表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
I'm?(私は?)  作者: オトノツバサ
3/11

進路説明会

 その日、有吾は久しぶりに母親に会っていた。

 場所は学校の進路説明室。

 先生はあきれた顔のまま言った。


「世間はそんなに甘くないぞ」


 しばらく沈黙した後、有吾が声を上げる。


「でも、やりたいんです!」

「大学を出てからでも遅くはないだろ?」


 それに反応して母親も声を上げる。


「そうよ、先生の言う通りよ」


 まるで、二人寄って、自分の道を型にはめているような気がした。


「でも、高卒でやってる人もいる」

「そんな人間は一割だ」


 なぜ、一割だからダメなんだ!


 一割の可能性を、なぜあなた達は信じない!

 好きな道を進もうとすることは、そんなにも悪い事なのか?

 あんた達と、俺とは違うんだ。あんた達は、勝手に安全な道に進めばいい。

 俺は、一割でも、可能性を信じて道を進むんだ。


 有吾はそう思っていたが、口には出せずにいた。


「狩田は成績だって悪くない。今からだって頑張れば、良い大学も行けるんだぞ」

「そんな夢は持ったことも、やりたいと思ったことも無いです」

「先生はな、夢の話をしてるんじゃない! 現実の話をしてるんだ!」

「悪いな、夢の話をしてよ!」


 そう言った後、有吾は終わるまで一言も口を利かなかった。

 そのまま親と先生が、勝手に大学へ行くような流れに進め、線路説明会が終わった。


 親と別れ、不機嫌なまま自分の部屋に戻ると、いつものメンバーの、大樹と、響也と、三夏が部屋の前で待っていた。


「よっ!」

「なんだか不機嫌だな」

「………まーな」


 そう答えて、鍵を開け、乱暴に靴を脱ぎすて、カバンを下ろす。

 六畳一間のワンルームマンションは、整頓されているものの、四人も入るといっぱいになる。

 しかし、各自、自分のいつもの場所が決まっているのか、その場所に腰を下ろす。

 そこで三夏が、解っているように声を掛けた。


「どうだった? ちゃんと小説家になりたいって言えた?」

「言ったけど、こっちの意見は全く聞いてくれなかったよ」

「あの先生って、そう言うところあるよね」

「大学に行け、夢の話はするなってさ。夢を持っちゃ悪いのかよ!」

「それはひどいよね。みんなはどうだった?」


 大樹は少し照れながら言った。


「俺は、有吾みたいに頭が良くないから、就職を勧められたけど、しばらくは定職にはつかずに、バイトでもしながら、やりたいこと目指そうかなっと」

「やりたい事って?」

「実は、レーサーに興味があってな。知り合いのバイク屋のおっちゃんに、何度かサーキットに連れてってもらって走ってたら、今度50㏄のレースに出てみないかと誘われて………」


 三人とも驚いて大樹を見る。

 今までそんな話を、聞いたことが無かったからだ。


「それって、すごいよね」

「大樹、お前、俺より進んでんじゃんか!」

「そんなことは無い。有吾は昔から小説書いてたけど、俺は最近だぞ。こんなの、周りの連中からすれば、今から始めて遅いって思われるよ。けど、今からだって、自分がどこまで行けるか試して見たくてな」

「はぁー、大ちゃんはすごいね。響ちゃんは?」


 三夏がそう響也に話をふると、彼は少しだけ悩んだ表情をするが、直ぐに普段の顔に戻り一言だけ答えた。


「まだ、わからん」


 その台詞に彼女は共感するように頷いた。


「そうよね、それが普通よね。私も、狩ちゃんや大ちゃんみたいに夢がある訳じゃないし、悩んじゃうよね」

「まぁ、就職はしようと思って、色々と考えては居るんだけどよ」

「いいよね、下手な夢があるより、死ぬまで夢を探していくみたいに、私達の方がかっこいいよね?」


 その言葉に二人はかみつく。


「おいおい、俺たちの夢って、下手な夢なのかよ!」

「自分達を美化しすぎだろ!」


 そう言って、四人で笑った。


「で、三夏は、結局どうするんだ?」


 有吾の声で三夏は固まる。


「えっ? 私?」

「進学するんだろ? 大学、行きたいところあるのか?」


 三夏は焦るように、何かを隠すように早口で答えた。


「行きたいところ………。そうね、行きたいところって言われれば、海に行きたいね。今年の夏は忙しそうだけど、時間作って、みんなでまた行かない?」

「ごまかさないで、言えよ」

「ごまかして無いって」

「だったら、進路説明会で何て言ったんだよ」

「説明会。わっ、解った言うよ」


 三人は三夏を見る。

 彼女はしばらく照れていたが、何度か瞬きをしてから、少しだけ遠い目をして答えた。


「ずっと、ずっと、この四人で居れたら、最高なのになって」


「へっ? 進路説明会の話だよな?」

「どこで話が変わった?」

「本当に、それ、進路説明会で言ったのか?」


 三人は頭をひねり、三夏は噴出し笑った。


「そんなわけないでしょ。冗談よ、冗談」

「そうだよな。そんなわけないよな」

「焦った、何の事だと思ったよ」


 そう笑いながら納得する大樹と響也に、有吾は真剣なまま答えた。


「いや解んねーぞ。三夏はたまに、そういう事を言うところが有るからな」

「そう言われれば」

「たしかに有るな」

「あー、三人ともひどい!! 私の事、どういうふうに思ってるのよ!」


 そう言ってまた、四人で笑った。

 みんな笑いながら、そうだなって納得していた。

 そうなんだ。

 三夏の言っていることは正しい。

 ずっと、このまま、この四人で笑っていたかったんだ。


 大人にならず、ガキのままで居たかったんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ