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5.勇者と魔王、村の仕事を手伝う

「おーい、次を頼む!」


「あいよ!」


「せーので行くぞ、せーのっ!」


「「ふんっ!」」


「おぉ、お前意外と力あるな!」


 そこには、上半身裸の男が村の人たちと一緒になって何やら作業の手伝いをしていた。


「こう見えても体鍛えてたんすよー」


 そう、その男とは元魔王ことサタナである。


「ばあちゃん、こりゃいい拾い物したな!」


「ほっほそうじゃろ」


 村長のことをばあちゃんと呼ぶ男は村長の孫にあたる人物で名をラートといった。


「こりゃ、今度の大会は楽しみだぜ」


「大会?」


 サタナは初めて聞くワードを問い返す


「ああ、5年に1度この村では腕相撲で力比べをするんだ。そんで、優勝したやつが村長」


「はぁ?そんなんで村長決めるんすか!?でもちょっと待ってください。じゃあ村長って...」


「その通り、この村ではばあちゃんが最強を誇って40年位経つぜ」


「強すぎでは!?」


「あぁ、もともと強いことは強かったんだが、もう若いものに負けるだろうと言われ始めた頃にまた一段と強くなったんだよなぁ...」


 そういってラートは懐かしむようにな表情になった。しかし、それも束の間


「そんなことより、早く終わらせちまおうぜ!」


 と仕事に戻るのであった。


 仕事とは村の周囲を囲む柵の補修や改修であった。なんでも、この辺ではたまにだが低級魔族が現れることがあり、それらから身を守るために柵を立てているのだという。


「お昼できましたー!」


 遠くからリリアの声が聞こえた。サタナが柵の仕事を手伝っているのに対し、リリアは炊き出しを手伝っていた。

 

 仕事をしていた村の男たちが歓声を挙げながら、持ち場を離れて集まってくる。


「いやぁリリアちゃんの手際が良くて助かっちゃったわー」


「いえ、そんな、私なんて全然です」


 リリアは少し照れながら、たじたじで答えた。


「なに!?これはリリアの嬢ちゃんの握った飯かい?うめぇうめぇ」


 村の男の1人が握り飯を頬張っている


「それはあたしが握ったやつだよ」


 先ほどリリアをほめていた如何にもおかんといった女性、シルバが答える


「なんだよ!期待させやがって!」


 周りから笑いが起こる。


「なんだか、すげぇ落ち着くなぁ」


 サタナは1人で呟く。


 すると隣にリリアが腰を掛け


「朝は気が動転してて、気が付かなかったけどサタナもご飯食べるのね」


 と少し声を小さくしながら言った。


「そういやそうだな、今までは腹が減るなんてなかったのに...この体だからか?」


 サタナは自分の体を改めて見つめ直す。


「でも、腹が減るっていいな、飯を食って美味いと感じられる」


 サタナはそう言って笑った。


「リリアの手料理も今度食わせてくれよ」


「わかったわ、楽しみにしてて」


 リリアはそう言って笑い返した。


「あ、でももし生活が今後苦しくなるようなことがあったら、あっちの姿でいてね」


「おい、そりゃないだろ!飯食わせてくれないのかよ!」


「ふふっ冗談よ」


「ほんとかぁ?」


 リリアはこの先もともに過ごすこと前提で話をしていたのだが、そこにサタナは気が付かなかった。


 

「よっしゃ、飯も食ったし残りをさっさと終わらせるぞお前らー!」


 そうラートが声掛けをする。


「じゃあ、仕事の続き頑張ってねサタナ」


「おう!」


 リリアに元気よく返事をしたサタナは持ち場に走っていった。


 サタナが途中で村の人たちと話している姿を見ていたリリアは無意識に顔を綻ばせる。自分たちがもうだいぶ村に打ち解けていることを実感し、安堵と村の人たちへの感謝の念を感じていた。


 その様子を見ていたシルバは


「なんだい?そんな顔してサタナを見つめちゃって」


 とニヤニヤしながら聞いてきた。


「なんでもありません!///ただ、よそ者の私たちを村の皆さんが受け入れてくれたことに感謝していたんです!」


 リリア早口でサタナのことは伏せて、それでも決して嘘ではないことを言った。


「おやおや」


 シルバは今度は暖かい表情になって


「うちらは村長に言われたからってのもあるんだけど、うちらがそうしたいからあんたらと接してるのさ。それに村長は人を見る目は確かだからね」


 リリアは目に少し涙を浮かべながら


「本当にありがとうございます」


 と、再度は感謝の言を告げたのだった。


 きっとこの人たちは自分が勇者だってことを知ってもなお変わらず接してくれるのだろう。しかし、その情報がなんらかの拍子で外部に漏れれば、自分だけではなく村にまで迷惑をかけてしまう。そのような事態は避けなければならない。


 リリアは身元を明かしていない後ろめたさを抱え、笑顔に若干の影を作りながらその場を後にした。


 

 夕方、仕事を終えたサタナがはなれに戻ってきた。


「いやー疲れたぜー、こんだけ疲れたのは久しぶり...いや、リリアと戦った時以来だから久しぶりじゃねぇのか」


「お疲れ様、はいお水」


「ああ、サンキュー」


 サタナはリリアから差し出された水を呷ると体を伸ばした


「どうも、この体は構造が人間とまるっきり同じみたいだ。魔王の時とはずいぶん勝手が違うが、これはこれで良いな」


「サタナの体の謎については今後調べていく必要があるわね。サタナの親がいれば直接訊けるのに」


 そこでリリアははっとなって再度言葉を紡いだ


「そういえば、サタナって何歳なの?」


「んぁ、確か20年位経ってるとは思うぞ。まぁ魔族の中じゃひよっこだがな」


 サタナは欠伸混じりに言った。


「へぇ、じゃあ私とそんなに変わらないんだ」


「リリアは何歳なんだ?」


「私は今年で18よ。でもそうね、ってことはサタナの親もきっとまだ元気ね。魔族が何歳まで生きるのかは知らないけれど」


「生きているとは思うがな、なんせ顔もよく思い出せないからな。まぁ魔族だと大体数百年ってとこだな」


「数百年ってずいぶん振れ幅があるように聞こえるけど」


「まぁ種族によっても違うからな」


「それで?じゃあサタナもその位生きるの?」


「あっちの姿ならそうだろうけど、こっちの姿を維持し続けたらどうなるのかはわからねぇ」


「まぁそうよね」


「でも、たぶんもうあっちの姿にはなりたくねぇな」


「ん?どうして」


「だって、そうなるってことは力を使わなければいけないときだろ?そんな状況になってたまるかよ」


 そう、この時リリアは理解したが、サタナは人間として人生を歩むことを決めていたのである。


「それに、俺だけ長生きしてたら、リリアが一人になっちまうだろ」


「っ...///」


 リリアは顔を赤くし、少しうつむきながら小さな声で


「ありがと」


 とだけ、言うのであった。



 

サタナとリリアが村に馴染んでいく話でした。

面白い、続きが気になるという方はブックマーク、高評価してくださると嬉しいです!!

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