こんな感じで生きて行く
山口穂香はファミレスでバイトをしている。
メガネをかけたスーツ姿の40代くらいの男性。机の上には綺麗に左からスマホ、腕時計、財布が置かれていた。きっと。トーストのバターを四隅まできっちり塗るタイプの人だろう。
注文する時から貧乏ゆすりが気になっていた。机に置いた腕時計を何回もチラチラみていたので時間に追われているのだろうなと思った。
なるべく早く提供したいが12時のオフィス街のファミレスはかなりの混雑具合である。あと三組程で席が埋まる。
食事を提供する際、いつも以上に早足、早口で、あなたのために急いで運んで来ました!風を装ったが
あっ、顔がだんだん歪んできている。これはくる。
「ちょっと、何分かかってると思うの?20分だよね?
ファミレスなのに時間かかりすぎじゃない?俺の時間は貴重なんだよ。食べる時間ないから。これいらないから下げて。」
「大変申し訳ありません。」
「このまま帰らせてもらうから。」
「大変申し訳ありませんでした。」
眉を寄せて本当に申し訳ない顔をしながら言うのが重要。男性はすぐ席を立ち店を出た。
店の窓を見るとさっきの男性は髪の長いミニスカートの若い女性の方に向かって走って行き、とてつもなくいやらしい目で見ていた。気持ち悪いと思った。こんな人のために私のメンタル削られるなんて、ダメージ20くらった。
店の奥の方にいる店長と目があった。クレームされてる時に出てこない店長なんてなんのために存在してるか分からないなと、思っていることを感じ取られないように
和やかな顔で机を片付けていた。
「急いでるなら食べにこなきゃいいのにね!んもっ!」
先輩の佐々木さんが流れるように喋りかけてきて、流れるように他のお客さんのオーダーを取りに行った。おばさん特有のんもっ!に毎回笑いそうになるのは秘密だ。
キッチンに行って水を飲んだら。いつもより不味く感じた。見てたけど店長にクレーム報告するかと思ったら後ろにいて
「あのお客さん、お金払わずに帰ったよね?」
「そうですね……時間がないみたいで、帰って行きました。」
「チッ…」
「あはははは…」
店長はそのまま喫煙所に行きタバコをふかしていた。こっちがクレーム直接言われたのにタバコなんてふかしちゃって。私の方が吸いたい。タバコ吸わないけど。吸ってやりたい気分なのに。
ていうか舌打ちしたよね?私?お客さん?どっちに対しての舌打ちなの?あー!!!やってられない!!!!ダメージ25くらった。
みんなはクレームを左から右に受け流すらしい。私は全部スポンジみたいに吸収してしまう。勉強とか習い事とかにそれ使えたらよかったのにな。
それから一日中、頭の中で何回もフラッシュバックする。その度にダメージの余韻がダメージに変わり徐々に減って行き、hp残り40%になった。時間の進み具合は変わらないのに早く帰りたくて、時計を何度も見てしまう。20時まであと30分。
「お先失礼します。」
30分が1時間に感じた。今日も自分本当にお疲れ様だ。帰ったらちょっと悪いことしようかな。ポテトチップスとコーラをガバガバ飲んでそのあとシュークリームも食べてやる。
リビングのソファにドスンと座りながら一心不乱にポテトチップスを貪り食う。この姿は誰にも見せれない。ほっぺについたクリームのことなんか気にせず大きい口を開けて食べ続ける。幸せだ。HP14回復した。
いつの間にか床で眠ってしまった。床で寝たせいで腰が痛いがhp10回復。残りのhpは64%だ。
ゼロにならないよう、自分のHPは自分で上げて行くしかない。今日も一日頑張ろう。