表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

   プロローグ フラム

 太古

 神は三つの神器を授けた。


 その中で、

 最も扱いが難しく、

 類なき祝福を備えた、

 破壊の天秤

 その力に愛され、

 ともに生き、

 生涯を終えようとする命があった。


 だが彼女は愛されすぎた。


 天秤の力が暴走する。


 閉じた瞼から天秤の祝福が漏れ光る。


 光はベッドに横たわったままの彼女の体を包み込んでゆき、

 ブゥン

 と光がブレると、

 分裂した光が、

 彼女の横に、

 もうひとりの彼女を作り出していた。


 光が収束していくと、

 全く同じ二人が同じベッドに寝ている。


 ただひとつ違うのは、

 本体であろう彼女は眠り続け、

 分身であろう彼女は、目を覚ました事。


 重そうに瞼を押し広げ、ぼーっとしたまま、ぱちり、ぱちりと瞼を閉じては開ける。

 そうしてやっと、自分の横に誰かが寝ている事に気付く。


 誰だろう。

 見た事があるような、気が、する?


 そうして反対側に、人が座ってこちらを見ている事に気付く。

 声を出そうとしたが、声が出ない。

 ここはどこですか。そう聞こうとしたが、声を発しようとすると空気が漏れたように声にならない。


 「お嬢様が!」


 キイイィーン

 そこに居た人が大声を上げたせいで、耳に高音が鳴り響き、違和感に眉をひそめた。

 ただもうそれだけで、何だか疲れてしまって、私はまた、目を閉じた。


 次に目を覚ました時、

 私はベッドに一人で寝ており、側には、

 白衣を着た医療官、医療補佐官、

 恐ろしく美形の貴族が三人、

 そして部屋の出入り口付近に大勢の人の気配がする。


 医療官から健康診断のようなものを受け、質問攻めに合い、、私は診断結果を聞かされた。


 天秤という魔力によって作られた分身体、らしい。

 故に複雑な感情を伴う為、人物に対する記憶はほとんど無く、単純な生活記憶、行動記憶はあるので、生活する上での支障はないだろう、と。


 「クリスティン、、。」

 私の手を握りしめて泣き崩れる男性は、たぶん、私の父上か。

 その横で、流れる涙を流すままに私を見つめて頭を撫でる男性。

 そして、穏やかな笑顔で見つめる男性の目にも、涙が溢れている。


 彼等は、

 父上のリチャード・キャトラル公爵。

 兄のルーカス・キャトラル公爵子息。

 いとこの王子、ジャスティン・キャトラル第一王太子。

 そして私は、

 クリスティン・キャトラル公爵令嬢。


 なるほど。

 ようやく事態が掴めてきましたわ。


 私は、私の侍女兼騎士だというサマンサ・ブルーム伯爵令嬢に頼み、

 私が寝ている間に発刊された新聞を全て取り寄せ、

 何故私がこの様な状況に陥っているのかを探りました。


 泣いている殿方に、私がこうなった原因を尋ねるのもどうかと思い、自分で調べる事にしたのです。


 そうして新聞を運ぶサムと一緒に現れた、司祭だというセバスティアン・ラルー卿は、私に足らない情報を補足してくださいました。


 集めた情報の全貌はこうなりました。


 ベリーランドの最古のダンジョン「スライムの谷」がダンジョンブレイクを起こしました。


 ダンジョン深部は冷却と過熱を繰り返しており、そのバランスが何らかの原因によって崩れ、爆発を起こし、ダンジョンが活火山化し、ファミリアも暴走し凶暴化。


 それを破壊の天秤で正常化させる為、私と、サム、兄ルーカスと、バルバハートの王子ユリシウス・ハート第一王太子の四人でスライムの谷に向かったのです。


 暴走したファミリアは美味しくないと言ったのはどなたでしたでしょうか。


 ダンジョンから溢れ出したファミリアを倒しながらスライムの谷に破壊の天秤を落としました。

 活火山を真っ二つに切り裂いた青白く光る巨大な剣がズブズブと突き刺さりながら周りの物を飲み込み、背徳の鐘の音が全てを世界に還元してゆく。


 その時、私達は見落としていた。

 ダンジョンブレイクには原因があると。


 スライムの谷の最下層ボスが凶暴化し、襲ってきたのだ。


 破壊の天秤を発動し身動きの取れない私に向かって突進してくる、巨大化したブラックスライム。

 通常であれば肉マンほどの大きさのスライムが、人の大きさほどに膨張し、木々や地面を飲み込み溶かしながら、真っ直ぐ私に向かってくる。


 兄ルーカスが冷気魔法で固めようとするが、冷気魔法を飲み込んでしまう。

 サムが私の前に立ち塞がり、司祭セバスから預かった暴破の剣から竜巻を繰り出したが、竜巻をずるりと飲み込み、ぺっ、と竜巻を吐き出すと、吐き出された竜巻にサムが吹き飛ばされてしまった。


 私の目前、ブラックスライムが向きを変えた。


 私の前に立ちはだかったユーリが、ブラックスライムを全身で受け止めて、投げ飛ばした。

 ユーリの体が、目の前で、溶けてゆく。


 「いやああああああああっ!!」

 私は無心で、ユーリに祝福のヒールを、

 ブラックスライムに破壊の天秤を発動させた。


 火山を飲み込む背徳の鐘、

 ブラックスライムを切り裂く破壊の剣、

 ユーリを包み込む祝福の天秤の魔力。


 ブラックスライムが背徳の鐘に飲み込まれてゆく中、ぷっ、と吐き出された小さなブラックスライム。

 ササササ

 岩の隙間に入って行ってしまった。


 ユーリは、体を修復されてゆくが、修復されると同時に金色に輝き、その姿が薄くなってゆく。

 それは、祝福の鐘の音でもあり、背徳の鐘でもあるようだった。


 祝福の鐘の音は、異世界転生する。

 背徳の鐘の音は、この世界に還元する。


 「ユーリ! ユーリ!」

 「クリスティンが無事で良かった」

 その声はもうクリスティンには届かない。

 クリスティンの腕の中で、ふわり、と金色の光が霧散した。


 「いや、、ああ、、あ」

 力尽きて、私は暗闇に瞼を閉じた。


 三年後、私は目覚めました。

 祝福の魔力の力を借りて。

 そうしてある確信を持ち、決意しました。

 「私、冒険者になります。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ