違う光
12月
「ふー」
パソコンのキーボードから手を離すと、モニターを見たまま細い息を吐く。
「出来たの?」
「あぁ、あと少しだ」
コーヒーカップを持ってくる女性に対して、男性はそう言った。
女性はそのまま、男性の座っている椅子の半分に、無理矢理腰を滑り込ませてくる。
男性は素直に、椅子を半分ゆずった。
しばらく女性は出来上がった場所を読んで尋ねる。
「ねっ、結局この車を運転をしてた人は捕まったの?」
「あぁ、その場でな。飲酒運転だった」
女性は顔を曇らせる。
「で、この彼女の子は、結局どうしたの?」
「あいつの部屋で、ずーっと待ってた」
男性は何かを思い出すように、睨むように顔を歪ませる。
女性はその表情を見て、失言したことに気付いた。
「………そう」
「だから、これは誰かが残してやらないと」
そこで、電話の着信音が鳴り、女性は邪魔しない様に席を離れた。
男性はモニターに目を向けたまま、携帯電話を持ち上げる。
そこからは懐かしい声が聞こえてきた。
「よう大樹」
「響也か、久しぶり。どうしてた?」
「最近か? ま、テキトーに生きてるよ」
「相変わらずだな」
「そうでも無いぞ。テキトーでも、すごく頑張ったテキトーだからな」
「よく解んねーよ」
そこで、少し会話が途切れる。
「今年、響也は帰るのか?」
「あぁ、あれから10年だしな。仕事も休みが取れたから」
「そうか、俺も帰るよ」
「あぁ………」
そして、男性は覚悟を決めた様に言った。
「三夏ちゃん、今度、結婚すんだってさ」
しばらくして、響也からカラ元気なような返事が来た。
「そうか、良いんじゃねーか」
「あぁ、これでよかったと思う。彼女も長いトンネルから、ようやく出れたんだ」
「何だよそれ、あいつの受け売りか?」
「失礼な。オリジナルだよ」
そう笑ってから、帰ったら会う約束をして、再びモニターに目を戻した。
そして、ゆっくりと最後の文字を入れていく。
あいつの書けなかった、最後の文字を。
暗いトンネルを抜けると、そこには見慣れた風景があった。
そこには、自分の求めている、目も開けられないほどの光は無かったけど、小さいが暖かい光は有った。
あの時に、俺たちの求めている眩しい光は、ひょっとしてトンネルの中には無かったのか知れない。
けど、生きていれば、いつか光は見つかるだろう。
それは、全く違う光かも知れないけど、よく似た暖かさは必ずあるだろう。
俺たちは、確かに光を見つけたよ。
小さいけど、暖かい光を。
t,
高校時代ってすっごく好きで、卒業したくなかったことをよく覚えています。
仲の良い友達と離れるのもつらいし、部活もずっとつづけたかった。
いまから、学生時代に戻りたいとも思いませんが、当時をもう一度体験したいかも。
でも、高校時代なんて悩んでも良いもんでしたな。
面白かった。
さて、こんなことをしているから、東京下町祓い屋奇譚が進まないと思われがちなので、そっちも書いていきます。
進んでいるよ。
遅いけど。
だから、息抜きに載せた、むかしに書いた、載せるつもりのなかった日の当たらない物語でした。
では、頑張って、東京下町祓い屋奇譚を書くぞ。
今年は、ほとんど載せられず、すいませんでした。
では、また。