなかったか」


「リコリス・ラジアータです!」


「ラジーでいいか?俺はレクイン、この山賊団の頭でなァ」



 うひゃあ推しからのあだ名呼び!?あだ名呼び!?あだ名!!

 いっそラジーに改名しようかな。大好きです。

 にやっと笑ったその顔が素敵。声もかっこいい。本当に好き、好き、大好き!



「ラジー、俺の山賊団に入らねえか?」


「よろこんで!」


「即答かよ!」


 げらげらと笑って、レクインは手に持っているビールを一気飲みした。灰色の目が細められて私の方を見ているのがかっこよすぎて、本当に、本当にあなたのことが大好き!

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